Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

016 『博品館パンチラ写真事件』検閲だな、これは。でも記事の下書きは残してくれている。英語で高杉晋作を語れば検閲削除必至です、はい。lololol

舞台はわがメインプログ、one shot, a piece of cake and a glass of beer @ Tokyo
http://blog.goo.ne.jp/hisamtrois_e/

1.発端

はGooが有料化キャンペーンで一月ほど悪席アクセス解析の有料バージョンを無料サービスしてくれていたことだった。
誰がどんな見方してくれてるか、なんてことにはもともと関心が薄いのでほったらかしにしていたのだが、二日続けて休めた時間と体力の余裕から、ひょいとクリックした。
有料サービスには、読者が何処から来たかとか、検索語はなんできてるかとか、興味ある人にはあるだろうけど、一方的発信エゴチストには無縁の情報が並んでいる。この何処からというのが、他人のブログやサイトだったりするので、あれ、これは?ひょっとして、中村正三郎さんのブログじゃないかというのがあった。昨日のデータである。
中村さんのブログにコメントつけたりしたのは、いつのことだがもう忘れてしまっているくらい大昔のことです。今でも、毎日アサヒネットの会議室の情話サロンはチェックしてるけど、ブログに飛んでいくことは週に一度くらいのもの。
クリックしたら、なんとアーカイブへ飛んで、04年の11月の乳の詫び状(2004/11/25)だった。

2.乳の詫び状(2004/11/25)

kokokara-------------------------------------------------------------
 ASAHIネットのjouwa/salonから。
標題: 資生堂、映画「海猫」にも横槍?

    • -

 匿名希望さんから。

      • ここから ---

中村様
いつも拝見させてもらってます。

さて、「ギター侍vs資生堂」についてなのですが、新作映画「海猫」について
も、資生堂、横槍をいれているみたいです。
http://movie.maeda-y.com/movie/00421.htm

伊東美咲はいくつかの会社のCMに出ているので、資生堂と決まったわけではあ
りませんが、体質的に見てやっぱりそうじゃなでしょうか。

噂の真相の記事にもありましたね。BSEをめぐって、圧力をかけまくった、と。

しかし、伊東美咲のヌードが見れなくなったのは・・・

残念。

      • ここまで ---

 なるほど、そういうのことってあるんでしょうねえ。
 ところで、伊東美咲って誰?\(^O^)/
 知らねえのかよっ!
 あ、思い出した。昨夜、おれんちに泊まって行った女優さんね。そうかそう
か、おれは生ヌード見たから、映画はどうでもいいや。\(^O^)/
 テキトーこといってんじゃねえよ(怒)。

 ASAHIネットのjouwa/salonから。
標題: Re: で、何色?\(^O^)/

    • -

http://blog.goo.ne.jp/hisamtrois_e/e/ac07e680fa4f8583554df44e7526cde1

各自の目で確かめられたい。(笑い)

元ビル管理人の久光@山積みってほどじゃあありませんでしたね(汗)

===
標題: Re: で、何色?\(^O^)/

    • -

 わざわざありがとうございます。
 これで、植草某も安心して寝られるでしょう。\(^O^)/
 おれも安心した。
 などと書いたけど、これ、やっぱ、異様な光景ですね。
 周りがクリスマスっぽいのに、ここだけ、ミニスカはいた下半身だけあるん
だもんね。これ、やっぱ、夜になると歩き回るんだろうな。\(^O^)/
 そのうち、銀座で、酔っ払いがミニスカの下半身だけが歩いているのをみた
なんて騒ぎ出すんだろうな。
 その酔っ払いって、お前だろ!
 はい。\(^O^)/
koko-------------------------------------------------------------made

3.発覚・追跡

なあんだ、例の膝枕の写真だったか。しかし、中村さんのブログってのは10年前の記事でも読まれているのか!さすが!と感心して、コメント投稿した中のURLをクリックした。
あれ?んんんん?なんだって!
URLが見当たらない!って?!??!!
俺のブログが消滅かい?
いやある。
じゃ、記事だけが消えたか。ははあ、これが噂に聞く過去記事消失事件ってやつか。
記憶と中村さんの記事の日付からこれは04年の11月の記事のはず。
あれ、ないぞ!なんで?
というので、下書きメモファイルを引っ張り出して、検索して記事の題を見つけた。
#194 les genoux (博品館の膝枕)
で、「11月」の記事を再び見直す。前後の記事はある。のに、これだけがない。その記事本文。
写真はつけてもいいけど、やめておこうか。
kokokara-------------------------------------------------------------------
04b22003.jpg

This is LAP PILLOW.
With his head on her lap, the most famous terorist in Japanese history sings,
"If I killed all of crows in the three thousands worlds, I could sleep well in the morning."
The special sale price is 9,429 yens (including tax.)
This picture is not a mood in Ginza(銀座) but in Kabukicho(歌舞伎町).

(@銀座 Ginza)
koko-----------------------------------------------------------------------made

あちゃあ、テロリストのスペル間違ってるじゃん!lololol
ま、確かに書いてあるし、削除したときは、ファイルの先頭の仮置き場にカットアンドペーストするのが習慣だから、確かにアップしたままのはず。

4.「草稿」を思い出して、再発見。

うむ、ほんとに消えてるけど、標題くらいインデックスに残ってないかと、記事一覧を調べた。これが、古いものほど、見つけにくいのです。ま、どこのプロバイダもそうだけど。
お、あった!
え?[状態}が「草稿」で「公開」になってない!
なるほどね、Gooめ、勝手に検閲してくれたんだ。それで、一番簡単な、[状態]を変えるやりかたで公開を取り消してくれたんだ。
プレビューで、記事を見る!おお、しっかりと白いショーツがちらりと、黒と赤のミニスカートの奥に見えてる・・・・これかい!原因は。
おまけに本文には、terrorist と Kabukicho、あ、それに「皆殺し」(If I killed all...)なんてはいってるもんなあ、自動ロボット検索じゃあ、引っかかるかあ。それにtama/kin なしのサラリー泥棒マンのネット管理者なら触らぬ神に祟りなしって行動パターンだろうなあ。ご同情申しあげます。

5.謎は解けた、あとは再掲載公開するかどうかだ。

写真だけ、セロリのビーチハウスにのせようかなあ。日本語記事なら、多分大丈夫だろうと思う。
「これは膝枕。
高杉晋作だっけかなあ、あの幕末テロリストの親分の。
三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい ってのは。
特価9429円税込み
銀座っていう雰囲気じゃないね、歌舞伎町だよね」
英語じゃあ、やばいんだろうな。すっかり全部読まれ見られさわられてる今は。lololol
(アカウント取り消しなんて怖いことをしてくれなかったGooさんの担当に感謝、でもまあ、そんな時代も直ぐそこまで来てるかもね、abe何がしなんてのが首相やってるし、その支持率の高さを見てると。)

ブリジット・オベール「マーチ博士の四人の息子」 フィリップ・カー「屍肉」 乃南アサ「駆けこみ交番」

本当は、六月上旬で書くべきだった三冊をずるずると延ばしているうちに、ついに晦日。lololol
ほんと、最近、ボーっと本を読んでるうちに休みの日が暮れてしまう。阿佐ヶ谷のお気に入り古本屋が5月31日で閉店。あそこで買った50円均一ワゴンセールのブリジット・オベールを奇しくも、5月末に本棚の奥の積読コーナーで発見して読んだ。もう、50円のワゴンセールをやってる本屋は阿佐ヶ谷にはなくなってしまったのだなあ。

ブリジット・オベール「マーチ博士の四人の息子」堀茂樹・藤本優子訳、ハヤカワ文庫 1997年、100円(定価600円)

”Les Quatre Fils du Docteur March” by Brigitte Aubert, 1992
ブリジット・オベールは以前「森の死神」を紹介したことがある。アサヒネットのミステリパラダイス会議室にアップしたのを再掲したものだった。あれは、フランス心理ミステリの極限の佳作だった。もう9年以上たってるんですねえ。
http://d.hatena.ne.jp/mysterydancer/searchdiary?word=%A5%D6%A5%EA%A5%B8%A5%C3%A5%C8%A1%A6%A5%AA%A5%D9%A1%BC%A5%EB&.submit=%B8%A1%BA%F7&type=detail
医者のマーチ博士夫婦には四つ子の息子達がいた。医学部学生、音楽院の学生、弁護士見習い、電子工学専攻の学生。マーチ家の新しいメイドのジニーは、刑務所で二年服役した過去を隠し別名でマーチ博士の家にやってきて、四人の息子たちに紹介された。で、ある日、彼女は家の中を掃除してまわっているうちに病気で外出ができなくなった夫人の部屋の外出用コートの中に「日記」が隠されているのを発見して読んでしまった。その日記は、「殺人者の日記」だった。その日記には最初の子ども時代の殺人の記録と告白が書かれていた。
殺人者が日記を書き始めた動機は、「ぼくは誰にも話すことができない。当たり前だ。だって、ぼく自身が誰でもないんだから。『だれでもない者の覚書』、こいつはなかなか面白いタイトルだと思う。」と動機を書いた後、自己紹介が続く。「うちの家で、ぼくらは四人だ。四人の男の子。パパはドクター、つまり、お医者さんだ。ぼくら四人の息子は・・・・ぼくらは互いにすごくよく似ている。これは不思議なことじゃない。なにしろぼくら四つ子なんだから。そう、ぼくらは四人とも同じ日に生れたのさ。」
続いて、無差別な殺しの喜びが語られる。
ジニーは、日記を毎日読み続け、逃げ出す気持ち半分、犯人探しの誘惑半分のうちにズルズルと日を重ねてしまう。
そうして、ジニーもまた毎日日記を書き出す。
話は殺人者の日記とジニーの日記が交互に語られることですすんでいく。そのうち、殺人者は日記がなにものかに読まれていること、なにものかがジニーであることをつきとめたことも日記に書かれる。ジニーはそれを読んで恐れおののくが、殺人者のターゲットが近所の女性だったり、家族の古い友人の娘だったりするのに油断して、逃げ出す時を伸ばしてしまう。さっさとみんな捨てて逃げろよジニーと思いながらズルズルと舞踏派はジニーに引きずられるように読んでしまった。
そうして、殺人者の手がジニーに伸びる夜がやってくる。
サスペンス。
ブリジット・オベールのデビュー作品です。
訳者コンビは、ジニーの日記を藤本が、殺人犯の日記を堀が訳出して、最後に日本語を調整したそうです。その効果は十分に出ているようで、ジニーの心の震えが伝わりすぎるくらいに伝わってきています。犯人探しは殺人者の日記の初日の動機と自己紹介の内に指摘できるはずですが、同時にうまく掘られた落とし穴にほとんどの謎解き挑戦者は落っこちるでしょう。(舞踏派同様に)そうして、ジニーといっしょに震えながら最後に心臓が凍る思いをするでせふ。
佳作ですが、森の死神の方がずっとずっとplus merveilleuse です。

フィリップ・カー「屍肉」新潮文庫 1999年、50円、定価600円、東江一紀

“Dead Meat” by Philip Kerr, 1993.
アメリカ人作家が書いた、ロシア警察小説。時は、ポスト・ペレストロイカで、チェルノブイリ事故ははるかな昔。主人公は、モスクワ中央内務局調査部中佐。中佐としか呼び名は書かれて、名前はわからない。マフィアとの癒着疑惑のある地方警察、サントベテルブルク中央内務局刑事部組織犯罪課大佐のイヴケーニー・グルーシコを調査する極秘任務で、表向きはサントベテルブルクのマフィア情報集めに出張してくるところから物語が始る。
グルーシコは『旧ソヴィエト連邦最初の調査報道記者にして国民的英雄に近い存在』のジャーナリスト、ミハイル・リューキン殺しの捜査を始めたところで、中佐も手伝うことになる。
リューキンは何故殺されたのか?少しばかり、プーチン大統領(あれ今は首相だったかな)の下での真のジャーナリスト(日本にはほとんどその名に値するものはいないらしいが)は、かなりの確率で暗殺されているらしいなんて情報を持ってたりすると、ついその線で、犯人グループを旧KGBと結びついてる経済マフィアの方へ疑いを強めつつ読み進むことになるのだが、まあ、実は、チェルノブイリ事故後の新たな放射能汚染が背景になっているという、日本にとってはこれから表に出てくる恐怖を連想させる話になるのですね。でロシア的正義漢のグルーシコ大佐は中佐調査にもかかわらず清廉潔白で、おお、ロシアの未来は明るいかもしれないと読後感をもてるのです。
このミステリに書かれたチェルノブイリの現実的利用方法を読むと、福島原発地域に限らない、日本原発地帯の未来が暗澹たるものであるということが実感できます。どうせ、今になって禁煙したって、発ガン率は少ししかさがらないから、喫煙はやめないぞという論理で原発稼動させていたらどうなるか、その答えがこのミステリの中にあります。

乃南アサ「駆けこみ交番」新潮文庫 2007年150円 定価630円+税 初出2005年

交番勤務巡査高木聖大が主人公の警察小説。第一作は警察学校を卒業したばかりの聖大が配置された城西署管内の霞台駅前交番を舞台にした「ボクの町」。こちらは読んでないので感想を書きようもないのだけれど、解説を読むと、けっこう問題児だったようである。だが、「様々な事件を経験することで、警察官としての自覚を持つところで」第一作は幕を下ろしているそうな。 で、この第二作は世田谷区等々力警察署管内の不動前交番が舞台なのです。
もちろん城西警察署も等々力警察署も架空警察署であることは、下の警視庁のホームページの警察署一覧にないことで確かめられます。lololol
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kankatu/kankatsu.htm
霞台駅前交番が事件につぐ事件で忙しかったらしいのが、不動前交番は一転して無風地帯の交番PB勤務なのですね。問題があるとすれば、同僚の鼻ツマミ者の先輩の主任で、暇なだけにその鼻ツマミ度もアップするということくらい。地域の住民、特に老人達に聖大は受けもよくて、けっこう頼りにされて、また地域情報源にもことかかない。これで鼻ツマミ主任がいなきゃあ天国交番勤務みたいなもの。4つの中篇がならんでいます。
一番目が「とどろきセブン」という題どおりの、爺さん婆さんの七人組が聖大を気に入って昼飯に始終招待してくれるうちに、クレオソートの匂いのする老人家庭の様子が以前と違うという情報を教えてくれた。そこで、巡回連絡簿を片手に訪問して二番手柄をあげる。一番目は、交通事故現場の目撃者を職質して手配中の殺人犯人を逮捕したもの。
二番目は「サイコロ」のようなモダンな住宅に住んでいる裕福な母子家庭の問題をあつかった事件。子どもたちが家出したのか、誘拐されたのか行方不明になって、露になったゴミだらけの家庭での子どものネグレクト。解決に裏からとどろきセブンが働いていることに聖大は気がついたが知らん振りをするのです。
三番目はとどろきセブンの真の姿があらわになる「人生の放課後」。最後が犬の誘拐詐欺事件を扱う「ワンワン詐欺」聖大が解決するというかやっぱり、とどろきセブンプラス聖大が解決するのだが、聖大はとどろきセブンの一人一人の送ってきた人生をしみじみと味わうことになる。同時にどうやら、恋人も見つかったようなところで、今回は幕が引かれた。

017 佐々木味津三「旗本退屈男」佐野洋「片翼飛行」島田一男「0番線」

佐野洋が、先月亡くなった。ちょうど、「片翼飛行」を読んだばかりだったから、印象深かったんだけど、佐野洋はほとんど読んでないんだ。lolol. 「推理日記」のうち何冊かは本屋で立ち読みした記憶があるし、他にも読んでるはずなんだけど、全然覚えてない。子どものころせっせと、買えない本を(例えばエロティック・ミステリーとか、実話と雑誌の題についているのとかlololol)立ち読みしてたときに、佐野洋の名前があったんで、翻訳物を読むようになってからは、抵抗値が高かったのかもしれない。
ま、佐野洋にかぎらず、3月4月と体調が崩れて、本の整理をしとかないとやばいとか、読んでない本が残るのは癪だなあと思って、積読の掘り出しをしてなるべく読むようにしていた。読んでみて、やっぱりあかん、合わないと思ったら即捨てるという・・・まあ、そういう歳なんですね。ま、なんとか佐々木味津三は読んだけど、やっぱりこれはしんどかった。佐野と島田はそれなりに読める。というか、小説の構造が今と同じなんですね。佐々木の場合は、うん、やっぱり違う。大きく違う。
三冊の表紙の写真が舞踏派=Cakeaterのブログにアップロードされてるから、リンクを張っておきましょう

佐野洋「片翼飛行」集英社文庫1977年 100円(定価360円)

NWA航空東京支社長付秘書の中内光江が支社長への電話に出ると、「503便の目的地変更を要求する」と日本語で脅迫電話が入るのが事件の発端。当該便のパイロットの愛人を誘拐して、目的地変更をしないなら、その愛人のホステス宮森陽子を殺すというもの。一応、支社長はパイロットとカンパニーラジオ無線で連絡を取り、そんな女は知らないという答えを根拠に犯人の要求を断った。翌朝、光江はホステスの青酸カリ毒死死体が発見されて、名前が宮森陽子と知って、支社長(というよりボスという方が雰囲気がありそうなんだが、佐野はそんな品のなさそうな言い回しはしないんだ。lolol)に報告すると、ボスは沈黙するように要求した。ところが、自殺他殺と決めかねている刑事たちのもとに週刊中央の記者とだけ名乗る男から、NWAに聞き込みに行けという電話が入る。支社長は一切無関係の筋書きで、機長の記者会見までして、知らぬ振りを通して、ついでに光江も解雇されてしまう。
ここから光江の冒険物語が始まる。セスナを5人で共同所有しているアマチュアパイロットの『2Bグループ』という会があって、女子メンバーはオリジナル5の誰かの紹介で加わることになっていた。その女性会員の一人が被害者で、光江は新しい二人目の女性会員になったばかりだった、当然、光江はもう一人の女性会員の名前は知らなかった。ところが、警察の調べがすすむと、NWA航空の関係者とこの2Bグループの人間関係がクモの巣が出来上がっていくようにつながり始め、そのネットに引っかかってこないが、フリーランスの外人記者まで光江の周りにあらわれてくる。光江はその不良外人記者に暴行までされてしまう。さらに2Bクラブ会員の医者が殺され、元NWAのスチューワデス(死語ですね、今では)のアメリカ人が現れたかと思うとアメリカから持ち込んだ最新の軽飛行機を操縦したまま墜落死するわで、佐野洋は読者の推理の焦点を拡散しまくるのです。最後は犯人に誘拐された光江がセスナの操縦を強制される大空のサスペンス活劇(犯人は操縦できないんですlololol)。
本格物ミステリを読むときの定石通りに登場人物メモを作りながら490頁を読んでいくとリストは延々と長くなるだけで、せっかく誰かが死亡してくれて消去法推理の助けになるか思うと、なにせ裏の謎(なぜハイジャックが企てられたのか、被害者殺害動機はなんなのか)がさっぱり読めない。で、読むのを止められない。LOLOLOL
佐野の東大文学部同級生の増田れい子が見事な解説を書いてくれています。
ああ、そういえば、増田さんも去年の暮に亡くなったんですねえ。
彼女はこう解説を結んでいる。
koko---------------------------------------------------kara
一人一人の登場人物に、作者がつまらぬいえこひいきをしていない、一人一人が将棋のコマのようにその一定の役割を負いながらきちんと行為していく、その整然としたコマはこびがまたこころよい。
都会的でスマートな作品である。この作者の特徴として、自然の描写、風景の点描などは一行も出てこない。「人工的なもの以外には興味がない」そうで、それは徹底している。事件が起きてから解決まで、ちょうど八日、季節はいったいいつなのか、登場人物がよくアイスコーヒーをのむから夏──であろう。
koko---------------------------------------------------made
大岡信はまだこの世にあるけど、日野啓三も二人より十年も早く逝ってしまった。そう言えば稲葉三千男さんも日野と同じ年になくなってた。あ、佐野洋の洋は「よう」と読みます。
合掌。

佐々木味津三旗本退屈男春陽文庫 1993年 春陽堂書店250円(定価600円税込み)

1929年4月に「文芸倶楽部」に「旗本退屈男」で現れたと思ったら、1930年10月には映画になってる。サイレント映画時代です。『痛快時代小説』ってジャンルの代表作家です。でも、37歳で過労死してる。。。
時代的には、菊池寛芥川龍之介の時代です。ミステリとしては、「右門捕物帖」の方がまだ、現代感覚で読める読み物だと思うんですが、この旗本退屈男11話(『旗本退屈男』『続旗本退屈男』『後の旗本退屈男』『京へ上がった退屈男』『三河に現れた退屈男』『身延に現れた退屈男」「仙台に現れた退屈男」「日光に現れた退屈男」「江戸に帰った退屈男」「幽霊を買った退屈男」「千代田城へ乗り込んだ退屈男」)、ほとんど地の文で話が進まず、会話文でポンポンと進むとこなんか、ひょっとして超前衛的エンターテインメントなのかも。とにかく、声に出して読むと抜群に楽しい。
「待て、待て、待たぬかッ。うぬも二本指しなら、売られた喧嘩を買わずに、逃げて帰る卑怯者があるかッ。さ!抜けッ、抜けッ。抜かぬかッ」が、最初の脇役で斬られ役の台詞。で、ヒーロー(立役と書くべきかなあ)早乙女主水之介の最初の台詞は、「うろたえて何ごとじゃ」
主水之介は、「そうか、わしが分らぬか。手数をかけさせる下郎共じゃな。では、仕方があるまい。この顔を拝まして使わそうよ」と眉間の三日月形の刀傷を見せると、悪役も江戸っ子ならば、見ただけで相手が悪いと捨て台詞を吐いて逃げ出す。。。というのがお約束。
主水之介をなんと読むかに始る、1920年代日本語の漢字読みってのは面白いものです。筋よりそっちの方がおもしろいです。
読めますか。
1.主水之介 2. 手嗜み 3.大変れ物 4.短檠に 5.身の冥加 6.端役者 7.銀蛇 8.生血 9.右手に擬す 10.逃してつかわす砌 11.不埒な奴よ喃 12.目貫々々の湯屋床屋 13.別嬪 14.藁店 15.隈明り 16.幔幕 17.生欠伸 18.鹿革印伝の煙草入 19. 足手纏 20.大人履き

読めたけど意味がわかんない?かもね。こんなのは簡単という方には、書き取りにしませふか。

21.身の程もわきまえぬ「そはいども」 22.九本の刃を「やらいめじん」に備える 23.がにまた 24.かくさず「ありてい」に申しあげろ 25.一番のご「きりょう」よしじゃとか 26.ふらちもの 27.「だん」が違うわ。急いでそちも地獄へ参れ!28.京見物と「しゃれこみ」ました 29.「あいかた」は、何と言う太夫じゃ 30.「きげんきづま」を取り結ぶ 31.お「だいじ」の品 32.うすひきおんど 33.遠つ「みおや」の昔 34.空はいち面の「いわしなみ」 35.天地自然「げんみょうまかふしぎ」 36.人前も「わきま」えず 37.「かんしゃくすじ」に血脈を打たせ 38.「ぶった」切る 39. 「いんもつ」献上品 40.「きょうくお」く能わない

いや、なんといっても、「喃!」ですね。子どもごころにも覚えているので、聞けばなつかしいんですが、こんな漢字だったかと還暦過ぎて知った。lololol
「ねぇ」は「のぅ」だったんです喃。
解答
1.もんどのすけ 2.てだしなみ 3.おおのたれもの 4.たんけいに みのみょうが 6.はやくもの 7.ぎんだ 8.なまち 9.めてにぎす 10.のがしてつかわすみぎり  11.ふらちなやつよのう 12.めぬきめぬきのゆやとこや 13. べっぴん 14.わらだな 15.くまあかり 16.まんまく 17.なまあくび 18.しかがわいんでんのたばこいれ 19.あしでまとい 20.おとなばき 21.鼠輩共 22. 矢来目陣 23.蟹股 24.有体 25.縹緻 26.不埒者 27. 段 28. 洒落込み 29.敵娼 30.機嫌気褄 31.お大切 32.舂引音頭 33.御祖 34. 鰯波 35.玄妙摩訶不思議 36.弁 37.癇癪筋 38.打った 39.音物 40.恐懼措

島田一男「0番線」徳間文庫 1984年 徳間書店 初出 東都書房 1962年 50円(定価300円)

佐野洋が4代目の日本推理作家協会理事長ですが、島田は3代目です。(2代目は松本清張、初代は江戸川乱歩。ええと、今は確か13代目の・・・・まあ、誰でもいいやlololol)
昔、国鉄だったころ、鉄道公安官という鉄道警察があったんですね。そこら辺はウイキペディアに詳しくかかれてますので、略しましょう。
主人公探偵はその鉄道公安官。東京公安室操作班長海堂次郎、35歳。
(うん、字が細かいなあ。乞食軍団よりさらに字数は多いです。44字の18行。lololol)
旅の始まりは、海堂が東京駅十番線に立って、急行『那智・伊勢』が午後八時ぴったりに出て行くのを見送っているところからはじまる。(ちなみに、多分十番線は「とおばんせん」と鉄道関係者内では読んでるはずです。車庫なんかでアナウンスを聞くときに、「じゅう」と「とお」は聞きやすさが全然違う。でも、お客さんへの案内ではじゅうばん線とアナウンスしてたようなきもする。とおひと番線、とおふた番線とおさん番線・・・・とおなな番線。これがじゅういち番線とじゅうしち番線となるとほとんど割れたスピーカーでは区別がつかない。)  
で、次は十二番線大坂行き急行『第二せっつ』十四番線金沢行き急行『能登』。そこで、海堂班長は『能登』の一等寝台券を拾った。まだ11分あると、海堂は『能登のオロネ』(一等寝台車の型がオロネ二十と呼ばれるB型車だったから、オロネに行くと言えば同僚はそれで分るのですね)に向かう。寝台車について、『寝台ポーイ』を呼んで、寝台券紛失の申し出がなかったかどうかをたずねたが、該当者はいないという。発車ギリギリまで寝台券の持ち主をアナウンスで呼んでみたが誰も現れなかった後、海堂は改めて寝台券を調べたら、薄い鉛筆の走り書きで「助けて・・・・・・殺される・・・・・」とあった。
翌日、海堂は交通公社の切符販売の記録から、券の買主を見つけて(ここらへんが死亡大事故多発時代が過ぎ去ったばかりの鉄道ですね、乗船記録ならぬ、券買記録がちゃんとある。)『中野八幡通りの小杉京子・・・・・・。年齢は二十四歳ですな』を突き止める。乗車券、急行券、寝台券を各二枚ずつ買っていた。申し込みには番地まで書かされていた時代だから、海堂は住所を訪ねていけたのですね。訪問してみれば、豪邸だった。その女性との会話が面白い。
「鉄道公安官て、つまり、鉄道守備兵でしょう?」
「鉄道のおまわりさんといわれたことはたびたびだが、守備兵といわれたことははじめてですよ」
「あたし、満州生まれなの、父が、鉄道守備隊の司令官をしていた時に生れたのよ」
「すると、お父さんは・・・・・」
「もと陸軍中将よ。意味はないわねエ・・・・・。」
ところが、彼女、小杉京子は切符なんか、買ってなかった。
海堂が東京公安室に帰ると、「能登」のオロネのボーイからの連絡メモが待っていた。『席には中国服の女性、東京駅から乗車、大聖寺駅にて下車。』
人名録から京子の父、小杉隆太郎が、新橋アーケード・センター連合会を興して、会長をしていると分った海堂は新橋に聞き込みに出る。そこで、小杉の女がバーのママをしてると聞き込み、その店に出向くと、(流れているのがシャンソンの『枯葉』ってのも時代色ですねえ)留守番の女がママは盛岡へ旅行中と教えてくれているところへ、名前を騙ったのは『ママ』ではないかと小杉京子がバーを訪ねてきた。行き先が盛岡と聞いた京子は二人目の候補者の店、小杉の二人目の女の美容院へ海堂を案内する。美容院のママも伊豆大島へ帰省中だという。
東京へ戻ってきたボーイが公安室をたずねてきて、途中で降りたはずの白い中国服の女性を金沢で見たという証言をする。首を二人でかしげているところに、「ハイカラな中国服の女が新橋近くで、列車から転落死した」という連絡。海堂はボーイをつれて現場へ赴いたら、玉虫色の中国服の女のヒスイの髪飾りがボーイの見た女性と同じだった。女の切符は名古屋から東京だった。
その上、北陸本線と富山山地鉄黒部線のクロス地点でも、中国服の女の死体が見つかる。
典型的な鉄道ミステリのクラッシックです。
アマゾンの中古品では1円でズラズラと出てきます。他の本といっしょにお買いになれば、お買い得のミステリですよ。なんといっても、上質なタイムスリップを味わえます。こういう時、今の地図をGoogle map で見ながら、時刻表も今のを見ながら、のんびりと読むのが、一番。まちがっても、電車の中で読んだりしちゃあいけません。
舞踏派は、他の鉄道公安官シリーズを注文しようかなと思っております。今のミステリにかけているものをじっくりと味わえます。新幹線じゃあね、ましてリニアじゃなあ、電車はゆっくりしてればしてるほど、旅と時間を味わえるというもの。lolololol

大倉崇裕「小鳥を愛した容疑者」門井慶喜「おさがしの本は」蓮見恭子「女騎手」野田昌宏「銀河乞食軍団禿蔓草107号、只今出動!」

読むだけは一日一冊以上、ひょっとして二冊に近いかもというペイスで読んでいて、それにコミックが二冊以上のペイス。読むだけだったら、体調が眠れないくらいに悪くさえなければ、読んで眠って読むで、ペイスは落ちないのだけれど、書く暇はよほど健康じゃないと書けないな。というのに、3月から4月にかけての天候不順で体調不良、それでも休めてれば、少しは書けたかもしれないが、仕事が残業30時間という『恵まれた』状況だったから、全ブログ(英語が二つ、日本語が二つ)みんなお休み状態だった。

野田昌宏「銀河乞食軍団<外伝2>禿蔓草107号、只今出動!」ハヤカワ文庫1987年460円(杉並区立中央図書館所蔵)

野田昌宏の「銀河乞食軍団」シリーズは舞踏派にとってのThe Book なのです。なのに、本編全巻、外伝4巻の全てを揃えたいと思っているのに、この外伝の二巻目がどこにもないのですね。もともと、長編大好きな舞踏派は外伝は本編が全て終わってから揃えようなんて後の楽しみを企んでる性質なもんで、気がついたら外伝は1と4しか新本では手に入らない状態になっていたのが、1995年ごろの話。そのころ、LAの旭屋で3を見つけたときはうれしかったけど、2はどうしてもなかった。そのころアマゾンなんてなかったしね。戻ってきて、荻窪の区立図書館に1冊だけあるのは知っていた。中野の図書館で検索したら、東京中でただ一冊だけあったのだった。
というので、ついに図書館デビューとなった。高円寺のサービスセンターで登録してカードを作り、やっと、ほぼ15年越しのデートです。
あれ、こんなに活字が小さかったかなあというのが、最初の感想。一行43字。大倉ので数えてみたら38字。一頁の行数も18行、大倉は16行。これって、日本人の目が悪くなってるってことかなあ?
(5/23 追記:活字について;あれ、「外伝3」1990年は、41字16行。活字が大きくなってる。頁数は350頁から290頁に減って、価格は460円から408円税込み420円、ふうん、そうだ、消費税なんて余計なもんを取られるようになったんだ。イラストとも表紙絵も加藤直之で変わらないけど、3の方は、ネンネのリアルな美貌が画かれてある。lolololol)
内容は中篇4篇。外伝は〈星海企業株式会社〉の金平糖錨地整備基地の整備工班長お七ネンネの物語なんだけど、この二人が面倒見ている〈花組〉のおネジっ子の三人組くう子ひな子はな子もレギュラーメンバー。この三人組のヤンチャがお姉さん二人を巻き込んで、いつも危機一髪の事件が巻き起こるというわけ。
1.金平糖錨地、清純乙女強盗団
   おネジっ子の三人組の様子が変だと気づいたお七とネンネが寝た振りをしてると、三人組が夜更けに抜け出していく。二人は三人を尾行していくと、三人は削岩機やら鎖鎌をもって、見知らぬ女の子と合流、鉱山会社の小惑星に艀で渡っていった。その女の子は鉱山主の一人娘で、その恋人が父親に小惑星の上の小屋に監禁されているのを救出しようという話。まあ、三人たちじゃあ、タフな親父殿とは渡り合いきれなくなり、お姉さんたちの出番というわけ。圧電素子材料鉱石のネタで、ちゃんとSFどたばたコメデイになって正義は勝つ!ってわけですね。
2.禿蔓草107号、只今出動! 
星海企業株式会社内の救難訓練が舞台です。惑星白沙(しろきすな)の本社白沙基地から仮想遭難船が出て、それを金平糖錨地基地から救難部隊が出動するというのが毎年の想定。両基地の対抗意識もものすごく、白沙基地のスタッフは知恵を絞り、ほとんど罠ばかりみたいな遭難状況を作り出すのが恒例。 前年お七とネンネがおネジっ子を率いて、見事に罠にはめられたので、今年こそはと、お七ネンネとも後詰めに回っておネジっ子の7チームを前衛に繰り出したら、なんと花組の三人組が他の六組とは正反対の方向へ突進して遭難船を発見した。当然、他の六チームも花組に続いて方向転換。ところが、その船は不安定化してる〈時空転移場〉で立ち往生中、うっかり艀を七隻も通常スピードで近づけたら時空転移場で加速度オーバーによる時空転移が起きて、全て宇宙の迷子になってしまうというトンでもない状況。お七はおネジっ子の総指揮を採るために、なんと、不安定な時空転移場へ宇宙服と簡易移動ユニットで泳ぎこむ。なんとか船にたどり着いて、花組とともに船内に突入したら、そこには凶暴な宇宙怪物が暴れまわっていた。またまた、ピンチ。実は、この船仮想遭難船ではなく、宇宙怪物から船員が逃げ出して、コントロールできなくなっていたホンマモンの遭難船。しかも積荷は銀行組合が東銀河連邦銀行本店に向けて送り出した金塊だったというわけで、勝手に内部へはいると自動的に海賊よけの爆弾タイマーが動き出す。。。という大ピンチ。これをお七とネンネはどう解決するのか、そこが見どころ。
3.琴姫ポイント、異常あり!
軍の払い下げの新型中古船を会社が買ったので、お七とネンネは花組の三人組の操縦訓練を兼ねた中古船の慣熟飛行に惑星星涯(ほしのはて)へやってきて、さて帰ろうとしたら、三人組は星涯市に出没する少女誘拐事件を解決せんと、独断専行をとって、案の定、逆に犯人たちに捕まってしまった。というので、お姉さん二人は三人組救出に出るはめになり、そこにいたのは、かつてお七とネンネによって刑務所送りにされていたはずの女実業者。以前の仕返しに衛星軌道に浮かぶ太陽熱発電所のパネルでおネジっ子を焼き殺そうとする女怪相手にお七さん大活劇を演じるはめになる。
4.金平糖<花組>秘密部品庫
おネジっ子の三人組がホームレスみたいな男を助けてゴロツキ男たちと喧嘩騒ぎになったのを、お七とネンネがいつものように乗り出して、男どもを片付けるというのが第一幕。で、おネジっ子は男から籠をひとつもらって、スーパーの買い物袋みたいな部品買出し袋として使ってたら、これが〈形状模倣金属生物〉が仕込まれている籠で、金属部品を4個入れるといつのまにか8個に増えているという、アンパンを半分かじって袋に入れて取り出すと完全な一個に戻っているという、杉浦マンガのアイテムみたいな代物だった。で、その形状ばかりか材質も部品性能もオリジナルとまったく同じものになって見分けもつかないから、おネジっ子はそれを宇宙船の整備修理に使ってしまう。ところがこれが生物なもので、すぐに寿命がくるものだから、整備した宇宙船がトラブルトラブル。お七とネンネはその後始末で大苦労するというドタバタ物語。
まあ、おもしろいんだわ。これが。
野田さんが体調崩して書かなくなって、あまりにこの花組の三人組とお七、ネンネ(こちらは美人なんですが)の話が舞踏派は恋しくて、そっくりぱくって、キャラクターの名前を変え、個人消費用に自前のオペラを7本も書いてしまったくらいに、おもしろいんですねえ。
図書館に返すのが惜しいなあ。LOLOLOL。そういうわけにもいかないから、アマゾンで中古本を目下注文中。

大倉崇裕「小鳥を愛した容疑者」講談社文庫2012年。300円(定価743円)初出2010年。

警視庁捜査一課警部補だった須藤友三50歳がワトソン役の主人公。だったというのは、9ヶ月前に頭部に銃弾を食らって危うく命を落とすところだったのだが、なんとか退院まで回復、現在は警視庁総務部総務課動植物管理係課長代理心得。そんな総務部総務課なんて実在しないって?確かに、この課は須藤のリハビリのために警視庁上部がこっそり作ったものなんだそうだ。で、課長代理心得以外には課員一人、女性事務員が一人。課員というのが、薄圭子(うすきけいこ)巡査。北海道の獣医学部を首席卒業して動物園等に勤めていたのだが、新設された警視庁動植物管理係に千百五十三名の応募者の中から選ばれた、小柄な26歳。婦人警官の制服を着ていても、誰も本物とは思ってくれない、文系知識に絶望的に暗く、理系一辺倒の実は名探偵ホームズなんですね。
動植物管理係の対象の『動植物』とは、事件の容疑者が持ち主、飼い主で容疑者の知人親族親類が面倒みてくれない動植物。というので、動植物を偏愛している人間が逮捕拘留されない、もしくは面倒見切れない状態にならないかぎり出番がない。圭子巡査は拝命して二年間近くまったく出番がなかったそうな。
ところが、須藤警部補が来たとたん事件は二人の後をおいかけるように圭子さんの前に現れるのですね。
最初が、十姉妹を100羽も飼っている現在警察病院で意識不明の容疑者の事件。容疑者の部屋は完全防音で、そこで須藤はほとんど勝手にさえずりまくってる100羽の十姉妹の中で一羽だけが須藤を見つめているものがいるのに気づく。もちろん、圭子名探偵も気づく。防音とその一羽の行動から、圭子は事件を推理しきってしまう。
第二の事件は、海で見つかった死体を、警察は、睡眠薬を飲んで自殺を試みてるうちに、足を風呂場で滑らせ転倒して当たり所が悪くて死亡してしまった、つまり事故死したのだが、だれかが死体を発見、海へ捨てたと結論する。
うん、これもちょっと捻りすぎて、現実の警察がこんな推理をするかいなと思うんだけど、まあ、それもありかとパスしても、何故発見者は死体を移動したのだろうという謎だけは確かに残る。死んだ男は、部屋で、1.5メートルの白蛇、アルビノコーンスネークと2.5メートルの大蛇コロンビアボアを飼っていた。
第三の事件は行方不明の弁護士。息子と二人暮らしなのだが、小学生の子どもは入院中で、庭石と須藤が最初見誤った大柄な陸ガメのケヅメリクガメが飼われていた。
第四の事件は、隣人を殺害した容疑の翻訳者はモリフクロウを飼っていた。隣人の妻はそのフクロウの鳴き声でトラブルになっていたのだと証言する。この事件が解決されてもしなくても、須藤は捜査一課に復帰することになっていて、動植物係も廃止圭子巡査も解雇予定だったので、最後の事件になるはずだったのだが、圭子名探偵の推理で事件が解決した後、須藤は復帰を断ってしまった。エリート監理管から「次はないぞ」とすごまれるのです。
その後、ネットのエッセーで大倉は「ペンギンを愛した容疑者」というのを書いてもいいかな?と書いている。
解説の香山二三郎じゃないけど、うわあ、是非書いてください。
書いていいとも!

門井慶喜「おさがしの本は」光文社文庫2011年初出2009年200円(定価619円プラス税)

東京近郊の財政赤字の都市の市立図書館のレファレンスカウンターの和久山隆彦は入職7年、調査相談課で3年目。市民の本の相談を受けては解決している、やや役人生活に倦み始めた三十男。
市民からの相談というのが、
「シンリン太郎について調べたいんですけど」(女子短大生)
「(子どものころ児童図書コーナーで読んだ)表紙いっぱいに赤い富士山があった本」(うっかり姉からプレゼントされた本を小学生のときに図書館に持ってきて読んでいてそのまま置き忘れたという60歳男)
「或るひとつの語をタイトルに含む本。その語は、A 意味的には、日本語における外来語の輸入の歴史をまるごと含む。 B 音声的には、人間の子どもが最初に発する音によってのみ構成される」(貧乏市には図書館は無用という元市長秘書、新任の図書館副館長が出した、確かに彼もまた市民ではある、挑戦的謎。)
「八十八歳でなくなった夫が、死の二三日前に心残りだと打ち明けたという。昔、借り出したままに返してない本が20冊家にあるはずなのだが、それを返したい。でも本の名前がわからない。早川図書がどうのこうのとは言ってたような」(未亡人)
「登場人物の男が派手に自分の例の身体的器官で白い障子を、それこそ、そう、十回も二十回もぶち抜いていたな。むごいものだ。しかもその行為は、何というかな、単なる性欲の発露じゃなかった。人間の生死、人間存在の是非、そういう根源的な問題にがっちりと食い込む深いものを蔵していた。当然、場面そのものが長かった。しかし、しかし。。。」(書名を忘れてしまった図書館廃止反対派の市議)
謎としては簡単に見えるけれど、これが難度Fクラスの捻り技で捻られているんですよ。
まあ、これらの本を全て和久山は見つけ出し、最後に市議会の委員会で和久山は廃止を訴える元副館長で現館長と渡り合い、結果は図書館存続となる。図書館存続となったものの、辞任することになった現館長は市長秘書室長となり、和久山を図書館から引き抜いて、総務課の企画グループに配属させた。国レベルなら経済企画庁みたいな将来を企画する部門だから、和久山は将来の市役所の幹部を約束されたようなもの。和久山の後任には、和久山に協力して本の謎を追いかけてきた藤崎沙理がついた。パフェ二杯で本の相談に行ってもいいかと和久山がからかうと、沙理は答える。
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沙理はゆっくりと隆彦へ顔を向ける。珍しいものでも目にしたみたいに何度もまばたきをしつつ、隆彦の目をみつめ、「お断りします」
ふいに横をむいた。と思うと、きゅうに大人びた顔になり、「お酒にして下さい」
隆彦はにっこりとし、歩きだした。
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わはは、最後はラブコメディかい。

蓮見恭子「女騎手」角川文庫 2012年 初出2011年 200円(定価667円プラス税)

紺野夏海は競馬の騎手で、その日は阪神競馬の2000mの芝レースにブラックダリダに乗って出ていた。予想紙では彼女にはミストラルに乗る新人騎手の姫野と並んで穴マークがつけられていた。本命はリーディングジョッキーのベテラン飯田の乗るマキシマムシルヴァ。対抗は、夏海の幼友達で競馬学校の同級生で元リーディングジョッキーで現調教師を父に持つ岸本陽介の乗るホナミローゼス。飯田とリーディングジョッキー争いをしている笠原の乗るライトニングウルフ。
(ふう、舞踏派は競馬ものを書けないなあ。これだけでへばってしまうのだからlololol)
で、結果は、夏海とブラックダリダ(この名前、いかにもミステリですねえ)が、姫野のミストラルを振り切って勝った。
勝てた理由は、いきなりスタート直後にホナミローゼスが斜めに走り、ライトニングウルフとぶつかり、有力対抗馬が消えたのが大きい。落馬した陽介は意識不明で入院してしまった。
その晩、陽介の父親の調教師岸本は、厩舎で何ものかに顔面を殴られて、やはり意識不明になった。容疑者は夏海の親友で元騎手のミチルの夫の里中だった。記録ヴィデオを見返した夏海は、父親の紺野が、倒れている陽介を誰もが見守っているなか、一人だけ、別の方向を見ているのに気がついた。
夏海は、親子が二人とも重態で入院するという事態にきな臭さをかぎつけて、親友の夫の無実をはらさんと探偵の真似事を始めた。
うん、これはディック・フランシスの元騎手探偵ものの日本版、女性バージョンではないか。なかなかいい趣向だと思った。日本競馬をとりまく外からではわからない、厳しい現実の描写に、事件の動機のオリジナリティといい、よく出来ていると思う。たぶんシリーズになるだろうから、これも第二作が楽しみですねえ。
(ふう、久しぶりに長文を書いたら、バテタ。今夜はこの辺にしておこう。)

016 高橋由太「忘れ簪 つばめや仙次ふしぎ瓦版」江宮隆之「写楽の首 大江戸瓦版始末」浅黄斑「目黒の筍縁起 胡蝶屋銀治図譜(二)」

その時の時勢に合わせて時代物のヒールとヒーローが変わると書いたのは誰だったかわすれてしまった。
明治のクーデター政権は、江戸を貶めるためにたった10人ほどしか獄死していないものを安政の大獄と名づけて、井伊直弼を極悪人扱いしたし、アジアへ軍事侵略を開始するとヒーローは豊臣秀吉西郷隆盛になった。これが、戦後になると、一転、高度成長政策には「改革者」人気で織田信長坂本龍馬に変わるというような話だった。
ま、二人とも挫折した「改革者」だったjところが、経済成長時代の運命を予告していたみたいである。lololol
バブルが吹っ飛んで先行きが見えなくなったら、今度は挫折したけどその後もある程度の存在感と経済力を保持し続けた伊達政宗戦国大名の中での一番人気になってるというのは、意外とこの説は正しいのかもしれない。
ま、薩摩藩の人気というのは、戦前は大仏次郎鞍馬天狗を見ればわかるように、ヒーローだったのだけれど、最近の時代物ではあんまり芳しからない。とにかく浅黄裏のくせして、大声で恫喝して示現流でダンビラを振りかざし、密輸で藩財政を犯罪性をものともせずに立て直す、結果オーライ主義の上、幕末にはテロリストの後ろ盾。最初は幕府側で長州を叩き、ついでは幕府の寝首を掻いた・・・・・・なんかどッかの覇権国家みたいなイメージがあるが、このイメージって、倒幕後の東京を描いた大仏次郎鞍馬天狗と共通したものがある。大仏次郎明治新政府進駐軍アメリカ)の図式で失望した天狗の話を書いているのだけど。
無限経済成長の夢バブルがはじけて、この成長幻想が消えてみると、これは、結局明治以来の日本の政治経済体制がそもそもおかしかったかと、無意識にチェックが入りつつあるのかもしれない。つまり、この原因は薩長土肥に根本がある。というので、江戸時代見直しと倒幕連合筆頭の薩摩藩の旧悪が表に浮かびはじめてるのかもしれないと思うのです。すくなくとも、今なら薩摩叩きやっても作家はネタにはなれ、業界から村八分にはされないという大衆小説家、エンタテインメント商売人の心理なのかもしれない。
まあ、東北出身者の舞踏派なんかは、東北六県(福島は違うかもしれないが)源頼朝豊臣秀吉徳川家康薩長土肥も全く人気がなかったどころか、反感しかもってない、よくてフン勝手なことばかりやって書き残してやがると思ってる大人たちを見て育っているので、いまさらなんだけどね。やっぱりアイツラは悪だった。lolololol
(鹿児島県民の皆様ごめんなさい。おかげで山口広島高知県民さんは安穏としていられる

高橋由太「忘れ簪 つばめや仙次ふしぎ瓦版」光文社文庫2012年 光文社476円+税

前作同様、カバーは永尾まる。しっかり深川最強生物猫ノ介のりりしい姿が描かれています。それにしても相変わらず薄い。前作よりちょっぴり増えたけど240頁だもんな。
いきなり「江戸のマスコミ『かわら版』」(吉田豊光文社新書)からの「黒童子行道期」が二頁に渡って現れる。絵は永尾まるで、文章は「意訳」されている。瞳が三つあるという不思議な少年千代松の話なのである。高橋はこの少年に新たなキャラクターを与えた。つまり、未来に起こる不幸を予見する『黒瓦版』の売り子として登場させた。
で、話は大川端へ人魚釣が群れを成しているというのを取材に現れた不思議専門瓦版発行主で極楽蜻蛉のつばめ屋仙次がおなじみのレギュラーの医師の宋庵先生と出会うところからはじまる。往診途中の宋庵と立ち話しているときに、仙次は「三つ瞳の黒瓦版売り」の少年を見つけた。
Kokokara-------------------------------------------------------
真っ黒な着流しに、黒い手ぬぐいで鼻から上を隠すようにしている八つか九つくらいの子供が仙次のことを見ている。その子供にだけは、お天道様の光が届いていないように見える。
黒い手ぬぐいで目が隠れているため、子供が何を考えているのか、さっぱり分らない。何のつもりで大川の騒ぎを見ているのか想像もできない。いy、子供は大川の騒ぎなど見ていない。子供が見ているのは仙次だ。黒手ぬぐいで目を隠しているのに、仙次はその子供の視線をひしひしと感じていた。
子供はほんの少し黒い手ぬぐいを押し上げた。子供の目が白昼の下に露になり、仙次とその視線が絡み合った。
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昔の瓦版の時から既に100年年がたち、最初に仙次が千代松に声をかけられて四枚の黒瓦版を見させられたときから、十年がたっていた。一枚目の瓦版で仙次は両親が流行り病で亡くなることを知り、二枚目の瓦版で幼馴染の宋庵の娘のお由有と所帯を持ち、三枚目でお由有が泣いていて、四枚目にはお有の葬式の絵と岡ッ引に下手人として縛られている仙次の絵があった。
とまあ、シリーズ一作目のお気楽ムードは一転して、なんとも陰鬱な影のある話が展開する。人魚釣の謎を推理で解き、連続武士の水死事件はオカルトな死者の仙次への憑依で早口に解明されて、千代松は消えてしまうが、消える前に四国霊場巡礼に立つ脇役の老夫婦に呟く。
「途中で小雪って女の子に合ったら、伝えてほしいんだ。仇を討ったら、おいらもそっちに行くからって」

うん、なんとも後をひきまくる終わり方です。完全に仙次は食われてしまってます。この後、どう話が展開するのか、想像するだけでも不安ですねえ。

江宮隆之「写楽の首 大江戸瓦版始末」ベスト時代文庫2008年KKベストセラーズ 350円定価781円+税

282頁でほとんど800円というのは、ちょっとボリすぎかなあ。
時は寛政の『改革』の松平定信が失脚したばかりだが、表から消えただけで、相変わらず江戸中に諜者網をはりめぐらして幕府を影から操り続けているころ、三十年以上努めた南町奉行所与力(けっこうお金を貯めこんだらしい)を辞めて悠々自適の余生のつもりだったが、退屈をもてあまして奉行所が沈黙する事件をあばく瓦版を出している神谷治兵衛とその仲間達の物語。仲間は黄表紙の版元の耕花堂。絵師は春朗、甲州生れの良太、深川芸者のおしん、若いものが清二と佐武。奉行所からの情報源は元部下の杉浦、堀田の同心。もっとも、同心の二人は腕利きだったけれど、上司の治兵衛が去ったあとで煙たがられて左遷されて閑職の同心。この仲間が出す「大江戸瓦版」を取り締まろうと、奉行所は探りを入れるのだが、さっぱり分らない。根岸鎮衛が奉行のはずだけど、最初の数年はひょっとすると、まだ内部を把握できずに、無能地位保全袖の下集めだけの役人だらけだったのかもしれないですね。この物語には一度も奉行の名前は出てこない。
事件は、宗教詐欺の「神世間」事件。黒幕に幕府の「老中を狙う公儀の誰か」がいたのだが、そちらまでは突き止められず、奉行所内の腐敗役人三人を辞職に追い込んだのが二巻目最初の話。二件目が、ライバル瓦版「府内瓦版」の出現で、これまた版元も不明で、奉行所内部にやはり情報源があるらしく、とにかく事件情報が詳しく早い。治兵衛は、これは「大江戸瓦版」つぶしと睨んだ。大店乗っ取りを企んで内儀と手代の心中事件を仕掛けた「府内」を、実は偽装心中で殺人であり、奉行所の同心も絡んでいると「大江戸」があばいてみせる「瓦版合戦」が第二話。第三話が、この「府内」が牙をむいてくる。「写楽の首もとむ」という題で『写楽なる者の首を求む。写楽は、約定に違反したゆえにその首を求むもの也。写楽についての消息を知るものがあれば、申し出るべし。謝礼は多大なり。旗本 結城慎三郎直武』まるで、高札みたいだと「大江戸」のスタッフは思った。ところが、治兵衛も仲間も誰も写楽をしらない。写楽って誰だ?
おお、また写楽ミステリですねえ。lololol
まあ、結論は読んでいただくとして、写楽複数説です。ただ仕掛けたのが金を出さずに大奥に胡麻摺りを企んだ失脚老中松平定信ってのが新味かなあ。写楽の首求む事件のほうは、この瓦版で大江戸側をあぶり出し、その中心の治兵衛をで暗殺してしまおうという定信の陰謀が核心。まあ、治兵衛は松平邸での定信との直接対決で駆け引き取引して定信の干渉をシャットアウトしてしまうのです。
うん、なんとかつじつま合わせてハッピーエンドにしてる力量はお見事。

浅黄斑「目黒の筍縁起 胡蝶屋銀治図譜(二)」ベスト時代文庫 2012年 KKベストセラーズ 657円+税

図譜はクロニクルとルビが振ってあります。
蔦谷重三郎の孫の銀治は蝶もの企画店「胡蝶屋」を開店したものの経営は貧乏暇なしに近い自転車操業。それでも一人じゃあ出歩くのも不便と、手代やら従業員を増やしかけてるところへ、新キャラクターの中田藍一が登場します。父は、南町奉行与力で実在の篆刻家中田平右衛門サン堂(燦燦のサンの火を取った字)、母親は女流画家谷舜英(母の兄は谷文晁)という江戸文化人の名門の長男。与力見習いに上がるのを引き伸ばして江戸の青春を楽しんでいるお気楽もの。
その藍一が、母親の蝶の絵を店に持ち込んだのが、藍一と銀治の腐れ縁の始まり。
銀次に、薩摩藩がお留植物食品にしている「孟宗竹」を江戸市場に流したいので孟宗竹は薩摩由来のものだけではないという証明をして欲しいという依頼が入る。昔、薩摩屋敷から流出した孟宗竹を植木屋が売り出そうとしたことがあったが、薩摩藩の人斬り殺し屋どもが植木屋を襲撃、竹林を焼き払い、植木屋一家は職人ごと行方不明になったことがあるという、かなりにヤバそうな依頼だった。
まあ、実在の博学愛好家武蔵孫佐衛門、本草学者の医師の栗本丹洲、国学者で未完の「古今要覧稿」の編纂者屋代弘賢、寝惚先生こと太田南畝、浮世絵師で戯作者の山東京伝とか、谷文晁の妹画家の紅藍とかが次々と探索の間に登場して情報を提供してくれ(その半数くらいに渡りをつけるのが蘭一なんですね)、ついに孟宗竹が薩摩に入る以前、すでに室町時代隠元禅師とともに本州宇治に伝わっていたということを突き止める。あとは証拠の文書だけだが、もちろんないのを、うまいことbogus paper をでっちあげ、これで一件落着、めでたしめでたし。
実に上品で、後味のいい読み物となっております。

さてと、お正月休みも今日まで、当分更新は無理かなあ。最近書くスピードが遅くなってるから。

005[comics]008 新谷かおる「クリスティ・ハイテンション7」「クリスティ・ロンドンマッシブ1」池田邦彦「シャーロッキアン」

正月休みもあと三日となって、少し足を鍛えねばと阿佐ヶ谷から東中野まで歩くことにしたのだが、途中高円寺で朝飯をエクセシオールカフェでクラムチャウダーとクロワッサンで取ったりして中休みを入れ、中野のブロードウエイについたときはトータルで61分歩いていた。まんだらけが12時開店というので明屋書店明屋は「はるきや」と読む)をのぞいたら、「クリスティ・ロンドンマッシブ1」が一冊だけ並んでた。即購入、でブロードウエイ1Fのミヤマカフェで読んでしまった。歩く方は、そこでおしまい。まんだらけに入ったら古い時間の中で生体エネルギィが吸い取られて、もう歩く気力なんか老人からはなくなる。電車で戻ってきて一眠り。

新谷かおる「クリスティ・ハイテンション7」MFコミック メディアファクトリー 2011年552円+税

シャーロック・ウイリアム・ホームズの姪のレディ・クリスタル・マーガレット・ホープは、御歳十歳、ホープ侯爵家の長女で、推理能力は叔父ゆずり。スーパーメイドのコンビのメイド長二丁拳銃アンヌ・マリーとメイドのフルグラム鞭使いノーラを従えて、叔父の事務所に入り浸り事件捜査に首をつっこんで解決しまくっていたが、7巻目でホームズ物語から大きくはみ出した。
つまり、東インド会社のお偉いさんのホープ侯爵は、インド経営策の一環として、各地の藩王マハラジャ)の抱えている武力集団=暗殺部隊の一掃に乗り出し、一人のマハラジャ以外のお抱え暗殺部隊(サグ)を無力化することに成功したのだという。おさまらないのは、最後のサグで、侯爵暗殺を企むが元海賊『スマトラの大鼠(ジャイアントラット)』達のガードが固くて手が出せない。されば、任期を終えて侯爵夫妻と長男が帰国する前に、イングランド本国の留守番をしているレディ・クリスタルを血祭りに揚げんと、50人ほどのサグの部隊をロンドンに送り込んできた。大鼠もこれを阻止せんと、娘のナーダに腕利きの戦士を二人つけてロンドンに送り込んできた。
クリスティは、ロンドンを捜索するより、自邸におびき寄せて戦う戦略を選んで、これにホームズとワトソンも応援に加わり、警戒するうちに、サグ達の夜襲が開始される。
サグ達を撃退して、ロンドン警視庁の応援部隊が暗殺者たちを逮捕しまくるが、屋敷は焼け落ちてしまった。幸い守備方は全員無傷。クリスティは両親と弟の乗った船のついた埠頭へ走っていく。
と、ここで少女クリスティの冒険は一度幕が下ろされた。
うん、実際探偵役が子どもでは事件も限られてしまうから、いい見極めかもしれないと思った。ちょっぴりさびしかったのも事実。
まあ、ホームズもののオリジナルというのは、アジア人ロシア人ドイツ人アイリッシュは犯罪者・イングランド社会の敵という文化背景を背負ってるんだけど、新谷はインド人海賊をクリスティ側につけて、中和させようと試みてる。あんまり成功してはいないけど、努力は買おう。マンガだから難しいことは言わない約束でしょ、ですね。

新谷カオル「クリスティ・ロンドンマッシブ1」MFコミック 2012年 メディアファクトリー 552円+税

クリスティが17歳になって戻ってきた。
ホープ侯爵は公爵になり、領地のルートンへ引っ込んでしまい、クリスティはハムステッドの館でルートン公のロンドン代理みたいなことになっている。つまり毎日がパーティという本人が子どものころは嫌っていたレディの生活。
スーパーメイドのアンヌ・マリーは警視庁のデクスター刑事(警部補に昇進)と結婚して寿引退、変わりに、ノーラがメイド長で、新たなスーパーメイドというかエプロンっ子みたいな三人組、怪力(ワンダーウーマンですねlololol)グラディス、邪眼美少女アネット、魔道趣味陰気少女バーサを引き連れて、クリスティの探偵ゴッコをアシストしている。
1巻目「ロシアン老婆事件」事件は、三人の建築技師の顔をつぶされた死体が次々と出てきた。ホームズは、死体の体格がエンジニアらしくないことに注目していた。クリスティは、アンヌマリーの亭主のデクスター警部補(ハイテンション時代に較べると野性味というかヤクザっぽさが消えて、むしろ少年化が進んでるような)から借りた「現状写真」三枚に共通してに写ってるロシア帽の老婆に注目して、エプロン子を連れて探索を開始する。
現れてきたのは、帝政ロシアの影で、クリスティとバーサはロシア政治警察に捕らえられてしまう。救いに駆けつけるノーラとグラディス、アネットも間にあわないかというところに現れたのが『教授』ことモーリアリティ、ホームズの宿敵。教授に救われて危機を脱出。教授が見逃そうとしたロシアスパイの乗った船を撃沈してしまったのは、バーサが黒魔術で呼び出したわけの分らぬモンスターってところが、わははははは。
これからの展開が楽しみですねえ。

池田邦彦「シャーロッキアン1」「シャーロッキアン2」「シャーロッキアン3」Action Comics 双葉社 2012年

600円+税
私立大の論理学教授の車路久(くるまみちひさ)はシャーロックホームズマニアの異名でもある正統派のシャーロッキアンで、その推理能力はドイルのホームズ並。その学生の原田愛里は小学生の時に読んだ「シャーロック・ホームズの冒険」以来のホームズマニア。この二人が出会って、オリジナル(『聖典』と呼ぶとか)には名前だけしか出てこない事件の謎解きやら、オリジナルの各編のキャラクタの矛盾点とその解釈を紹介しながら、日本人社会の世話物的謎を解決しつつ、教授と学生の恋物語が進行していくというシリーズ。
まあ、甘いっていえば甘いんだけどね。
うん、4巻目が出たら買うかなあ?こういうくすぐったい切ない甘さの人情ものって嫌いじゃないんだけどね。

015 東郷隆「明治通り沿い奇譚」 森真沙子「日本橋物語 蜻蛉屋お瑛」

ふと、気がついたら東郷隆の「明治通り沿い奇譚」を二回も古本屋で買っていた。なぜ、こんなことになったかというと、この本今まで一度も通読したことがなかったせいだ。ミステリではないし、主人公がサスペンスの迷路の底でにげまわるホラーでもない、通読するまではジャンル分けもできない文字通り「奇譚」なのです。主人公は東郷本人で、文字通り道化回し。ただひたすら見聞きして淡々と語っているだけなんで、つい他の本がおもしろいと鞄の底や枕まわりの埃よけか、目覚まし乗せになって、そのうち棚にいいやそのうちと戻してしまったからです。
ところが、たまたま森真沙子の「日本橋物語蜻蛉屋お瑛」と枕元の数十冊の中で上下に並んでいたものだから、寝酒(今体調を二年ほど崩しているもんでアルコルがいけないのです)替わりに、「奇譚」を一章読んで寝ようとしたら、もう一つサンドマンの砂の効力が弱い。そこで「物語」を一章読んだら、これがケミストリ。読み終わると同時に、すっと寝入れた。おかげで、ちょうど一週間で、読みにくい二冊を片付けることができたのです。
そこで二冊の内容を交互に紹介することにしましょう。
(実は半分は11月に書いていたのだけど、アップする前に体調不良になって下書きのままだった。箱根駅伝を聞きながら、書き加えてやっとアップできました。2013年1月2日夜)

東郷隆「明治通り沿い奇譚」新潮文庫 1998年 新潮社 150円 定価440円、単行本(1995年 集英社)  森真沙子「日本橋物語 蜻蛉屋お瑛」二見時代小説文庫 2008年(初版2007年) 二見書房 定価648円+税

[明治通り沿い奇譚]花見の人
[日本橋物語]雨色お月さん
花見のほうは花見をしようと、カメラを持って中年男一人が日の出桟橋から花見水上バスに乗る話。乗ってからしまったと思う、みなカップルばかりで一人者は作者のみ。いや、もう一人、侍姿の男が一人。その男が相席よろしいかと寄ってきて、男と墨田公園まで同行することになった。その男が昔の花見の話を始める。男の話は花見で見た大名行列の話だった。作者は翌日、男、電気屋だという侍が桜の下で酔いつぶれているのを見かける。毎日、そこで酔いつぶれていると近くの売店の主はいった。朝から売店で10数本のビールを買って飲んでるという。
お月さんの方は、日本橋式部小路に染織工芸の「蜻蛉屋」を開いている独り者の女将、お瑛が主人公。客はみんな、「かげろうや」と読んでくれず「とんぼや」と読むのが不満だが、客あっての商売、それもいいかというような鷹揚さもある。番頭の市兵衛、雑用係のお民に、病床の義母のお豊と老女中のお初がいる。
若い内気な男の客が紫紺の反物と帯を十五両をはたいて買っていった。後日、多恵という娘がその帯と反物を持って店にやってきて、若い男の飾り職人は手切れがわりに置いて去ったと泣く。お瑛は飾り職人の吉之助の消息を探索して真実を知る。 ん、でも犯罪でもなんでもなかったということなんだ。
どちらの話も、続けて次の章へ行こうと思わせるものがないけど、うん、後味のいい読み物なんですね。そこが、二冊とも買ってから数年も枕元で眠ってた理由なんです。
で、二日目の夜になると、また続けて読みたくなる。
[明治通り沿い奇譚]太郎ちゃんやかん
[日本橋物語]金襴緞子の帯しめて
太郎の舞台は渋谷も氷川神社で見世物を見るところから始まる。ついで国学院大と思われる大学を散歩したあと、明治通りの飲み屋に入った。そこで、70年代の学生運動のデモから警官に追われて逃げ込んだ見世物の思い出話になり、「太郎ちゃんやかん」という見世物の前口上の話になった。そこで老人が話しに混じってきて、その老人こそ「太郎ちゃん」の話の作り手だったとわかる。老人を若いものが連れに来て消えたあと、目の前の湯豆腐鍋が昔聞いたやかんのようにピィーと鳴った。
金襴緞子の方の筋はこうである。お瑛が銀という女を始めて見たのは蕎麦屋だったが、父のような武士と口げんかとも痴話げんかともつかないやり取りをしていた。そのお銀が店に来て高級反物を買っていった日に、60過ぎの老婆の二人連れが現れ、帰った後、岡っ引きが来て、老婆の万引きの情報をたずねてきた。岡っ引きはお銀と老婆達が組んでいると見ていた。お銀が再び店に来た日に岡っ引きが現れ番所へ連れて行こうとしたときに、お銀の隠れボディガードの銀蠅の留が現れ、姉さんになんの因縁をつけると、顔役の親分の名前まで出して凄み、岡っ引きを追い払う。後日、再び銀があらわれ、これから、親分から逃げて江戸を去るのだと挨拶に来て帰った。という筋。

まあ、事件らしい事件は二つの物語にはでてこないで、ちょっと日常からずれている謎めいた話が語られるだけなので、あとはタイトルを並べるだけにする。
[明治通り沿い奇譚]タイル絵
[日本橋物語]化け地蔵
[明治通り沿い奇譚]キリム
[日本橋物語]狸御殿
[明治通り沿い奇譚]フェズの男
[日本橋物語]七夕美人
[明治通り沿い奇譚]枕
[日本橋物語]葛橋
[明治通り沿い奇譚]杯の中

なんで、この二つがこうも溶け合うように読めるんだろうと思ったのだが、その謎を東郷自身が後書きで教えてくれた。
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あとがき
ある文化人類学者の説によれば、東京はこれまで五度も崩壊しているといいます。
一度目は明治の維新。二度目は関東大震災。三度目は東京大空襲。四度目が東京オリンピック。五度目があのバブル崩壊だそうです。
東京のもの書きは、昔からこういう環境変化が起きるたびに作品を残し、消えいくものに対して分かれの手を振る習慣がありました。たとえば子母沢寛以下東京日日新聞の人たちは「戊辰物語」で江戸の崩壊を記録し、岡本綺堂は「半七捕物帳」の中で、時代劇の体裁をとりつつ震災前の町の形を復元してみせました。また、江戸の残滓を払拭した空襲に関して、多くの物語があることは皆様すでにご存知でしょう。高度経済成長期を記録したものでさえも、1960年代のオールデイズという形で残されています。
五度目の崩壊を書いたものが少ないのは、未だ生々しい記憶があるせいでしょう。しかし、昭和末期から平成初年に至るあの不気味な熱気は、風景だけではなく人の心も完全に変えたのです。地震や空襲は目に見えます。が、人が欲得ずくで行う環境破壊、真綿で首を絞めるようにじわじわとやってくるから、よけい始末に悪いものです。
雑誌に連載されたこれらの物語に、あえて"明治通り”の名を冠したのは、そこが私のよく知っている道であり、資産価値が高かったため、東京で最も効率的に破壊された場所だからです。
その沿道で辛うじて生き残った人々の語る"変な話”を、私はまだ書くつもりです。
koko----------------------------------------------------made.
そう、失われた町の記憶への思いがこの二つの文庫に共通するものが、共振するものが多いせいで、交互に読むことでそれがいっそう増幅されるのです。
と書いてきて、31日に去年セレブレイションデイでのレッドゼッペリンのプレイを見て、1日にやはりローリングストーンズの50周年ライブを見て、ロバート・プラントミック・ジャガーのパフォーマンスに耳を奪われ、目を奪われた。これが70寸前の爺さんの声とステップか!この二人にとって、すぎた過去は失われた過去ではなくそのまま現在に続いているんですねえ。そうロックしてるんです。弔辞ロックではなく超時ロックです。
ばたばたとロックの伝説が死んで行った中でかろうじて生き残ってるモンスター(スティーヴィー・ニックスもそうだなあ)は、やはり”変な”野郎女郎なんですね。