Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

001 岡引の飯のネタは? 佐藤雅美 半次捕物控えシリーズ

Date: 18 Mar 2006 11:54:29 +0900

佐藤雅美

のデビューは江戸末の為替レート問題をテーマにした「大君の通貨」で、二冊目に読んだのは、田沼意次の経済政策評価の「主殿の税」。
(いや、これは目から鱗で、江戸時代の「改革」派三人衆、吉宗、定信、水野越前だっけ?それに新井白石なんかの、改革標榜の復古保守主義のうさんくささに気がつかされたのでした。以来、どうも、吉宗の手先、白河の走狗みたいなチャンバラものは、それだけでマイナス評価するようになった)
その佐藤が捕物帖を書けば、やはり「岡っ引の家計簿」的なものになるだろうというのは当然のことです。
これまでは、博徒の親分、盗賊くずれの権力の犬、女房の商売にぶらさがるヒモ、町の富裕商人にたかるダニみたいなレベルとしか、説明されてなかった。銭形平次がどうやって食べていたのか、捕物控をいくら読んでもわからない。彼が銭を散財=投げ銭するのはいいけど、そのお銭はどっから稼いでるのか?(まあ、清貧な岡っ引の元祖だから、つっこまないのがお約束)

岡っ引が犯人を捕まえると、番屋へつれてって、自白を引き出して自白にともなって現場に出むいて、事実確認をする。この事実確認作業が「引合をつける」と呼ばれる刑事手続きなんだとか。
「引合」がついてしまうと、今度は奉行所から呼出されて、お調べとなるのだけど、被害者は、町役人と一緒に呼出されるから、その町役人への謝礼をも負担することになる。その上、お調べは、一日がかりで(ほとんど待ち時間だったらしいが)この面倒は、普通の商人にはたまらない。というので、この「引合」にかかわらないようにしてもらうために、捕まえた岡っ引に金を払って、被害がなかったことにしてもらう。
ご町内の岡っ引に不断から付け届けしてるのはこういう目こぼしをしてもらうためなのだそうだが、縄張り外の岡っ引が捕まえることの方もけっこう多いから、そうすると被害者が懇意にしてる岡っ引に、その岡っ引に「引合を抜く」交渉をしてもらうことになる。で、この成功報酬が岡っ引の主たる収入になっていたのだという。
なんてことはない、民事弁護士が、顧問料と手数料で生活を立ててるようなものということになります。(ヤクザのミカジメ料と仲裁業みたいなものかも)(まあ、社会の表と裏のちがいだけだから同じことですね、きっと)
というのが佐藤雅美の描き出している新しい「岡っ引の経済」なんですね。
当然、悪徳弁護士がいるように悪徳岡っ引もいたわけですが、まともな弁護士の方が多いように、まともな岡っ引も多かったことになります。
うまい引合の見こめない、貧乏人がらみの事件とか、ややこしいかけひきが多くなりそうな武家がらみとかは当然敬遠するだろうし、行き倒れ風変死とか水死者風変死なんかだと、死体も調べるために見ずに川に蹴りもどして、しらんぷりするようなのも当然多かったわけです。

で、こういう岡っ引の経済学的トリビア情報小説として読むとなると、一、二作目の「影帳」「揚羽の帳」よりも、三,四作目の「命みょうが」「疑惑」(講談社文庫)のほうが、ずっと面白いのです。それに、脇役も充実してきて、少し生真面目な半次おやぶんの影がうすくなり、疫病神(事件屋というか、もぐりの弁護士というか)浪人の蟋蟀小三郎と、半次の女房志摩の活躍の方が面白く読めるのですよ。

ミステリ舞踏派久光@風邪で寝こんでる合間に、こんなもんを書いてるんだもんなあ。