Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

003 Newsgroups: mystery/salon 中国緑茶 陽竜銀針

Date: 24 Jul 2006 13:12:06 +0900

「暖かい緑茶はありませんか」(日明恩 「それでも警官は微笑う」

お茶の家元の次男坊で警視庁の治外法権と言われる潮崎警部補は、殺された覚醒剤乱用防止推進員の遺品や、密輸拳銃購入者から提出させた購入手続きの封筒や、容器に使われたソフトのケイスから白い小さな葉を嗅ぎつける。武本の問いに、潮崎は言う。
 「中国です。それも限られた場所でしか作られていません。正確には、もうあまり採れないんです。1826年から前盛期初頭まで生産されていて、そのあとは戦乱で衰退してしまったらしいんです。ですが、兄が言うには雀舌とも思える姿形といい、産毛の具合といい、あれこそが幻の銘茶陽竜銀針じゃないかと言っています。」

エンディングクライマックスの武本vs林対決の前に、心理的対決のクライマックスがこのお茶をめぐって、最高潮に達する。
武本と潮崎が林の事務所を訪ねる。林は、飲み物をすすめる。武本は答える。入ってきて初めて口を聞いたのだ。
「暖かい緑茶はありませんか?」
林は普通に自分が飲んでいる中国緑茶を淹れてだした。
そこからは潮崎の名門育ちの教養薀蓄の独擅場となる。(そこらへんの政治家とか経営者の二世三世=明治クーデタ成り上がりの末裔とはちがうというのは嫌味でもありますけどね)

林の地元だった村で採れる高級茶で、中国にいたころは、地元で飲む茶ではなく対日輸出用だと林は思っていたので、村人に不当に林一家が扱われた経験をトラウマとする林は軍内で出世して、自由に飲めるようになってからでも、やや高めの普通の茶だと思いこんでいたので、平気で刑事にも勧めていたのだった。ところが潮崎のお喋りで、実は茶が中国でも特殊な高級茶で、どこにでもあるものではない、誰にでも手に入るものでもない、つまり林をマーキングする特別な品だと気がつくのです。林は追い詰められたと気づく。

陽竜銀針は飲んだことがないけど、白毫銀針はぼくのお茶のストックにもある。20g六千円のしろもの。100g五千円でも売ってるらしいけど、僕が手にいれたときは、その値段だった。
うまいといえば、うまい。でも、一本147円のペットボトルの茶の、10倍もうまいかというと、そんな風にも感じない。でも倍以上には美味しいことは、確かです。これを冷して、水みたいに飲んでみたい気もするけど、やっぱり、お湯で淹れた方がずっと美味しいのは、まちがいがない。

林が日本警察に正体を見破られたと気づいた中国軍部は、すぐに林を切り捨て処理にかかる。林を暗殺しようという中国工作員と武本との三つ巴のクライマックスバトルが最終幕。
ラストのアクションクライマックスは平凡だけど、このお茶をめぐる武本・潮崎コンビと中国対日武器輸出作戦工作員の林の心理的クライマックスは読む価値があります。

「暖かい緑茶はありませんか」
ぞくっとするセリフです。

ミステリ舞踏派久光