Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

004 Newsgroups: mystery/salon #2689 高橋克彦 『おこう紅絵歴』

Date: 24 Jul 2006 19:28:21 +0900

高橋克彦 『おこう紅絵歴』文春文庫 2006年 514円プラス税

『だまし絵歌麿』の道化回し同心仙波一之進が筆頭与力へと出世して、現場からちょっと遠ざかりつつあるのが、この「紅絵歴」。かわりに探偵役として、元芸者の一之進の女房のお考が活躍する。支えるのは、隠居した仙波左門と、絵師の春朗(後に大化けして北斎となる)「願い鈴」「神懸かり」「猫清」「ばくれん」「迷い道」「人喰い」「退屈連」「熊娘」「片腕」「耳打ち」「一人心中」「古傷」の十二短編がはいっています。

  • 「願い鈴」

 人情もののお決まり、親探しの可憐な少女登場。お考と左門は、仙波家へお鈴を引き取る話。テイタム・オニール演ずるアディ・プレイみたいな脇役登場です。

  • 「神懸かり」

 お考の昔馴染みの弟分の鏡平が長屋で死にかけてる母の元に戻ってくる。ぐれていたはずが、記憶をなくして、昔の素直な少年の心と五両という大金を持って。そのうち、いろいろと予想を口にするようになり、これがピタリとあたり出した。お考はこの話の裏に事件があると推理する。

  • 「猫清」

 コージー物の定番猫たちがいっぱい。歌舞伎役者の出世物語をからめて、猫好きが何故愛する猫たちを残して自殺したのかの謎を解く。

  • 「ばくれん」

 お考は、芸者になる前はばくれんをやってた。そのばくれんOGたちが、再会したときに、事件は起きた。元ばくれんの女達のたくましさと、その旦那達のたくましさが気持ちのいい後味になっています。

  • 「迷い道」

 左門がうつ病気味。というので、一之進は、お考をつけて左門の青春の土地、八王子へ、祭りを見に送り出す。そこで左門は旧友の敵討ちの立会いを頼まれる。関東の古社、六所明神のやみまつりを背景に、武士の老境の悲哀と気合がいっぱいに展開します。

  • 「人喰い」

 貸し本屋が長屋で焦げた首と手だけ残して殺された。鬼に食い殺されたように見える事件の第一発見者のお光は、お考が嫁入りするまで仙波家にいたお手伝いだった。お見舞いついでに、お考は長屋を調べて謎を解いてしまう。

  • 「退屈連」

 大阪で跳梁していた芝居組という大掛かりな仕掛の盗賊団が品川に現われたと一之進も左門も、奉行所を総動員しようとしたのだが、お考がまったをかける。

  • 「熊娘」

 赤城山麓育ちのお考の幼馴染が熊娘となって浅草に出ていると聞いた、お考は小者の菊弥を調べに向わせたが、熊娘は姿を消してしまう。妹分のお由里と気がついたお考は、彼女を探し出し、彼女が両親の敵討ちのために、熊娘に身をやつしていたことを知る。といっても、敵相手は名主、江戸町奉行所の管轄外、そこで一之進はわなをしかけた。

  • 「片腕」

 金は盗むが人は殺さぬ傷つけぬはずの片腕の盗人が仲間を殺して、その片腕を斬りとって、死体をさらしものにした。その真意は? 熊娘で仇を打った由里が左門に槍をならって、お考の用心棒役を勤め出す。

  • 「耳打ち」

 聾唖者の娘が変死した。だれもいない庭で倒れていたのである。幸四郎の病気で仮名手本忠臣蔵の立役を演じることになった「猫清」の若手俳優が演じる舞台をお考は女達と見に行って、祇園一力茶屋の場面のけれんで、由良之助が力弥と節を抜いた釣り竿で密談するのを見て、お考はなにかしっくりしないと思った。そうしたら、やはりこのけれんは七日で引っ込められた。その後、そのけれんを書いて七日で引っ込めさせた座付き二枚目作者が東海道で殺された。この謎もお考はあっさりと解いてしまった。

  • 「一人心中」

 お鈴の母親を菊弥が探し出してきて、春朗も耳と鼻の形は親子だと鑑定する。一同が乗り出したが女はお鈴の母親だと認めない。そのうち、女は手足を縛り白の経帷子で入水してしまった。死なねばならないところへ追いつめられた女のせつなさが辛い人情涙の子別れもの。

  • 「古傷」

 鏡平が人足寄場から帰ってきて、お考の昔ばくれん時代の男が寄場に強盗殺人の冤罪で入っていると告げた。お考のまわりは、それなら助けねばと動き出すが、お考には珍しく、あんな人間の屑が更生しているわけがないと冷たい。昔の男はあいかわらずの人たらし、女たらしの屑なのかどうか?一之進のしらべでは更生しているように、見えた。そこでお考が動く。

まあ、人情ものプラス女シャーロック・ホームズものの合成傑作ですね。

お鈴といえば、銭形平次にも出てくる美少女の名前でした。長崎の異人の血の濃い人形のような少女。ぜったい、高橋克彦もあの短編読んでますね。もっとも、この作品の女の子はドールの女の子そっくりだけど。

由里は、高橋ワールドのニュータイプですね。江戸時代女子プロレスラータイプ。

ミステリ舞踏派久光