Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

005 paseri/myounou #13612 ロバート・A・ハインライン「宇宙の戦士」1959年

ハヤカワ文庫1979年 矢野徹

お盆休みに、このSFの古典を読み直して、ちょっと考えこんでしまいました。

ハインライン中尉が書いて、矢野軍曹が訳して、1967年に石川喬司が、これはファシズム礼賛である、必読の名著にして否定すべき作品と評して、大議論がおきた本。

まあ、個人的にはハインラインマルクス資本論の見当違いの評価とかあきれちゃいます。(彼は全然論理的に読んでないのだ。ぼくの警察官僚のオジサンと同じ幼稚な経済学理解レベルなんです。いかにして貨幣が商品交換から論理的に発生するのかという、資本論で一番おもしろい問題なんですけど、貨幣の論理的起源と歴史的考古学的起源の区別がついてないおそまつさ)
それはまあ、おいておいても、この本は「暴力こそ歴史上の事件を解決しえる」という、アメリカの本音=モラル小説なんです。

粗筋:

大金持ちのボンボンが、弾みで志願兵になり、楽なところを二年ほどやって、退役、市民権を獲得して(その世界では、軍人をやって、退役しないと選挙権がもらえない。一度ドロップアウトすると二度と参政権をもった市民になれない。女性の場合は宇宙海軍の戦闘艦パイロットおよび宇宙水兵という道がある。女性の方が戦闘・操艦パイロットの適性があるんだそうな。)と思ってるうちに、適性が機動装甲歩兵ということで、そちらに配属されてしまう。
ガンダムの世界です。ただ、それほど座具はでかくない、重さは1tあるけど)
二千人が180人になるというグリーンベレイなみの選別教育を受け(二十人くらいは教育中に死亡する)たあと、最初に配属されたニックネーム山猫隊は、ディエンビェンフーみたいな戦場で激戦を重ねる。悪運強運のボンボンのみが生き残り、ニックネーム、ラスチャック・愚連隊に転属する。そこでも上司にも恵まれて、さらなる強運も手伝って、戦場を生き残り、士官候補学校に進み(大学出を集めて幹部を作るエリート養成システムじゃないのね。戦場を生き残った下士官だけを再教育して、軍幹部を養成するシステム。優秀な兵士の実績のないものを市民にはするな。エリート官僚システムの軍隊は、組織肥大とモラル欠如でその社会を腐敗させ崩壊させる。安全で楽な軍隊業務は、民間にアウトソーシングすべし。進軍・突撃は、将軍、士官、下士官、一般兵の順で行うべし。子どもや青少年が悪事やミスをしたら、鞭打ちで、犬猫の仔を矯正するよう育てろ。というハインラインアメリカ文明批評もいっぱい出てきます。)
実地実戦検修で小隊を指揮して、なんとか生き残り、少尉に昇進して、ラスチャック愚連隊に意気揚揚と凱旋するという物語。(ラスチャック少尉は、負傷した兵士を三人引っ担いで帰還シャトルへ戻って、負傷兵を投げこんだ直後に撃たれて戦死するんですが、後を引き継いだジェリ−軍曹は、少尉に昇進するも、五十名の小隊全員で、ジェリ−パンサーズと隊名を変えようと提案されても頑固に断って、ラスチャック愚連隊と名乗り続ける・・・なんか実際にアメリカ陸軍に似たような話があったような記憶があります。兵隊浪花節)   (読んでるうちに抄訳がたしかボーイズライフに出てたような気がしてきた。。。素裸で雪の山中に放り出されて、兎を石で殺して、皮をはぎ、脂肪と泥を混ぜて、体に塗り、肉は食い、皮を靴代わりに足に巻きつけて、行軍するという挿絵を覚えている。)

感想:

たぶん、一般のアメリカ人の軍意識って、これなんですね。
基本的に、国家暴力装置の軍は相対的だが正義は正義。こっち側にうまれついた以上、まつろわぬものは悪であり敵である。(この物語の世界では、1986年にロシア・ヨーロッパ・英米連合が中国枢軸と地球統一戦争やって、国家が消滅、地球連邦ができている)
ただ、現実のアメリカは、兵役逃れで州軍でぶらぶらしてたのが大統領になるような国なわけで、こういう戦士のモラルもない政治システムが、暴力装置だけが強大な軍を道具に 世界制覇戦争をやってるわけです。

日本も、戦場を泥だらけではいまわる兵士あがりの人間はどこにもいないのをいいことに 親の金で小遣いをたっぷりもらってブラブラしてたのが、他の職業の経験皆無に近いまま、世襲同然にに代議士になり、モラルなき右傾化路線を、この本のあとの四十年間、リードしてきたわけです。

まあ、ほとんど、今の人はこんな本読まないだろうなあ。矢野さんの翻訳の中じゃ、一番の訳なんだ。なんたって、実際血と泥の戦場体験者が訳してるんだから。
がらにもなく、いろいろ考えこんでしまった。
49er久光
ミステリ舞踏派久光