Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

001 Sosakan-sama ローラの世界 1

"Pillow Book of Lady Wisteria " by Laura Joh Rowland

ローラ・ジョウ・ロウランドの「藤夫人の枕本」というミステリの、ふふふふと笑ってしまうパラレルワールド・ジャパンの世界へ御招待しませふ。

冒頭は吉原の揚屋の場面・・・まあ、ここには、あんまり違和感を覚えないのは、この吉原の世界というのが、既に四百年以上立ってしまってる現代日本人の舞踏派にも、もともと異次元の世界からかもしれません。なにせ、
  Japan Genroku Period Year6,Month11
の時代なんです。え?元禄六年って何年か?って。ローラは続けて書いてます。1693年。
というと将軍は綱吉、生類哀れみの令がすでに出ています。柳沢吉保はまだ側用人ですが、すでに幕府のトップ権力者で、翌年には川越城主で大名になる。年表をみると、そういう時代です。

Sosakan-sama

主人公の探偵は、将軍綱吉の側近らしくて、「捜査官様」と呼ばれている実力者。将軍直属で犯罪捜査を将軍直々に拝命して動く・・・(将軍直々ならお庭番のトップかと思うのだけど、お庭番がそんな表の仕事/捜査をやってたとは聞かないから、ローラさんの創作官職ですね)。
(お庭番てのは吉宗以降だから、綱吉の時代ならなんていうんでしょうね。伊達政宗の旗本衆の頭の斉藤外記みたいな藩主直属捜査官は実際にいたわけだしね。)

Sano Ichiro

探偵侍の名前です。実に現代的な名前です。佐野一郎という漢字でしょうか。このころは、太郎次郎三郎四郎・・・だったというのは野暮天というものかな。佐野の正式な官職名は、
Most Honorable Investigator of Events, Situations, and People です。
Most Honorable てのは、イギリスの大貴族によくついてるのですけど、仕事の内容が、investigation で対象がEvents, Situations, People ですから、探索専門町奉行大目付ってところでしょうか。佐野卯太郎光介あたりなららしい名前になるか。(佐野太郎衛門のほうかなあ)

将軍後継ぎのMitsuyoshi-san

というのが、Yoshiwaraで殺されるのが事件です。
Matsudaira Mitsuyoshi なるおぼっちゃんが、吉原で遊ぶという感覚が、日本人の常識にはないところで、それゆえに、もうこれだけでユニークな殺人舞台となるのですね。
(侍は夜は自宅に帰ってなければいけなかったんですよね、基本的には軍人だから常に待機が原則なんですね。大名だろうが、将軍家の跡継ぎだろうが同じです。)
それにしても、幕臣の太田某なる将軍直属官僚が「光義さん」と現代的に親しみ(それとも揶揄)をこめてお世継ぎを呼ぶってのは、わはははです。幕末志士もののテレビなら普通かもしれないけど、それでも松平さんですよね。

Keisei(castle topplers)

大夫の上に傾城がいるという説明は、あれそうだったかな??? 
段々とローラの世界が舞踏派の記憶領域を上書きし始めてきているようです。傾城じゃなくて花魁で、なんとか大夫とよばれると記憶してるんですけどね。

とまあローラ日本史用語集はこのへんにして、筋を追うと、佐野が吉原へ馬で駆けつけると、吉原の門は閉ざされていて、門の内側ではgurd と客が出せ出さないと押し問答状態。吉原の警備というと、亡八ものだったはずで、どっちかというとガードというよりはヤクザみたいな雰囲気だったかなあという舞踏派のいい加減な記憶とは合わないですが、ローラ風エドでは、ちゃんとした警備員が吉原を守っていたようです。なにせ gurdですから。(ガードマンは日本語です、念のために)
で、佐野と部下が吉原へ入ると、すでに、

Tokugawa troops patrolled Nakanocho and six streets...

(徳川部隊がナカノチョウと六つの通りをパトロールしていた。。。)
吉原の中に、町奉行の隊が入れたのかってのは、不勉強でよくしらないのだけど、銭形平次にも吉原の事件があったような記憶があるような、ないような。(追記:町奉行所の吉原番の同心が二名常駐していたようですね 13 octobre 2010)

short kimonos

で、佐野捜査官様ご一行が現場の尾張屋へかけつけると、そこには、
A group of samurai stood gurd oustside the Owariya, smoking tabaco pipes. Some wore the Tokugawa triple-hollyhock-leaf crest on their cloaks; others wore leggings and short kimonos and carried jitte ---steel parrying wands, the weapons of the police force.
(尾張屋の外には侍が警戒していた。煙管をふかしながら。何人かの羽織には葵の紋が染めぬかれていた。他の連中といえば、股引をはいて、短い着物を着て、十手を持っていた。)
うむ、ローラさんは韓国中国系アメリカンで、日本はフィルムと本でしか知らないようだから、こうなるんだろうなあ。
旗本、御家人あたりが葵の紋を羽織につけられる・・・へ?短い着物?これは尻はしょりの普通の着物らしい。それを着てる小者や目明しは士分じゃないから、侍といっしょくたにされるのは、さすがにちと違和感がありますね。(ひょっとして法被のことかな?13 octobre 2010)
   
岡っ引の衣装については、「悪滅の剣」by 牧秀彦 に良い描写があります。
kokokara---------------------------------------------------------------------
新次の長着は、上物の結城御召だ。股引も安手の浅黄木綿などではなく縮緬の極上品であった。御召の上には羽二重の黒羽織を重ねている。
to-----------------------------------------------------------------kokomade.
(長着;ながぎ)
 (上が悪党役岡っ引の描写で、これに対抗するハードボイルドな方の衣装は)
kokokara----------------------------------------------------------------------
他の岡っ引とは違って、佐吉は腹掛けも股引も着けない。雪駄履きで結城紬着流しに滝縞柄の羽織を重ね、髷をたばねに結った装いは、一見すると襲ってきた無頼漢たちとさほど変らない。
to--------------------------------------------------------------------kokomade.     
ま、ここまで書いてくれとは願わないけど、これだからペイパーバックを読んでると反動で捕物帳を読みたくなるのです。え、こんな贅沢な着物を着てたら、取り締まられるんじゃないかって???。。。かもね。
   
うむ、長くなったので今回はここまで、これから佐野のライバルの柳沢吉保と(正しく言えば、この時点では吉保という名前ではまだない)その腰ぎんちゃく町奉行保科正容が出てくるのは次回に回しましょう。

ミステリ舞踏派久光