Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

004 アーロン・エルキンズ 「The Dark Place」1983

英文での紹介は下記。
http://blog.goo.ne.jp/hisamtrois_e/e/a48dd858cda4c9d33b3a1c1a420eb71a

ご存知骨探偵ギデオン・オリバーシリーズ。直訳すれば「暗い所」だけれど、邦訳は「暗い森」だったかなあ。とにかく翻訳はあるのです。

人類学者のギデオンがまたしても、肉がついた骨の鑑定を持ち込まれるところから話は始まる。ワシントン州オリンピック国立公園でみつかった。骨はインディアンのバスケットに複数の骨と一緒に出てきたのだった。最初に鑑定させられたフェンスター教授は、FBI捜査官のジョン・ローに言う。
「こんなジャンクから何が言えると思うんだい?脊椎骨が数個に、肩甲骨のひとかけら。。。5年は地中にあっただろう。男かなあ、20代かもしれん、いやもっと上かなあ。というよりさ、この骨が全部一人の人間のものかどうかもはっきりしない。このゴミはゴミ以下のもんだぜ。時間の無駄だ。」「この骨の腹側の表面の奇妙さにいたってはさっぱりわからんぜよ。oddball exostosis--- a tumor, or a weried variation of osteonyelitis. Maybe even bone syphilis,
although that usually doesn't show up in vertebrae. ......」

まるで、Cakeaterの英語みたいに、could be... Looks like...maybe...But I'm not even sure....I'm not sure exactly what.... というフレイズのオンパレードなんですね。要するに、400語かたれど、1語も述べず。
これが、いやいやながら引っ張り出された骨探偵sckelton detective にかかるとこうなる。
「うん、人種については断言できないが、男であることは明白だ。」FBI捜査官はフェンスター教授の時はメモもとらなかったのに、さっと、メモをとり出すのです。
「肩甲骨の縁の外側のざらついているのは、これは筋肉がみっちりついてたということで、女の筋肉ではこうならない。」「epiphyses の癒着が完全だから、23歳以上だな。萎縮性spotも皆無だから、まちがいなく42歳以下だ。42歳すぎるとね、別に病気じゃないんだが、血流量が減ることで骨の萎縮が始まるんだ。」「おお、このglenoid fossa のまわりのかすかなlipping がわかるかい?これはね、30歳から始まるんだ。ということは、この骨の主は29歳と断言できる。ん、30歳になる寸前かな、癒着の程度は、23歳から6,7年というところだから。」「筋肉質で身長は5フィート10インチから6フィート。体重は190ポンドってとこか」「うん?この瘤はなんだろう?ジョン?フェンスター教授はなんと言ってた?」
「よくわからないが、なんかの病気かもと」
「ちがうね」というと、虫眼鏡でさらに骨を覗き込む。
その姿を見て、Julie が言う。
「You look like Sherlock Holms.」
集中してるギデオンはまったくその声に反応しないで、ひとしきり観察熟考したあと続けた。
「間違いなく、腫瘍ではない。これは矢傷だ。矢の先が残っている。盛り上がりは、突き刺さり砕けてprojection として残っているからだ。」
ジョンは、そのprojectionを指先ではがして観察していう。「どう見ても骨にしか見えない」
「そうさ、骨で作った矢じりなんだから」
ジュリーが反論する。「もう何世紀も世界中で骨の矢じりなんてつかってないわ。もっとも未開の部族でも金属の矢じりなのよ」
「驚くべきことだが、まちがいない。しかも矢じりの骨には骨膜がない」
ジョンもジュリーもわけがわからない。
「骨膜というのは何百年も、何千年といってもいい、地中に埋めてもなくならないんだ。でも骨を武器にするときは、スムーズに刺さるように骨膜をそぎ落とすのだよ。ほら、よく見てごらん。肩甲骨の表面には薄い層があるだろうけど、その矢じりの先端にはないだろう。」
ジョンには見分けがつかない。そこでギデオンは言う。
「もっとわかりやすいのは、矢じりが刺さったときにできる骨の細かなひび割れはどうだい」
ジョンはやっとうなずく。読んでる舞踏派も頷いている。(笑い)

ここからも、オリバー教授の講義めいた説明が数頁続くのだけど、この推理分析こそ骨探偵シリーズの真骨頂なんですねえ。小学生のころのホームズが推理の過程を披露するのを読んだときのように、わくわくして読み続けるのです。
特に、このじわじわと頭に論理がしみこんでくる感じというのは、原文で読む醍醐味です。昔は1時間に100頁は読めたから、こんなところを1分で通り過ぎていたのだけれど、最近は、こういうところを苺苺味わいながらため息つきながら堪能しているのですね。遅毒の楽しみというか、遅読の楽しみです。

骨探偵シリーズは、最初の30頁は原文に当たりながら読むのが味わい深いシリーズといえましょう。骨の分析が終わっちゃうと、あとはアクションだから、日本語で読んでもそれほど味は変わらないでしょうが。

いやあ実におもしろい、しかもラストもしみじみと終わり、ラストのラストというべきギデオン・ジュリーの恋物語はハッピーな後味にしめているのですよ。

ミステリ舞踏派久光@今日、丸の内紀伊国屋でSTephen Kendrick のNight Watch を買いました。ホームズとブラウン神父が競演するらしい偽ホームズものです。