Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

◎佐々木譲「笑う警官」ハルキ文庫 2007年 686円+税

単行本「歌う警官」 2004年 角川春樹事務所

札幌大通署の刑事課盗犯係の佐伯警部補と新宮巡査が関税法違反容疑者を逮捕して署に戻ると入れ違いに強行犯係の町田警部補たちがマンションでの女性殺人事件で飛び出していくところから、物語は始まる。
若い女は着衣の乱れもなく首をしめられ頚椎を折られて死んでいた。部屋には北海道警察婦人警官のスーツがかかっていた。バックの中には婦人警官Mの名詞が入っていた。財布も携帯電話もなかった。部屋には洗濯機もなく、見つかった下着は黒のレース物ばかりだった。ティッシュペイパーとコンドームの箱も下着とともにみつかった。小型の双眼鏡、ICレコーダー、電工ナイフ、精密工具セット、目出帽、アイマスク、イヤホン、小型ラジオにそっくりの盗聴器。手錠が2個伸縮型の警棒、鎖付き警笛が数個。捕縄が4本、革ベルトが2本。町田は現場が警察の「アジト」だと気がつく。
(警察官だから、ここが警察の極秘捜査のアジトと推理するのだが、舞踏派はこれは警察官がらみのSM殺人ではないかとへそ曲がる。)
佐伯のほうは、道警本部にせっかく捕まえた犯人を横取りされて、取調べもなくなってしまった。北朝鮮がらみの銃と麻薬事件というので手柄ほしさの本部長に茶々をいれられてしまったのだった。これで、佐伯も新宮も「暇」になってしまった。
一方、町田の方も、道警本部機動捜査隊の長正寺警部の到着とともに、事件捜査から追い出されて不満たらたらで引き上げると、まもなく犯人は津久井巡査部長という警官で部屋から銃弾と覚せい剤が発見されたというニュースが飛び込んでくる。道警本部は、津久井覚せい剤中毒者で拳銃を持って逃走中と発表し、見つけ次第射殺命令を出した。
佐伯は町田の部下の岩井に現場の状態を聞いて、首を捻る。中毒者の現場にしては片付きすぎている。町田も同意見だった。その上、佐伯は、津久井をある秘密捜査で組んで以来よく知っていたので、これは変だと思った。そこへ津久井から電話が入る。津久井は事件とは無関係で、明日道議会で警察の裏金問題で証人として召還されており、証言するつもりだと言った。佐伯は、これは、証言をさせないために、殺人事件の容疑者として道警幹部がフレイムアップして射殺して口をふさぐつもりだと見抜く。
佐伯は、町田や、新宮とこれ以上警察を腐らせたくないと思っている警官たちと秘密の捜査チームを立ち上げる。もちろん、その中にもスパイはもぐりこんでいるのだが、佐伯は、それを見抜いて、スパイ警官に偽情報を流して、道警本部を引っ掻き回しながら、24時間で、真犯人を突き止め、津久井を無事証言台に立たせるというサスペンスゲイムに突入する。
チームにベテラン捜査員の諸橋警部補がくわわり、若手の刑事たちにアドバイスをしていく。それまでの捜査結果を聞いた諸橋は、鍵は壊されていないという手口から、津久井から聞いた、Mの鍵が一本郵便受けから消えているということを重大視して、部屋になかったものをしつこくたずねた。テレビが部屋にない。MDが二枚バッグに入っていたのにプレイヤーがない。諸橋は、これは窃盗のプロが事件に絡んでいて、その手口から、犯人の候補者を二人上げた。婦警の小島がその名前を警察のデータから検索すると二人とも刑務所にいた。そこで、諸橋は消えたテレビの保証書を現場から見つけると、テレビとMDを質入したものと推理して、聞き取り調査を初め、ついに売り飛ばし先を突き止め、窃盗犯人谷川を割り出す。同時に谷川はパテックスの時計をも盗んでいた。諸橋の情報で、小島は婦警仲間に尋ねて、Mはパテックスを持っていたと判明する。
このあとは、町田・佐伯が谷川の身柄を押さえたものの、道警に渡したら消されかねないと、その身柄を保護するはめにもなる。
そのうち、まともな警官が次々と協力を申し出て、その中には機動捜査隊長の長正寺警部まで消極的サボタージュで助けてくれ、佐伯は、真夜中に真犯人をつきとめ対決して自首をすすめ、翌朝は、スパイ警官と駆け引きしながら、なんとか裏をかいて、見事証人喚問を実現する。めでたしめでたし。

「笑う警官」という題は角川春樹の案らしい、彼が先代の下で編集者やってた時のヒットシリーズがマルティン・ベックシリーズだったそうで、佐々木自身も、マルティン・ベックシリーズへのオマージュシリーズを始めるにあたって、喜んで「歌う警官」から改題したらしい。でも、笑う警官というよりは、「唾棄すべき男」をもじって、「唾棄すべき男ども」とでもしたほうがぴったりだったのではないか、と思う。
それに、どうせシリーズ化するなら、権力側のテロリストスナイパー警官をここでちらりちらりと不気味な影を見せて伏線張っておけばいいのになとも思います。そう、「消えた消防車」の殺し屋みたいに。

ミステリ舞踏派久光@うん、久しぶりだな。【私のミステリな日々】を書くのも。
(この物語には「信者」がついてるらしく、「唾棄すべき男ども」とつけるべきだと書いたのに吠え掛かられてしまった。ははん、笑う警官も唾棄すべき男も読んでないな、と思ったので無視してコメント削除したのだった。まあ、粗筋を詳しく書きすぎてるじゃないかという因縁づけは少しは当たってるかもしれないけど、この傑作の魅力は筋を全部承知してても何度でも読み返せる展開と組織内健全派警官たちの健康的性格と活動にあると僕は思う。 15 octobre 2010)