Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

【私のミステリな日々】2007年8月上旬 The Ceiling Of Hell by Warren Murphy 東郷隆 「異国の狐」ブライアン・フリーマントル「屍泥棒」

◎ウォーレン・マーフィ「地獄の天井」サンケイ文庫 1986年、540円、100円

The Ceiling Of Hell by Warren Murphy 1984.

アメリカ大統領SPのスティーヴ・フックスは、精神病者が大統領を狙撃した事件で、同僚を失い、自分も足に重症を負い、しかもたまたま見学に来ていた妻を植物人間にされてしまうという目にあって、SP辞任して、警備会社を始める。
彼は日本でいう機械警備業をしようと思っているのだけれど、元同僚等がおせっかいに紹介してくれる客は、ボディガードだった。その客の一人が、ドイツ人のナチ問題評論家でNYに第二次世界大戦末期にドイツから、アメリカに渡ったという記録がドイツ側に残っている女性を探しに来たのだった。ボディガードとともに、その女性を探す調査も作家から頼まれてしまうのだが、NYを観光案内のように一日ガードしただけで、作家は暗殺されてしまう。
依頼をしくじってしまった結果になったわけだが、FBIもCIAもスティーヴにドイツへ、作家の遺族に会いに行って事実を伝え、守りきれなかったアメリカ当局(表立っては警護できない理由があったと匂わせる)の代わりに謝罪してほしいというもの。
CIA保証のアメックスカードとともにドイツに飛び、被害者の娘と知り合いになったりするうちに、スティーヴは、何者かに誘拐されて尋問を受け、作家の調査資料の場所まで尋ねられるが、しらないものは知らないで通して無事釈放された。どうやら、ネオナチが絡んでいるらしい。ドイツ旅行は、まったくなんの成果もなしに帰ってきたのだが、アメリカ情報当局は別になにもないということなら派遣は成功であるみたいなことを言って、別の仕事を紹介してくれた。
カリフォルニア選出の上院議員の私邸でもある巨大農場の機械警備システム構築の仕事だった。その仕事の最中、被害者の娘が現れ、娘の借りたモーテルへ二人で帰り、車に酒を取りにちょっと遅れた時間差で娘は殺されてしまう。同じころ、ドイツでは、被害者未亡人や、研究所の後を継いだ学者や、仲介してくれたCIAエージェントの大使館外交官までが殺されていた。
そこに、殺された評論家は弟の実業家で、自分の身代わりになったと本物の作家が、CIAエージェントとともに現れたのだが、この二人もスティーヴと会っている最中に暗殺されてしまう。これは自分も危ないと姿を消すスティーヴ。
そのうえ、スティーブの植物人間状態の妻まで殺される。あきらかに、妻の葬儀に出てくるだろうという罠が仕掛けてあると見破ったスティーヴは潜伏を続ける。
ここにいたって、スティーブは敢然と、アメリカをのっとり世界を支配しようとしているナチズムと孤独な戦いを始める。一連の流れから、スティーヴは、犯人グループの中心人物とそのアメリカ乗っ取りの大陰謀を推理していた。
最大のミステリを説明すると興味半減するので触れられないが、とにかく、正義=スティーヴは勝つのだ。
アクション的にも、ゆれるボートの上で犯人と対決して、複雑な陰謀のほとんど成功という確信に酔っている犯人から、妻の殺人実行犯人が彼だという自白を引き出したあとに銃撃戦。
続く、ボートの大爆発。
勝つのだけれど、最終的な勝利のために、スティーヴはクラークケントのごとく、名前をも顔も変えて世に潜む幕切れなのです。

「地獄の天丼」と読み誤って買ったのですけど、思いもかけず一気読みを誘ってくれるサスペンスものでした。訳がところどころ変なところがありますが、それすらも気にならないほどの迫力あるストーリー展開です。

◎東郷隆 「異国の狐」光文社時代小説文庫 2006年、619円+税

単行本、光文社 2003年

芝神明の万吉の異名は「とげ抜き」の万吉。これは、先代の万蔵も「とげ抜き」と異名をとった名目明しだったのだけれど、先代は実際、「よしよし」と唱えるだけで、体に刺さったものやとげを抜く超能力医術の使い手で有名だったのです。息子の万吉は、社会のとげ、心をとげを抜いてくれるというので売り出し中という違いがある。
「御鷹女郎」「御台場嵐」「白鷺屋敷」「異国の狐」の中篇が4つ。
稀代のストーリーテラーが初めて書く捕物帳だから、その話術と背景の歴史事象の料理具合に舌鼓をうつべきで、クイズミステリ風のトリックだとか、心理と人情の闇とかは期待しないほうが無難です。
「御台場嵐」は、黒船来航さわぎで、御台場建設投資バブルを背景に、幕府が625文で1朱の相場なのに、わざわざ250文と刻印を打った、一朱銀を造って、それで人夫の日当に当てた。一朱というのは、一両の16分の一だから、米相場からの換算で2500円相当(これだって恐ろしく安いけど、単純肉体労働者で税金・保険等いっさいかからないのだから、まあ、失業対策事業としてみたら相場かなと思う)だったのを、これは1朱だが、実は1000円にしか使えないぞと特別通貨を発行したことになる。たぶん、最初は幕府直轄工事だったから、予算枠がこれこれしかなく、必要な日数・人工はこれだけいる。で単純に予算を日数・人工で割ったんじゃあるまいなと思いたくなる数字ですね。
その御台場銀を口に含んだ死体が発見されて、万吉は捜査を開始する。遊女屋でいつづけ、御台場銀で支払いを済ませようとして、リンチにあって桶伏でさらしものになっていた人足だった。誰が彼を桶から助けて、誰が何故彼を刺し殺したのか。同じような死体がもう一つ出てくる。
事件を解決してみれば、まあ、普通の捕物帳なんだけど、御台場銀というお化け貨幣が引き起こす社会現象がおいしい味付けになっているんですね。
他の3つも、江戸ものが好きな人には、たっぷりと雰囲気に浸れますよ。

ブライアン・フリーマントル「屍泥棒」新潮文庫1999年、629円+税、300円。

The Mind Reader by Brian Freemantle

EUの統一警察組織として生まれたユーロポール。その一ディヴィジョンとして、心理分析官がおかれ、その一人にクローディーヌ・カーターがが任命される。FBIの心理分析官が、各州の警察に横入り風協力をして、そのプロファイリングを武器に犯罪解決に寄与するように、EU各国の警察に横入り協力をして、事件を解決していくという、短編12話からなるシリーズです。
プロファイラーの扱うのは犯罪心理を主題にする事件なので、短編で扱うには、犯罪者の側の心理を単なる報告書風に述べるしかなくなってるところが、いかに、ストーリーテリングの天才のフリーマントルをもってしても、半完成品の趣があります。
フリーマントルの才能をまるでオペラのガラコンサートで浪費してるような出来と思ったら、仕掛け人は日本の新潮社だったのです。自分のところの小説雑誌にメダマを作るために依頼したそうだが、企画としても失敗していると思います。
ただ、フリーマントルは、この連作で固めた探偵キャラクターと設定を使って、500頁の長編をイギリスで出しているとか。そちらは、十分に面白いと予想しますが、この新潮文庫は、フリーマントルの創作ノートみたいなものと思って読まないと、なんだこれは。。。フリーマントルって、こんなのではないぞと腹を立てることになるでしょう。訳文もへんなところが多々見受けられるので古本屋で100円で売られていても、パスすべきでしょう。

ミステリ舞踏派久光@10日に湯河原で列車見張り一日やった後遺症でちょっと体調不良。電車で往復してれば、一冊読めたんだけど、車での往復6時間は用意していった2冊もまったく読めなかった。長距離ドライブなんかやったことないから、フロントグラスの向うに飛び込んできては去る風景で楽しんでしまったのです。