Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

【私のミステリな日々】2007年8月中旬 鯨統一郎「マグレと都市伝説」浅黄斑 「夫婦岩殺人水脈」浅黄斑「金沢・八丈殺人水脈」

Ellery Queen のShoot the Scene が部屋の乱雑さの中で行方不明になっている間に日本ものを三冊読んでしまった。

◎鯨 統一郎「マグレと都市伝説」小学館文庫 2007年 619円+税 300円

この20年ほどに流行った都市伝説を7つ鯨は選んでいる。
高速を走る老女、白い糸、死体洗いのバイト、人面犬、膝が痛い、口裂け女、ディズニーランド。
実は、もう一つボンボン二代目政治家の極みの安倍首相の就任演説の「アインシュタイン博士も絶賛した美しい日本」という無知ぶり、もしくは事実検証能力皆無ぶりを紹介している。
もともとは、田中智学という八紘一宇の理論家が、自分の説を飾るために、ドイツの法学者のシュタインが「日本という尊い国を作ってくれていたことを神に感謝する」と言っている(シュタインの著作のどこにもそんな一文はないそうな)と書いた日本人の洋物を使って自己を権威づける悪癖の走りみたいなものだったらしい。
それが、孫引きされるうちに、シュタインがアインシュタインになったと、朝日新聞が2006年6月6日でスクープしていると、これもまた都市伝説なのだそうな。ま、それでは、さすがにミステリの犯罪にはばかばかしすぎてする気にもなれなかったようです、鯨さんでも。
探偵事務所をひらいている、「ぼく」とひかるの二人もとへ、犯人探しの依頼が舞い込むと、必ずこれらの都市伝説が証言の中に出てくる。二人が解決しあぐねていると、関係者と二人の前に、警視庁の間暮警部とその助手が現れ、犯人はここにいるといって、アイドルのポップソングをメドレーで歌って去る。その歌詞で、犯人の証明をしているところがすごいのだが、それを「ぼく」は解説できないのだが、ひかるが見事に読み解いて、事件を解明して報告書を書くという構造です。
組み合わされているJpopは、郷ひろみ太田裕美高田みづえ渡辺真知子小泉今日子近藤真彦中森明菜。ついつい、口ずさみながら次々とテンポよく読んでしまうミステリ短編衆です。
え?歌を知らない?そういう方は、この本、手に取らない方がよろしいかと。
しかし、日本もとんでもないのを首相にしたもんだ。いや、してるもんだ。。。ですね。

浅黄斑 「夫婦岩殺人水脈」光文社文庫 1995年、定価540円、100円

烏丸美香、駆け出しのフリージャーナリストがマスコミで名前を売った最初の事件。副題がつけられるとすると、「カラスマミカ、最初の事件」かな。
もちろん、解決するのは、浅黄作品の篝警部だけれど、語り部は烏丸なんです。
烏丸が地方新聞社の文芸部移動を嫌って独立したばかりのところへ、城ヶ島で野口有情の取材アポイントメントが入る。城ヶ島で作家自身の理想分身の作家と恋の始まりすごろく一コマ目を体験したあと、雨の城ヶ島の大橋の橋桁に引っかかってるダンボール箱を見つける。のぞいてみると毛むくじゃらの人間の足が出てきた。
烏丸にとってラッキーだったのは、神奈川県警察捜査一課長の梅津が烏丸の父(事件調査中に行方不明になってしまった事件記者)の親しい友人だったことだった。そのルートでも情報をもらえて、しかも警視庁の篝警部まで紹介してもらってインサイダー情報を手に入れることになる。烏丸は発見者自身の記事で名前を売り、ついで、そのえこひいき情報で記事を書きまくり、いっぺんに売れっ子になっていくというのは、ちょっと出来すぎているが、ちゃんと、自分の足で、被害者のまわりを調べ、犯人へとせまっていくのだから、あまり、そういう傷はめだたない。
烏丸が犯人と確信した男には、強固なアリバイがあった。事件の前後には、妻と9つの息子とキャンピングカーで旅行していたのだ。その少年のスケッチから、烏丸は犯人のトリックを見破り、犯人は逮捕されたが、烏丸は少年のために事件の続報記事を書くのを断り続ける。このあたりが後味をよくしているミステリなんですね。
これで、浅黄斑を見直して、本屋へ次を探しに出かけたのです。

浅黄斑「金沢・八丈殺人水脈」光文社文庫 1998年、571円+税、350円。

これも篝警部もの。
八丈島の植物公園のソテツに頭蓋骨がぶら下がり、ついで二日後、横浜の女子高の桜の枝に頭蓋骨がぶら下がった。共通点は靴紐でぶら下げられていたとい
う点だけ。
奇妙な頭骨で、鑑定医は、その完璧な白骨化の理由がわからず、標本として飾りたいくらいに見事な白骨化であると冗談をいうほど。いかにして、白骨は、短期間で完成するのか。
でも、著者の名前が、アサギマダラだから、この作者は昆虫マニアだろうとわかるので、ははあ、あれかと根拠はないのだけれど、白骨化の犯人候補は複数思いついてしまうのが傷といえば傷だけれど、そんなトリックなんか、どうでもよくなるような、犯人の犯行動機がこのミステリの幹線道路なんですね。
トリックはわかった。では犯人は、なぜ、どうしてで、ミステリの半分が叙述されるのだから、フリーマントルの「屍泥棒」で感じたような論理納得不足感が皆無なのです。何故わざわざ白骨化させねばならなかったのか?という理由もストーリー展開で語られ、探偵たちが説明してないところもいい後味になっています。
最後に、警官に撃たれた犯人が、渾身の力を振り絞って、懐から取り出したサッカーシューズを握ったまま倒れるのを、リノリウム床に這ったまま「コマ落としの映像のように」見つめる篝と同じ視点で読者も見るときに、目頭が熱くなること請け合いです。

ミステリ舞踏派久光@やっと10日の熱射病気味の不快感が消えました。でも朝方の二度寝で「燃えないゴミ」を出し損ねた。真夜中越えて、「アールグレイと消えた首飾り」を読んで、「ジャスミントレイド」の冒頭を読んでいたせいです。

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