Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

【私のミステリな日々】2004/07/16 ブリジット・オベール 「森の死神」島田一男 「婦警日誌」デイヴィッド・ハント 「魔術師の物語」アーロン・エルキンズ 「氷の眠り」

あけましておめでとうございます。やっとのことで、Ellery Queen のShoot the scene を読了。続いて、Sara Paretsky の Blood Shot に入り
ました。これは2月中には読み終わるつもり。日本語は京極夏彦巷説百物語があと30頁、高橋克彦ゴッホ殺人事件上下が読み出したばかり。
縁あって、旧記事を再掲しました。
kokokara-------------tensai 2004/07/16------------------------------

ブリジット・オベール 「森の死神」ハヤカワ文庫 1997年 100円 定価720円

La Mort Des Bois by Brigitte Aubert, 1996.

フランスの香り豊かなミステリです。主人公が元映画館経営者の寝たきりの中年女エリーズ・アンドリオリ。テロに巻き込まれて全身麻痺。聴覚だけが生き残っている。運動療法士が肉体を衰えさせないために、マッサージと手足をマリオネットのように動かすリハビリをしてくれている。昔からの使用人のイヴェットに介護されて「生きている」だけ。それでも匂いも肌の感覚(風の気配、日の温かさ)も戻ってきて舌の味覚も戻ってきている。希望なんか持ってはいないが周囲の音を聞きながらエリーズは生きている。
イヴェットは、彼女を車椅子に乗せて意識的に外の世界に触れ続けさせようとしている。イヴェットは、いつかエリーズが回復すると信じているのだ。
そのある日、スーパーマーケットのそばで、買物待ちをしているエリーズの手にハトの糞がつく。ぬぐってくれたのが7才の女の子ヴィルジニーだった。女の子は、エリーズに連続少年殺しの「お話」をする。さいごに、ヴィルジニーは人殺しの顔を見たと言い、三人目の被害者のルノーは彼女の兄だったと言ったところで、父親が彼女を迎えに来た。
運動療法士に体をリハビリされながら、療法士のカトリーヌとイヴェットの会話で、最新の犠牲者が見つかったという話になった。エリーズはヴィルジニーから聞いたばかりだった名前のために、久しぶりに、好奇心が呼び起こされる。死体が発見されたのは昼過ぎ、ヴィルジニーがエリーズに語ったのは午前10時。ヴィルジニーの話は本当だった。ヴィルジニーは犯人を知っている。
ヴィルジニーが危ないとエリーズは直感する。全身麻痺状態になってから始めての他者への関心である。
次ぎの土曜日、スーパーマーケットでヴィルジニーはエリーズを見つけ、殺人の目撃談をうちあける。(少女の淡淡とした無機質な物語は迫力あります)
ヴィルジニーがエリーズになついているのを見たイヴェットが、ヴィルジニーと両親エレーヌとポールを家に招待したとエリーズに言った。
ヴィルジニーが家にやってきて、「ねえ、聞いてる?」という少女の問いに、エリーズは人差指を上げることで、Ouiの返事をしている自分にきがついた。
別れの時間に、ヴィルジニーが「さよならおばさま、あたしが好き?」と聞いた。人差指を上げる。それを目撃した大人達はイヴェットに知らせる。この場面は感動的です。
その後、毎日のように、忙しい夫にかまわれないエレーヌはヴィルジニーを連れてやってくるようになった。だまってなんでも聞いてくれるエリーズは愚痴をこぼしたい相手としては最高なわけです。(チーム・バチスタの栄光の『愚痴外来』こと『田口不定愁訴外来』みたいですねえ。15 octobre 2010 追記)
そんな刺激の増えたある日、激辛の刺激が訪れます。イサール警部が連続少年殺人事件の聞き取り捜査に訪れてきたのだった。その日から、エリーズのまわりで不気味なサスペンスが展開し始めるのです。
そう、フランスミステリの定番の心理ミステリの極限の一作です。

島田一男 「婦警日誌」青樹社文庫 1994年 100円 定価 540円

1956年に雑誌連載された短編集。婦人警官の塚原と警察の嘱託医花井のコンビ物。でも、探偵役は花井で塚原はアシスタントなんだよね。それが、昭和も二十年代の人間観の反映なんですね。このシリーズは、1951年にはじまっていて、1961年に終わるのだけど、徹頭徹尾の下町人情ミステリです。コージーミステリの魁みたいな作品ですね。
塚原のたのみで塚原の知人の人妻の堕胎(主婦売春の結果なんだけど、すでにそのころから、ちゃんとあったわけです)を頼まれ、しかたなくやったものの警察署に、塚原は悪徳堕胎医師という弾劾投書が続いてピンチになるという「悪徳医師」をはじめに、12の短編が入ってます。昭和の三十年代の風俗が舞台なわけで、「三丁目の夕陽」に共通するものがありますが、決して懐旧趣味で書かれていたわけではなく当時は先端庶民風俗小説だったわけです。
中でも、白眉は所轄署の街出身の新人映画女優のロケーションのさなかに脇役女優が毒殺されるという「黒いハガキ」かな。
二人の女優の卵が街のタバコ屋の二階に下宿する。その二人の一人が銀幕のスターへの入り口に立って、もう一人が脇役のままというまま、同じ映画にでることになり、その映画のロケーションが二人が下宿している塚原の町で行われたのです。
その二月ほど前から裏側を真っ黒に塗りつぶされたハガキが鹿児島から送られつづけてきていたのは、塚原も煙草屋の婆ちゃんから相談を受けて知っていた。スターの卵の方は、そんなハガキをまったく気にもかけていなかったのだが、事件は起きた。さて、動機は?犯人は?
花井の推理が冴え、解決は警察も法律も無視して、謎を解いた俺が正義だという人情解決も闇市の名残みたいな味です。

デイヴィッド・ハント 「魔術師の物語」新潮文庫 2001年 200円 定価895円

The Magician's Tale by David Hunt, 1997.

このミステリを読むときはバックミュージックにLou Reed の Magic And LossのCDを流すのがいい。まあ、NY雰囲気のルーと、この物語の舞台のサンフランシスコでは、似合わないじゃないかと昔なら思ったかもしれないが、二十世紀末にもなると、西海岸でもルーを受け入れてるしね。
常染色体性劣性色盲、俗に全色盲のカメラマン、ケイ・ファロウがヒロイン。年齢は三十五才。母親が二十才の時に父の拳銃で自殺している。光が眩しすぎるので、日中は分厚いダークレッドのサングラスが手放せない。そのかわり夜目が利く。
彼女の目には世界はモノクロのグラデーションに見える。(どう見えるかは、簡単だ。デジカメでモノクロの設定でモニタをのぞいて見るのがいい。実に静謐で、そうギターの爪弾きのような雰囲気です。それでいて、じっとみつめていると、その陰影のグラデーションがきらきらと輝いて見えてくる)
物語は、ケイがヘムロックアレイに、彼女の写真のモデルでもある男娼のティムを探しにいくところから始まる。(そう、ルーのワイルドサイドを歩けの街の雰囲気です)男娼たちは、この風変わりなカメラマンを街の仲間と認めてバグと呼んでいた。シャッターバグ(素人カメラマンの意)を縮めたわけです。
ところがケイがたずねた顔見知りの誰もティムの所在を掴んでなかった。
部屋に戻ったケイに男娼の一人が電話してくる。ティムがバラバラ死体で見つかったというもの。ケイはコンタックスを掴んで部屋を飛び出す。現場の刑事に名前をいうと、ケイの父親のジャック・ファーロウ元刑事の名前を思い出してくれた。ケイは、バラバラの死体を撮りまくる。胴体のない死体を。
刑事は言う、こんなときによく写真なんて撮れるものだ。ケイはきっぱりと答える。
「撮れます」
何ヶ月も撮り続けたモデルを最後に撮れる機会。
部屋に戻って現像した写真を見ながら、ティムのことをケイは思い出す。彼は、サーカスにいたと言って(真偽は不明)ゴムボールでボール手玉の芸をよく披露していた。そこへ、シェインリー刑事からティムの部屋が荒されていると連絡が入る。
身長五フィート四インチ、体重百十四ポンド(舞踏派の半分だな、身長はちょっと低いか)で女海兵隊員の師範について合気道をやってるから、非力ではない。その防衛力を頼みに、彼女はティムの一生を次ぎの写真集のテーマに選んだ。つまり、事件の捜査に乗り出した。
うむ、こっから先は、物語を自分で辿ってくださいですね。面白すぎるくらいに面白いから。そう、写真と手品が好きな人には頭が痺れるような麻薬的物語です。

アーロン・エルキンズ 「氷の眠り」ハヤカワ文庫 1993年 100円

定価640円
Icy Clutches by Aaron Elkins, 1990.

骨探偵ことギデオン教授は、氷河遭難救助研修に参加する妻のジュリーについてアラスカのグレイシャー・ベイにやってきて、退屈しきっていた。観光シーズンは1週間前に終わり、新聞販売店もなく、(今なら別にネット接続で読めるだろうから、それほど退屈することもなかったろうと思うが、1990年である)観光船も動いてない。夏休みの終わり近いということは、氷山もはるか北へ後退しているというわけです。
そこに、人気科学解説者のTVタレント・トリメイン「教授」なる俗物が公園職員たちから鼻撮み物になるべく現われた。三十年前に氷河での遭難のただ一人の生き残りが人気の理由の一つで、その事件の真相を書くために、当時のスタッフの生き残りと犠牲者の遺族と現地調査にきたのである。
ギデオンも氷河ツアーに出かけて三十年前の遭難者の骨を見つけた。
三週間前のドーナツを齧りながら鑑定した結果をジュリーにギデオンは語る。
下あごの右側が鋭く垂直に折れていて、折れた縁は面取りされたように斜めに切れていて、断面は『段状』である。さらに、左のM3正中舌状尖端に新月形の亀裂(なんのこっちゃ?と思ったら、ちゃんと著者はギデオンに言い替えさせてる)左の第三臼歯に三日月型ヒビが入り、左下あごの関節丘の後部表面に圧迫損傷の後がある。これからみて、この死者は生きてるうちに、アゴを強打されている。ボブザップかタイソンの拳とか、バットかハンマーならこういう傷をつけられるが、生きてるうちに雪崩に巻き込まれたならば、こんな傷はつかない。
強打されたのは死ぬ直前と判定できるのは、骨組織のコラーゲン繊維の損傷がまったく損なわれていないからだという。これが、死ぬかなり前なら、この傷は治療痕、治癒跡があるはずなんだがそれもない。飛んで来た氷の破片、石がアゴを直撃したのではないかとジュリーは反論する。
氷河をジュリーと公園職員との4人組で散歩に出たギデオンは頭蓋骨の一部を拾う。骨の穴の形状から、これは殴られてついたものだと結論する。その穴と現場で拾った壊れたピッケルがぴったりと合った。
過去の殺人事件が明らかになった。とすると、容疑者はただ一人の生き残りの科学評論家タレントということになる。さあ、犯人は彼なのか。ギデオンの友人のFBI捜査官ジョン・ロウが登場してシリーズレギュラーが勢ぞろい。
to---------------------------------------------------kokomade.

やはり、ちゃんと読んだら感想をつけねばいけませんね。半年もほっておくなんて、怠慢以外のなにものでもない。今年はちゃんと一月に一度は新鮮な読後感のものをアップしていきます。

ミステリ舞踏派久光
(なんて書いておいて、心理地獄の現場にはまって・・・・だいたいそういう人生味わいたくないから警備の現場仕事を選んだってのに、ぶっ殺してやりたくなる得意先のゲス野郎と出会う羽目になるんですよね・・・・人生って。と今は笑って書けるけど、滅入って書けなかったんですねえ。2年前は 15 ocotobre 2010 追記)