Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

008 岳真也「湯屋守り源三郎捕物控6 本所ゆうれい橋」 祥伝社文庫 2010年 千野隆司「湯屋のお助け人 菖蒲の若侍」双葉文庫 2011年

書く順番からいうと、「二人の平蔵」(実際は鬼平を入れて、三人平蔵)なんだが、「ぶらり平蔵」シリーズはそこらへんに転がっているんだけど「せっこの平蔵」の方が見つからない。もう書いたと思って、捨てたのかもしれない。というわけで、先に湯屋の用心棒シリーズを書くことにした。

岳真也湯屋守り源三郎捕物控6 本所ゆうれい橋」 祥伝社文庫 2010年(619円プラス税)

深川堀川町の[おけら長屋]の住人の空木源三郎(まるでスカイツリーの漢訳みたいな苗字だが、これで「うつき」と読む)は、複数の湯屋の用心棒を湯屋組合から頼まれて生業にしてる。用心棒というより現在の機械警備会社から機械警備をとっぱらったみたいな仕事なのですね。センサーも電線もないから、用心棒が足で警備委託さきを巡回してるといえばわかりやすいかな。で現在の警備員みたいな「特別な権限はもたない」たよりない存在ではなく、身分は武士だから町人にたいしては、いざとなればお侍。30歳くらいのいい男ぶりで腕はやっぱり免許皆伝。生まれは旗本の三男坊、家を継いでる次男はむ無役だが、養子に行った長男かできもよくて南町奉行。その兄の手伝いを密かにやっているという設定です。
ヒロインは元目明しの亡父をもつそば屋[信濃屋]の看板娘おみつ。おみつの父親の[白鷺の銀次]は、深川で遊び人をしていたころの源三郎をかばって死んだため、源三郎の兄の南町奉行は「銀次の形見の白房の十手」をおみつに与えたので、おみつは17の時から「女目明かし」で世渡りして、そば屋は、銀次の元手下夫婦におけら長屋の大家業といっしょに預けている。
そのおみつの知り合いの元深川芸者が、一つ目橋のそばで湯屋を始めた。ポリシーは湯女を置かない湯屋というのであったが、地元の地主の息子とそのとりまきの乱暴者達が、湯屋のお披露目に芸者を呼べと騒ぎ出し、一応女将が酌をして治めたのに、長屋の住人の万馬が一つ目橋に幽霊がでるのは、そばの回向院に理由があると語り出し、調子に乗って赤穂浪士は義士どころか実は卑劣漢説を披露したもんだから赤穂贔屓の乱暴者たちが杯を万馬めがけて投げ出した。そこで源三郎はイチローのバットさばきのように鞘のみでことごとく叩き落して見せた。用心棒の面目発揮である。というのがつかみ。そうして、この地主が殺されるというのが事件。その容疑者は簡単に上がったのだが、源三郎は真犯人はべつにいると喝破して捜査を開始する。
真実は。。。読んでくださいな。lol
このシリーズ、江戸時代の用心棒というのは、現代の民間警備員であるという説を岳は一貫して採っているところが時代物としては新鮮なところです。

千野隆司「湯屋のお助け人 菖蒲の若侍」双葉文庫 2011年(619円プラス税)

  「飯は、食わしてくれるのか」
 ・・・・・・・
  「あっしの家業は、湯屋でしてね。寝泊りする場所は、いくらでもありやすし、飯も大勢で食いやすから一人二人増えてもどうってことはありやせん」
  「そうか、湯屋か」

こちらは、第二の藤沢周平との呼び声も高い、今油の乗り切った作者です。
この方のブログの「時代小説の向こう側」というのはぼくの愛読ブログの一つです。
主人公は大曽根三樹之介22歳、やはり七百石旗本の次男坊なんだが、許婚が五千石の旗本の息子にもてあそばれて自害してしまったという遠くない過去を持っている。この旗本は留守居役であるから、旗本としては最高位についてるということになる。将軍が城をでた後の総責任者なんだから幕府初期のころは譜代大名クラスじゃないと勤まらなかった職なんですね。ただ、将軍が外出しなくなると、暇になるわけで、いつの間にかほとんど名誉職に近くなったという点では大目付と似たようなものですが、旗本で上がれる最高位は留守居なのです。そういう相手だから、自分の息子の不祥事をごまかすのはわけもない(現代にもいましたね。防衛庁長官の息子が婦女暴行事件起こしたのを英国に逃がして、後その息子は首相になったというのが)。三樹之介に家禄2千石で役高3千石の御小普請支配の旗本の家への婿入り話を持ち込んできた。一つ年上のバツ一美人の志保と見合いをしてみたら、これがとんでもないツンデレ。生まれたときからついてる乳母がまた猛烈な権威主義者。二人かかりで最初の婿を追い出したらしい。
三樹之介はてっきり断られるだろうと思ったら、なぜか相手は乗り気。迷ううちに三樹之介は恋人の敵の男が見合いの相手の家に出入りしているのを目撃して裏に気づく。自分から断れず、といっても婿入りする気にもなれず、三樹之介は家出してしまう。
その家出の晩に不忍池のほとりで逃げてきた賊と斬りあいになり、手傷を負わせたが逃げられてしまう。賊をおってきた岡ッ引きの源兵衛に三樹之介は犯人と疑われるが、刀に血はついていても衣服に返り血がないというので、岡ッ引は大番屋にしょっぴかず、自宅の「夢の湯」へ連れて行く。
そのときの会話が冒頭のやりとり。
まあ、その湯屋は源兵衛の娘のお久が切り盛りして、子どもが二人、八歳の姉のおナツと6歳の冬太郎がいた。お久は父親の岡ッ引道楽が気に入らないから、三樹之介を白い目で見たが、子役の二人がまずなついて、湯屋の世界の案内人になるのです。
事件のほうは、これまた読んでもらうとして、なかなかテンポのいい捕物帖です。
笛吹明生の剣客家業シリーズは、一ツ木雨晴斎がゴツすぎる剣客だったので、番台にも女風呂にも縁がない話だったけど、こちらは今なら大学4年生。釜のたきつけで火傷したあと、いきなり、女風呂の水汲みから湯屋修行が始る。まあ、そこらへんのくすぐりと、ふたりの子どもとのやりとりでコージーな味付けをしている佳品です。
あ、3月に、第二作の「桃湯の産声」が出てますね。買わなきゃ。
著者はブログの第一日目をこう結んでいます。
「私も、生の息吹を湛えた人間を、描きたいと思います。」
その意気やよし。