Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

008 Robert Whiting 「東京アンダーワールド」角川書店 2000年 柴田哲孝「完全版 下山事件最後の証言」2007年 祥伝社文庫

かつて松本清張が調査し推理した戦後日本で連続して起きた黒い霧がまといつく事件は、松本の推理が定説のように今では思われている。帝銀事件松川事件、冤罪事件や迷宮入りになってしまった裏には、米軍情報部の暗躍があった。その状況証拠の最大のものは、米軍占領が終了した後に奇怪な事件は全く起きなくなったではないかというもの。松本の推理世界はある意味で合理的であいまいさがない。
その犯罪世界のバックグラウンドは冷戦開始後の日本をアメリカが反共の防波堤として再構築するために労働組合社会主義勢力を犯罪集団としてヤクザ以下(ヤクザは反共であるから、反社会的であってもまだアメリカ支配体制に逆らわぬ分許容範囲なのだ)の反社会的集団としようというアメリカの世界戦略である。
なかなかにわかりやすいではないか。アメリカの意思であって、日本政府も警察も、ただの忠実な犬なのだからしょうがないじゃないか。犬に人間並みの責任追及したって無駄じゃないか。。。でなければ社会主義革命起こしますか?(反語)というものなんですね。だからこそ、松本清張は出版メディアの体制派横綱出版社から愛され、印税を払われていたわけです。
ところが、いや、日本人の支配層の「犬ども」は犬ではなく、実は主犯格の犯罪者集団であったのではないか。表の顔を持っているが、実は裏社会の日本人達がアメリカの犬のフリしていただけなのではないか。。。という洗い直しをしてみせたのが、柴田哲孝であり、ロバート・ホワイティングなのである。

ロバート・ホワイティング「東京アンダーワールド角川書店 2000年 350円(定価1900円プラス税) 松井みどり訳、Tokyo Underworld by Robert Whiting 1999.

ロバート・ホワイティングは1977年に「菊とバット」でプロ野球の「外人助っ人」と奇妙な日本的ベイスボール(日本語を直訳したらベイスボールではないフィールドボール・・・・・田んぼボールなのだってことなんだが)の軋轢すれ違い滑稽エピソードを通して日本社会をアメリカ人の視点から分析してみせた後、1990年には「和を持って日本となす」を書き、その10年後にこの「東京アンダーワールド」でガラパゴス化の極致に達した世界から孤立した生物社会を描いて見せたのである。いわばニホンザルの社会にまぎれこんだアメリカ猿の(猿の惑星という映画は、実はモデルは日本だと言ったのは予備校の英語教師だった副島隆彦さんだが)一生をたどってみせることでニホンザルの社会を描いてみせたのである。
アメリカ猿の名前はニコラ・ザペッティ。イタリアンアメリカン社会の落ちこぼれが、占領軍の平兵士として日本列島に流れ着き、退役といういか追い出された後、六本木でピザレストランで財産をつくった。。。本来なら単なるイタ飯屋の情にあつくて女好きのオヤジで帰化猿の一生を平凡に終わっても良かったのだが、成金特有の歯止めの利かない強欲さとそのくせおっちょこちょいで大雑把なもんだから、六本木マフィアの帝王なんておだてあげられ、しまいには不良ニホンザルどもにカモられて病と裁判の晩年を送ってなくなった。その不良猿というのが人間世界では政治家とかヤクザとかプロレスラーとか高級娼婦とか諜報部員とか、右翼のフィクサーなんて顔をもっていたから、ニコラ猿の一生を語ることはすなわち、カモったニホンザル社会を語ることになってしまったのである。
まあ、筋をかたるにはあまりにも捨てるところがないので、無駄なことはあきらめて、一読二読する価値がありますとだけでやめておこう。こんなのアメリカ人だけに読ませておくのはもったいない、訳者の松島さんもそう思ったと思う。
エピソードを一つだけ紹介すると、アメリカ軍は実は日本にタカリにきたのだということが実にわかるものがある。
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1946年の中ごろには、進駐軍からの祖国への送金額が、一ヶ月に800万ドルを超えるしまつ。軍全体の一ヶ月分の給料を、完全に上回る額である。
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この金はいったいどこから来たのか。闇市経由の米軍物資の横流しってわけです。下っ端だけではこんな数字にはならないわけです。で、それをささえるニホンザル社会については、
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警告の意味をこめた記者会見で、大佐(GHQ民生局長、チャールズ・ケィディス)はずばりと指摘している。
「日本の真の支配者は、GHQが望むような"正式に選ばれた国民の代表”ではない。ヤクザの親分や、ならず者や、脅迫者である。彼らは、政治フィクサーや元軍国主義者、産業資本家、さらには、司法界の上層部や腐りきった警察首脳部とつるんでいる」
もちろん、そんなことは日本人の常識だった。
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昔の日本人の「常識」だったわけですね。今は?そんなにひどくないなんて思ってませんか?それとも思いたくないと思ってませんか?思っても、どうしようもないんだから、どうでもいいじゃないかなんて思ってませんか? 
Blowing in the wind … かな?
360ペイジの本編もinteresting なんだけど、脚注みたいな「執筆ノート」が60頁もついてる。これが戦後資料としても現代日本資料としても実におもしろいのです。これに匹敵する脚注といったら、ミステリなら井上訳のエラリィ・クイーンシリーズの井上氏による訳注、それからスチュアート・カミンスキィのトピー・ピーターシリーズに和田誠がつけた注、一般書としては渡辺一夫ラブレー翻訳につけた膨大な注、それと向坂逸郎が「資本論」の訳につけた、これまた膨大な注に(悪文の本文訳を補ってもあまりある日本語注でしたねえ・・・・英語版で読んだら向坂訳の化け物じみた凄さがよくわかりますlol もっとも、向坂先生の自宅での読書会で若い連中が、先生今日は一頁進みましたと報告したら、大先生切れたそうだ。何、私の訳文をそんなにすらすらと理解したというのか?マルクスが言ってることをそんなにいっぺんに理解したとお前達は言うのか!と。。。だから、あの訳文の悪文としか思えないひどさは、確信犯的に意図されているんですね。注は日本語の達意の名文ですからね)匹敵すると舞踏派は思う。
新本屋ではあんまり見かけないけど、古本屋にいけば、ハードカヴァーも文庫も50円とか100円で手に入ります。今は。でもあと数年したら、古本屋も産廃ゴミへ廻すでしょう。そうしたら、もう読めませんよ。(それこそが日本の真の支配者の思うツボだろうなあ)

柴田哲孝「完全版 下山事件 最後の証言」祥伝社文庫 2007年 857円プラス税。

柴田哲孝といえば、KAPPAとRIU. それで決まりと舞踏派は思ってたので、なんだい今頃、下山事件か?もう誰もそんなもん、興味はないだろう。。。とベストセラーらしいけど、どうせベストセラーなんて、「そんなもん」と天邪鬼なもんで、ますます読む気がうせていたのですが、ある日、手にとって見て、うん?なんで白州次郎が写ってんだ?と写真に見入ってしまった。最近ブームの感のある硬骨の文化人白州次郎。。。ぼくはなんか胡散臭さをいつも感じていたもので、一丁読んでみるか。(戦後のあのほとんど貧乏時代に、なんであんなダンディぶりを、目利きの文化人ぶりをやれたんだろうと首を捻っていたんですね。。。この人なんで食ってたんだろう?と思いませんか?貧乏人の僻みと言えば言え。60年も生きてきてますとね、文化タレントみたいな人を見ると、それを支える経済力をつい詮索してみたくなるんです。)
そうしたら、一気です。
柴田氏は下村事件に見え隠れして、合理的説明推理もできないまま正体不明に消えてしまう脇役みたいな影。。。実行組織のメンバーの中におじいさんが入っていたのを発見検証してしまったのです。
で、「東京アンダーワールド」の登場人物たちがごそごそ、ニホンザルの側から見た証言で再登場してくるのです。もちろん悪名高いキャノン機関も、その正体も。
で、確かにアメリカ情報機関は係っているが、そのエージェント猿どもは、実はニホンザルに雇われてアルバイトしていたのであるという結論になるんです。松本清張の世界がぐらぐらどころか、完全に倒壊してしまうのです。では、何故下村総裁は殺されねばならなかったのか?真犯人(殺人を指示した大元締め)は誰なのか。
残念ながら、柴田氏は真犯人の遺族がまだいっぱい生きてるので数十頁をかけて読者に自分で見つけろとヒントをちりばめて終わるのです。
でも、犯人を名指すのは簡単でして、朝日文庫に入っている満鉄資料ものを先に読んでおけば、名前が書かれてあるも同然なんですよ。お試しあれ。
でも、まあ、そうやって真相にたどりつくと、八百長お助け互助会ぬきで大相撲文化が成り立たないように、日本ガラパゴス猿社会の構造的病気が浮かび上がってくるんですね。引きこもってゲームばっかりネットサーフィンばかりやっている病人みたいなもので、親と金が失われてしまうまで、やめたいとおもっているのに、やめるにやめられない病です。
ああ、やっぱり、the answer is, my friend, blowing in the wind...the answer is blowing in the wind.
風が黒い霧を吹き散らしても、答えは風に吹かれているだけ、なんだ。。。
え、この歌はそんなrendition ではないって?かもね。でも、ああ、やっぱり、白州次郎うさんくさい奴だった lol.

↑上のリンクは深い意味はありません。歌ってる歌手が好きなだけです。(なら、つけるなよと自分で突っ込んでおきませふ)