Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

神永学「天命探偵 真田省吾 タイム・ラッシュ」新潮文庫2010年 神永学「怪盗探偵 山猫」角川文庫 2010年

そろそろ入梅のようで、現場の雨中止が頻発すれば、稼ぎが減るけど、雨読の日々が増えるから、また雨も悪くはない。通勤読書の方は、Ian Rankin Black and Blue が1日にあがって 現在は Carol O’Connellの Mallory’s Oracle。
そういえば、つい最近、人身事故で電車が一時間止まるというアナウンスがあった。あれは、いつだったか?
とちょいと調べる。。。写真ファイルを見返すだけなんだが、あった。そう25日の夕方19h20ごろだった。総武線各駅の三鷹行で秋葉原から乗ったんだった。市谷駅でいきなり、人身事故のため止まりますとアナウンスがあって、気が速い人たちはすぐに降りていった。中央快速線の方もいっしょにとまっているのだから、中央線沿線の駅が目的の乗客は腰を落ち着けてそれぞれの時間つぶしアイテムを手にとって落ち着いていた。携帯電話と本ですね。まあ半分よりちょっと多いくらいが携帯派かな。30分ごろに、運転再開は8h20ごろとアナウンスがあったら、この携帯電話派が一斉に立ち上がり、地下鉄の振り替え輸送券をもらいに立ち上がった。残ったのは読書派ばかり、14、5人残ってたのが5人程度に減ってしまった。ちょうどBlack and Blue の294頁のところだった。まあ、きっちり予告どおり8h20すぎに動き出したのだけど、あんまり読むのに集中できなかった。けっこう電車内外をぶらぶら散歩する中年のサラリーマンが多かったので気が散ったのですね。

神永学「天命探偵 真田省吾 タイム・ラッシュ」新潮文庫2010年 552円プラス税 初出 2008年 新潮社

探偵は標題通りの真田省吾で、黒いニット帽を目深にかぶって、新宿住友ビル前のレンガ歩道でスケートボードで遊んでいても自然に見える20歳くらい。張り込みの相棒は、二十代後半の長身の公香。二人とも年の割には普通じゃない人生経験をつんでいた。真田の方は刑事の父親が母親と一緒に殺されるのを目撃して、中学生の本人も金属バットで犯人たちに立ち向かい撃ち倒されて死んだことになっているし、公香は薬にはまって体を売りまくったティーンズ体験から、現在の探偵事務所のボスの元刑事山縣に救い出されて更生していた。その二人が中年男を尾行していたら、不倫の現場どころか、トカレフを持った二人組に拉致されかけた。うっかり公香が物音を立てて拉致犯共の気をそらした隙にマル尾は逃げ出し、男共は追いかける。巻き込まれた形で省吾もスクーターで追跡にかかる。
マル尾が通りがかりの幼女と接触するところへベンツが突っ込んでくる。少女を救おうとした省吾のバイクは転倒して、バイクはベンツへ向かって突っ込んでいき、省吾は道路へ叩きつけられて気を失う。これをすべて目撃していた少女がいた。事件を予知してなんとか防ごうと現場へ車椅子の身を世話係の長谷川とともに出てきていたのだった。お金持ちのお嬢様の中西志乃、公香が焼餅を焼いてしまうくらいの美少女で、彼女は12歳の時に交通事故で母親を失い、自分も大怪我を負った過去があった。その事故の後から、人が殺される夢を見ると、その通り事件が起きるようになったのだった。最初の告知夢は、省吾の両親の事件で、彼女の夢では省吾も一緒に亡くなっていたはずだった。この日は、巻き込まれてベンツにひき逃げされる幼女を救いに出てきたのだが、事件は夢の通りに起きた。
でも、省吾の出現で幼女は死ななかった。
志乃は、次の夢の犠牲者の中学生を救おうと似顔絵を描いて、山縣の事務所へ長谷川を送り、似顔絵と未来の事件の光景だけの情報で調査救出を依頼させる。彼女の直感は省吾が絡めば必ず未来は変わると示していたのだった。山縣は似顔絵を見て、断るつもりだったのを一転、依頼を引き受けた。似顔絵の少女は彼の元部下の娘だった。
一連の事件の背後には北朝鮮の国家的犯罪行為としての覚せい剤密輸入販売組織が隠れていた。警察内部にも内通者でしかも暗殺部隊実行犯なんてのがいるような組織で、山縣まで撃たれて重傷を負うような一瀉千里の流れの中で、省吾は親の敵の北朝鮮スパイを射殺寸前まで追い詰めて事件を解決するのです。事件が解決した後で、省吾は志乃を山縣の事務所のスタッフにならないかと誘う。
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志乃は、その(省吾の)背中を見送りながら、ふとフランスの寓話詩人が残した言葉を思い出した。
人は、運命をさけようとしてとった道で、しばしば運命に出会う。
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原文はこうですね。
On rencontre sa destinée souvent par des chemins qu'on prend pour l'éviter.
Jean de la Fontaine
大昔、駒場のフランス語の教科書にもあったような気がする。すっかり忘れてたけど。
ま、ここで単行本バージョンは終わってるので、なかなか洒落たものだったのだけど、文庫版は By the way という章をつけて文字通り蛇足を演じてます。気持ちはわかるけどね。どっちかとうと、By the way でシリーズ第二作の冒頭へ持っていくほうがよかったように舞踏派は思うのだ。

◎ 神永学「怪盗探偵 山猫」角川文庫 2010年 552円プラス税 初出 2006年 文芸社

こちらは、変装の名人の泥棒『山猫』が探偵役。 ワトソン役が雑誌記者の勝村。
この泥棒、盗みに入る先は裏稼業であくどく稼いでいる会社や団体の金庫を狙って外れなし。誰も気がつかないうちに億単位の現金を奪っていく。その後、盗まれた被害者が警察に届けを出すと、当然警察は現場検証に立入ることになる。そこで、この山猫が隠していった裏稼業暴露の証拠を発見押収して被害者は一転犯罪容疑者となり逮捕されるということになる。勝村はこの現代の義賊を記事にするよう雑誌編集者から依頼された。しかも三日で。
依頼された途端に、山猫が出たというニュースで、勝村は現場のビルに駆けつけた。そのビルは勝村のジャーナリズムにおける師匠の今井が経営してる出版社が入っていた。その今井の会社に山猫が入り、山猫と署名された紙が金庫の中に残っていて、金庫の外で今井が殺されていた。その現場で、勝村は大学の先輩の霧島さくらを見かける。霧島は捜査課の刑事になっていた。霧島から情報をもらえず、勝村は今井が連れて行ってくれた飲み屋へ追悼のために出かける。
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「何か情報は入りましたか?」
声に反応し、勝村はゆらゆらと顔を上げた。
振り返ると、店の入り口のところに、一人の男がたっていた。ニット帽に尖った鼻。泥棒ヒゲを生やしたカメラマン。
「さっきの・・・・・・・・・」
「山根虎です。隣、空いてますか?」
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すでにビルの前で、霧島先輩を見つける前に勝村はこの《イタリア人のように尖った鼻をしていて、口を囲むようにヒゲを生やしていた。いわゆる泥棒ヒゲというやつだ。ニット帽を被っていて、肌は浅黒く、引き締まった体つきをしている》男と口を聞いていたのが、名乗りが山根虎。山猫の現場に現れた山根虎。。。どうみたって、怪盗じゃないか、というのに、勝村さん全く頭が回転しないのだ。
勝村−霧島の同窓会コンビが道化まわしになって、主役の山猫が山猫を装った殺人犯と事件の真実を解明して、また闇へ消えていくという怪傑ものなんです。
脇役には、霧島をイジル山猫ストーカーの関本警部補がワンパターンの鬼軍曹役で出てきます。ストーカーだけあって、この事件は山猫が実行犯ではないと見抜いている目利きでもあります。
山猫については、ある元凄腕の窃盗犯の老人がこう証言している。
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そんなもの(素性と目的)は、誰にも判らない。山猫は俺たち窃盗犯とは違うんだ。(中略)まず、奴は手口が違う。俺たちは、錠前を破るんだ。窓を割ったり、ドアをこじ開けたりする。そうやって、金目の物を盗んでずらかる。だが、山猫はそうじゃない。正直、開けるのは簡単なんだ。だが、その逆は、おそろしく難しい上に、危険がつきまとう。(中略)山猫は窃盗犯じゃない。スパイだ。あいつが使っている技術は、窃盗のそれとは明らかに違う。どこかの国の秘密諜報員の技術なんだよ。(中略)痕跡を一切残さずに、金庫を開ける方法は一つしかない。鍵を使って開けるんだよ。(中略)奴は、自分のために罪を犯してるわけじゃねぇ。俺たちは、金が欲しいから窃盗をやる。自分が、生きるための仕事だ。だが、奴にとっては違う。《中略)なぜ、警察が山猫を捕まえられないか分るか?存在しないからだよ。
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実に謎めいた存在ですねえ。とてもこんなキャラでは340頁の文庫本じゃ正体も素性も目的も描ききれない。
最後の一行は、これからが本番だぞと告げて結ばれます。
曰く、
これが、大きな事件の始まりに過ぎないことを、このときの勝村はまだしらない---------。
楽しみですねえ。角川文庫の編集さん、神永学の尻に鞭を打ちまくって第二作を文庫で書き下ろしさせてくださいな。