Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

中町信 「模倣の殺意」 相場英雄「偽計 みちのく麺食い記者 宮沢賢一郎」

最近新幹線の高架橋の下の工事がらみで雨ふってもなかなか当日朝中止にならないんだけど、全体の経済の行き詰まりのせいか、あした現場少ないから休んで。。。。と明日の予定のたつ無給の休みが手に入りやすくなったので読書にはなかなかいい時節・・・・・・・・そのうち、えらいことになったら、まあ、そのときはそのとき、休めるうちに休んで、読める間に読んで、書けるうちに書いておこうぞ。(自棄老人ですねlol

◎中町信 「模倣の殺意」創元推理文庫 2004年 東京創元社 180円 定価700円プラス税、初出「推理」1972年

解説を濱中利信が書いていて、この知る人ぞ知る名作の標題と改訂(中町は改訂の度に改稿しているのです)をうまくまとめています。
初出は江戸川乱歩賞応募作1971年、「そして死が訪れる」
>>>雑誌『推理』72年短期連載で「模倣の殺意」
>>>73年双葉社から単行本「新人賞殺人事件」(直ぐに絶版品切れ・古本屋でも入手困難の<幻の名作>となったそうな)
>>>87年徳間文庫「新人文学賞殺人事件」(鮎川哲也解説)
>>>2004年創元推理文庫の本書。

プロローグがなんの変哲もなさそうなのだが、実はすべてのマジックは半ばここに書かれてある・・・中町が改訂の度に手を入れて腐心していることでもわかる。
「プロローグ」「事件」「追求」「展開」「真相」「エピローグ」の構成で、この六部構成もまた、推理マジックの重要な構造となっているのです。
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プロローグ
七月七日
午後七時----。
坂井正夫は、死んだ。
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プロローグなんて誰も注意して読まないだろうと中町は考えたらしく、双葉社版では、ほとんどネタばれといえるほどのプロローグになっていたのだそうだ。徳間文庫版から現在のものになったとか。(濱中解説)
まあ、とにかく坂井正夫は死んで発見される。
ついで「第一部 事件」が語られる。
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七月七日
都内北区稲付町にある光明荘アパート。
午後七時----。
三階の住人、坂井正夫という男が、自室の窓から転落して死亡するという事件が起こった。
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青酸カリを飲んだ上の転落事故自殺として事件は片付けられた。動機は1年前に推理小説新人賞を受賞した後、編集者を納得させられる作品を書けなかった「創作に対する煩悶」ではないかと警察の係官は考えた。

「追求」「展開」「真相」の三部は、すべて、坂井正夫とやや冷めた感のある恋人の中田秋子と坂井正夫の知人の推理作家くずれの犯罪ルポライター津久見伸介のそれぞれの調査が、それぞれの視点から語られる章が交互に繰り返される。
中町は副題として英語で The Plagiarized Fugue とつけたのですが、「盗用されたフーガ」とかなりネタバレにもなりかねない意味深な、それでいて、読者に、さあ真相を推理してみたまえ。ヒントはここにもあるぞと自信満々の挑戦をしているのですね。実際、「真相」の第三部の扉には、こうあります。
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あなたは、このあと待ち受ける意外な結末の予想がつきますか。ここで一度、本を閉じて、結末を予想してみてください。
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もし、あなたが、この真相を推理できたら、あなたは、2000年の「錯誤のブレーキ」以来新作を出してない、中町の後継者として作品をものにする才能があるかもしれない。舞踏派は思いっきりはずしましたlol. (本格モノは読むだけにしておこうっと)

◎相場英雄 「偽計 みちのく麺食い記者 宮沢賢一郎」双葉文庫 2010年 (株)双葉社 250円、定価619円プラス税

プロローグがいきなり911である。IDカードを忘れたか紛失したかで重要会議におくれかけている上司にIDカードを貸した部下が珈琲を飲みながら上司を見送った直後に911が起きた。彼の会社のアメリカ支店はあのビルの中にあった。
そのプロローグに続いて、いきなり
「宮沢、この下手くそな原稿、もう一度書き直せ」とわけありで仙台へ大和新聞東北総局遊軍記者として飛ばされて、東北六県の麺食いシリーズの探偵役をつとめてきた宮沢賢一郎の場面になる。
仙台駅前の台湾屋台の焼きビーフンに気持ちは既に飛んでいてビーフン渇望で「頭に血がまわりません」と逆らってみてもサブキャップもしたたかで、「だったら原稿を直せ。早くしないと、日本実業や旭日の連中が食い尽くすぞ」
んんん?まてよ仙台駅前に日本実業新聞や旭日新聞の記者が大勢いるような支店があったっけ?大体、今の仙台駅の前に屋台なんかだせたか?
その続きが「飛行機が突っ込んだぞ!」
あ、そうか。これは、宮沢はまだ、飛ばされずに東京本社勤務中なんだと気づく。(アホだなあ、全く)
13頁の「第一章 帰還」から今になる。賢一郎は、わざわざ仙台市泉区南光台の蕎麦屋清田屋名物のラーメンを頼んでいたところへ、総局長(苗字なんてどうでもいい憎まれ役の脇役です)から客が来ているから戻れという命令を受ける。しっかりラーメンを食べてから戻ると、本社編集局次長の村田正邦が待っていた。村田の用件は、大和新聞がオメガシップというほとんど詐欺みたいな投資ファンドに投資していて、70億円の損を出していて、担当者の経理局長は、社長印と局長印を無断で持ち出して逃げ出し、どうやら郷里の宮城県に潜伏しているようだから、みつけて背後関係を明らかにしろという指令だった。見返りは、本社復帰。見返りがなくても、宮仕え、断るわけもない。
一方、警視庁刑事部捜査二課、第三知能犯企業犯罪係の管理官の田辺は、部下のベテラン真藤警部から、件のオメガシップと大和新聞のスキャンダルネタを聞かされていた。田辺管理官というのは、他の麺食い記者シリーズの読者なら、宮沢賢一郎の取材協力と捜査情報を交換し続けてきたとにやりとするシリーズワトソンなのですね。たれこんできたのは、日本実業新聞。(NKですねモデルは)すでに、捜査チームはオメガシップ関係者のファンドの実質的オーナーで運用総責任者鈴木要三へのメイルも手に入れていた。
『一号:調査中 二号:入れず 三号:四回目おかず』
となかなかなぞめいてます。
キーマンは殺されるというのがミステリのルールみたいなもので、経理局長は石巻で絞殺されて石巻港に浮かぶのですね。宮沢は、麺を食い散らしながら、調査を続けて犯人をつきとめ、田辺はその物証を集める。この裁判の役に立てるわけにはいかない物証というのが監視カメラシステム。もちろん、犯人グループの一人が整形手術までして正体を隠し切っていたのを、戦場カメラマンになり損ねた大ベテランカメラマン安住が見破る。整形と証明するのは、監視カメラシステム使い放題の公安が協力するのですが、見破ったカメラマンの眼力はこんな具合。とても同一人物とは思えない、二枚の写真を前に、宮沢は安住に聞く。「なぜ同一人物だと判明したのですか」
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目を拡大した映像が宮沢の眼前に現れた。
「目だけは絶対に変わらない」安住がマウスを動かすと、小さな矢印が画面の中で小刻みに動いた。矢印の先は、瞳、白目と黒目の周辺をなんども指した。「整形しようが、カラーコンタクトを着けようが、白目と黒目の比率は絶対にかわらない」「ということは、先ほどのスナップ風に撮った写真、あの人物もですか?」
「そうだ」安住は低い声で言った。直後画面が切り替わり、今度は白黒写真の大写しが現れた。先ほどとおなじように、安住はポインターを小刻みに動かしたあと、目の部分全体にシャドーをかけ、マウスをクリックした。すると、画面の左上に、シャドーをかけられた部分だけが浮き上がった。安住はマウスを再度クリックした。すると(最初の)目の拡大映像が現れた。その横には、するりと先ほどのシャドーがかかった映像が浮かびあがった。「どうだ、これ」
「同じだ・・・・・・・」宮沢は安住に顔を向けた。両腕に鳥肌がたつような感覚だった。
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警察の鑑識が前科のある人間のデータを「超高速スパコン」で照合するアルゴリズムと一緒なのだという。
いやあ、おっそろしい時代ですねえ。。。
しかし、写真を一枚見ただけで、過去に自分が一度だけ撮った人間の目と同じだと判断するカメラマンの技も超人的といえましょう。
宮沢は、さらに驚くことになる。安住は言ったのですね。この男は911で死んでいる・・・・・・
こっからは、宮沢が脳味噌を絞りまくって、真相を突き止めるんですが、ここからは、ま、普通のミステリ。
この脇役の幽霊の目と生者の目は同じ人間の目であるという分析が、まるで骨探偵の鑑定推理を読むようにぞくりとするのですねえ。
「目だけは絶対に変わらない」