Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

007 “We Shall Not Sleep” Anne Perry の第一次世界大戦のティータイム

Ian Rankin “Black and Blue”、Carol O'Cnnell “Mallory's Oracle”、 Janet Evanovich “Motor mouth” George Pelecanos “The Way Home”と6月から読んできて、目下Anne Perry.
部屋ではあんまり読まないから、ほとんど通勤の往復電車の中で読んでるということになる。
Motor Mouthのアメリカン ジャンクフードの紹介も楽しいのだけれど、目下300頁のうちの200頁まで行ってる「もう眠らない」の方が生なんで書きやすい。。。というよりいろいろ調べながら(ネット検索にハマッテる)読んでることを忘れないうちに書いておこう。
話は、第一次大戦のほとんど終わりかけてる1919年10月の西部戦線が舞台で、従軍牧師のJoseph Reaveleyとその弟の情報員Mathew Reveley, 負傷者運送ドライバーの妹のJudith Reveley の三兄弟が最前線の救護センターで遭遇する殺人事件と国際陰謀事件なんです。ま、終わりかけてるといっても、第二次大戦の終盤戦みたいな英仏米カナダニュージランドベルギーオランダその他の軍の一方的な戦況ではなくて、ドイツ軍も頑強に反撃しつつ、西部戦線をじりじり下がり気味に守り続けているという状況。実際ドイツ帝国軍は東部戦線ではロシア革命まで工作して勝ってたわけで、負傷者もドイツ軍捕虜も相変わらず毎日多数後方へ送られているという状況。
第一次大戦というのは、日本じゃあ、戦死一名負傷者一名というほとんど交通事故以下の歴史なんで、よく分ってない戦争ですが、この大戦というのは、「戦争は悪である」という認識がはじめて生まれた戦争なんですね。それまでは、戦争は外交の延長、道義的なbadness は存在しないと軍人も政治家も市民も思ってたんですね。
ま、ここらへんは、以下のペイジが参考になります。別宮暖朗第一次大戦」というペイジです。
http://www3.kiwi-us.com/~ingle/index.html
2chの戦争オタクたちでも、なにせ日本語資料がすくないので、大一次大戦「板」では、この192頁全部を読んでから書き込めというような基礎知識・用語を勉強するにはもってこいのところです。まあ、Anneとは別に関係はないんですが、
「眠らない」の冒頭に出てくる、Ypre とか、 Somme なんてのが、どういうところなのか、よく分りますし、Josephが所属するCambrigeshire regiment、ケンブリッジシャー連隊というのがどういう軍隊構成なのかなんてことが理解できます。ま、キッチナー陸軍と呼ばれる志願兵軍で、その出身地ごとに連隊が組織されてたんですね。だから隣近所の男達が一緒に戦うというまるで、戦国時代の後北条氏一揆衆みたいなものです。そのあたりは、別に記事を起こしましょう。

「パンの耳」heel of bread

Judithが、珍しく夜間搬送がなく朝の四時に折り畳みベッド(cot)から、おき出して、その日最初の負傷者搬入中の看護兵を手伝った後、六時すぎに朝食をとる。そのメニューが、
She drank a hot mug of tea and ate a heel of bread, then she went to help the nurses.(p.154)
実にあわただしい。お茶を一杯とheel of bread のみで、また今度は看護婦の手伝いにでるのである。
電車の中で読んでるときは、パンの耳だろうと思って読んで、夜寝る前に辞書をひいたら、ちゃんと、パンの耳とある。
うん、でも、まさかパンの耳だけ1本というか一個かじっておしまいというのは、物資欠乏の最前線としても、ちょいと少なすぎないか。というので、さらに調べようとすると、今度は4字以上のデータが見つからない。イラスト辞典の仏英版のパンのところをみても、heel というのは、載ってない。でも絵からは、耳に当たるところは、仏語でla croûte 英語で crust とある。それぞれを仏和と英和で確認すると、仏和は、パンの耳、英和はパンの皮とある。
なるほど、ひょっとして、このa heel of bread というのは、カタマリの端っこの一枚のことかもしれないと想像した。それにしても、これじゃあ、日になんども前線と往復して男の兵士たちを乗せたり下ろしたりする重労働の朝飯としては足りるんだろうかと心配になる。
で、このheel、今度は別の用法で出てくる。
看護婦の切り裂きレイプ犯を探索するJudith が兄弟ともなじみの未亡人看護婦(Josephが惚れまくっているが、兄弟の友人の後家であるためか、Josephが好きなのに距離を置こうとしている)Lizzieの嘘を見破って真実を話させようとする場面である。
Moment ticked by. They seemed frozen. Then Lizzie pushed Judith away and put her hands up over the face, the heels of her palms pusshing into her eyes.
難しい単語はひとつもない。うむ、分る。映像は見える。でも、heels of her palms に当たる日本語が浮かばない。というので、持ってる辞書を片端からみるが、さっぱり載ってない。最後に英語図詳大辞典のhand の項を見た。お、あった。掌の手首よりの内側の、「足のかかとに当たる部分」にheel とある。注して曰く、日本語にはこれに相当する概念はない。。。
猫にはあるのになあ。

「Dixie can」 塹壕の中では何でお茶する?

これは最初(はな)から出てきた。Josephが塹壕の中でやはり起きぬけに飲んだはずである。
The trench was thick in his throat, but he was used to it. He found Harrison crouched in a small dugout in the side of the supply trench. He had made a cup of tea in a Dixie can and was sipping it. Joseph knew exactly how it would taste: like sour water and the residue of tinned Maconachie stew. (P.7)
ま、このマコナシシチューの残り味のするクッカーでお湯を沸かして茶を作るわけですね。Maconachie stewというのは、英軍の缶詰レーションの定番で、人参と蕪が具、味といったら、「餓死寸前だからこそ食えるけど、ひどくまずい。たまにジャガイモが入ってるんだが、真っ黒で。。。」というような散々な評判が今でもインターネットで読める。100年近くたってるのにね。Lolol. 最初は英軍のレーションも、コーン(ド)ビーフの缶詰と、パンとビスケットと、このマコナシシチューだったんだそうだ。ところが1916年に小麦粉が欠乏してくると、パンは乾燥蕪の粉から作られたとか。で三年目あたりは、グリーンピース豆と羊か馬のスープが当たり前になり、ついには野菜までもが欠乏してきて雑草のイラクサが代用で使われたとか。(http://cookit.e2bn.org/historycookbook/22-112-edwardians-and-ww1-Food-facts.html)(History CookbookのEdwardian and WW1 Picture Gallery Food)
えーと脱線しちまった。ここでは、Dixie canで淹れて、ともかくも cup で飲んでる。他のところでは、Dixie can で飲んでるというような表現が出てくる。そこで、

Dixie can ってなんだ?

辞書引こうが、ネットのフリー辞書を引こうがまったくでてこない。Dixie can で検索かけてみると出てくるのは、Dixie Chicks のCan love you better ...好きな曲ですけどね。Lolol.
でも一件ヒットした。第二次世界大戦のエピソードなんですが、それが、ABCのニュースブログ。
http://blogs.abc.net.au/nsw/2010/08/dixie-can.html?site=sydney&program=australia_all_over

George Vanselow (a POW in Sumatra) returned from WW2 with this Dixe Can.His daughter Margaret traced the owner to Klass Smit. Margaret has just travelled to Amsterdam to return the Dixe Can to Klass Smit's daughter Trudi
(これもやさしい英語なんで訳すまでもないと思うが、ようするにヴァンスローさん(スマトラで捕虜生活を送ってたそうな)が戦地から持ち帰ったDixe Canには持ち主の名前が入ってた。そのKlass Smit さんに、ヴァンスローさんの娘さんが返そうとして、Klassさんの娘さんを見つけました。。。2010・8・24)
おお、これかあ。登山用のコッヘルじゃん。たしか、英語じゃあ、Mess tin だったはず。そこからは、検索語にmess tin を加えたら次々とヒット。
一番、お茶しやすそうなのは、ドイツ製のこれ。
http://www.flecktarn.co.uk/photos/flbca1ux500a.jpg

まあ、このDixie Canを検索(月曜日のオフの半日潰れてしまった)してたら、やはり、向うの戦争オタクたちの板がやっぱり一番でした。
http://1914-1918.invisionzone.com/forums/index.php?showtopic=148149
Great War Forum というんですが、スレッドをたてたのがTerry Carterさん。
What did British troops eat their food out of during WW1. A dixi or a mess tin or does it mean the same?
まさに、同じ疑問を持つ人っているんですねえ。LOLOLOL.
“We shall not sleep”の方の感想は読後にまた書くことにします。
その上、ヴァンスローさんの持ち帰ったコッヘルの横に、JAPANと読める文字が彫り込まれてるのですねえ。。。また、謎から謎が一つ生まれてしまった。なんでオランダ軍の備品にJAPANの文字が入ってるんだろう?これを調べ出したら舞踏派はどこにたどり着くのだろう?ほんとインターネットに潜るのはきりがないですねLOLOLOL.
(追記)リンクが切れているので、せめてDixie Can の写真を再検索したから、載せておきましょう。中古オークションから。 2018/07/01