Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

012「緋色からくり 女錠前師 謎とき帖一」田牧大和、「お医者同心中原龍之介 冬亀」和田はつ子 

古今東西、官僚組織が腐り始めると、役人は公僕の概念を喪失して公職の私物化に走る。仕事は組織維持(組織外一般人の疎外)のための最低限にとどめて、自己保身と自己利得の増大が行動原理となる。武家社会というのは、もともとその武力による手柄で自分の土地を保証してもらうという構造になっていたから、戦争が消失すると、手柄は役目による成果であり、自分の土地は即ち知行=サラリーの保証となるはずなんだが、手柄が金集めて上級組織者への付け届け、知行は貨幣経済の進展とともに相対的に低下して、組織外へ利便を図ることで収賄を取るのが当たり前になる。その腐敗堕落の程度をどの程度にするかというところで、組織と人間の物語が新たな側面を見せる・・・・・この二人の作家は、その人間=ヒーロー達の舞台をあらたに作り出して見せている。

奉行所の役職名を並べておきましょう。

用人(ま、奉行所内の役ではなくて奉行の家臣の秘書ですね)内与力(10名)年番方(与力3名、同心6名:人事部ですね)当番方(与力3:庶務課、年寄り同心3、物書き同心3平同心全員)用部屋付(同心10名:用人付で秘書課とでもいうべきかな)両御組姓名掛同心(南北与力同心の名簿の管理役)吟見方(本役4、助役4見習い2)例繰方(与力2、同心2)赦帳撰要方人別調掛、御出座御帳掛(同心2)、定町廻り(同心南北計12)、定町廻り方御供中間、臨時町廻り(同心南北計12名)、隠密廻り(南北計4)、非常取締掛(与力8、同心16)、昼夜・風烈廻り(与力2同心4)、高積見廻り、町火消人足改(与力2、同心1、冬季増員)牢見回り(与力1、同心2)町会所掛、養生所見回り(与力1、同心2)市中取締諸色調掛、御肴青物御鷹餌下掛、古銅吹所見廻り、定解同心、定中役同心、下馬廻り(同心6)門前廻り(同心10)定橋掛(与力1同心2)本所掛(与力1同心2)町奉行所附き中間・小者(中間、南北計350、小物数十人)http://homepage2.nifty.com/kenkakusyoubai/zidai/matibugyo.htm
この他にも、猿屋町会所見廻り(与力1、同心2)人足寄場定掛、硝石会所見廻り、御出座御帳掛同心、定触役同心、
(「江戸町奉行http://homepage1.nifty.com/kitabatake/edojob3.html)がある。

「お医者同心中原龍之介 冬亀」和田はつ子 講談社文庫 2010年 552円+税

2010年3月に始ったシリーズで、「猫始末」「なみだ菖蒲」「走り火」「冬亀」「花御堂」と出ている。ホームズ役は、定中役同心中原龍之介、定廻同心の次男で、若くして剣才を謳われていたが、馬医者になろうと練馬の医者のところに住み込んでいたのだが、ある夜凶盗が実家の役宅を襲い父母から家族が皆殺しに会った。跡を継ぐことになったが、評判の腕利きのくせに当夜家にいなかったのはけしからぬという、ほとんど言いがかりに等しい理由で、定廻には菊池という同心がつき、龍之介は定中役という「臨時のときに対応する職。臨時におきた事件等に必要な職務に従事し、出役などもおこなった。定員は2人」(上記リンク「江戸町奉行」)詰所が厠側なので、別名厠同心という閑職につかされる。自宅で待機しているような役というのが和田の設定で、龍之介は、その有り余る時間をつかって、香草を使った人間・動物を問わずに治療するハーブテラピィ医業をはじめた。助手役に父についていた岡ッ引の二代目で龍之介とは幼馴染の桝次が無駄肉の全くないマッチョマン岡ッ引として登場する。桝次は菊池から札をもらっているにもかかわらず中原邸に出入して龍之介のハーブガーデンの面倒を見ている。
ワトスン役として酒屋の長男松本光太郎が父親に同心株を買ってもらった定町廻同心見習いとして登場する。恋女房というか、趣味の草双紙で結びついたおたいと、順調に人生が始ろうとしていたのである。最初の一月は。親に金があるので、周囲は、その実家の金を目当てに(要するに付け届けが欲しいから)大事にしてくれていたが、ある日仏像泥棒を取り逃がしたことから暗転する。龍之介がたまたま通りかかり、人質の幼女を無事救出してくれたもの、龍之介は幼女救出のみでよしとして犯人逮捕に興味がなく、光太郎が仏像を手にしたのを見て犯人を見逃がしてしまう。つまり、同心二人で犯人を取り逃がしたという形になった。これだけなら、奉行所内の話でおさまったのだが、光太郎からその話を聞いたおたいは幼馴染の瓦版屋に光太郎の手柄として話して世間に旦那の手柄を広めようとしたのだが、瓦版屋は、裏を取って、金で成り上がった同心の不始末という話で売ったのである。面目を失した奉行所組織は、光太郎を定中役に回した。奉行所に出所も及ばずという事態に保身第一の組織人間ども(同心・与力)は手の平を返した。一人も言葉だけでも慰めてくれるものもなく、口も聞こうとしない。(ま、時代を問わず、この国じゃあ、どこにでもある話ですねえ。lolol)
光太郎はふてくされて、定中役筆頭(二人しかいないけど)中原邸に挨拶に行って、杉ノ介という犬と仲好しになったものの香草の手入れの手伝いもする気もなく、自宅でふて寝していたが、杉の介が毎朝、おたいがくれる干し芋を目当てに光太郎を迎えにくれば、のこのこついて行くという体たらく。

この三人と一匹が、たまに年番与力筆頭で龍之介の患者の島崎が持ち込む事件に遊軍としてかかわっていくというのがパターンなんですね。最初の三作で、中原家皆殺しは奉行所内部の腐敗した組織を父親が暴きかけていて、兄も腐敗与力と結んだ凶賊を手入れしかけていたのを妨害するための奉行所幹部と狂盗、裏社会が手を組んだ事件だったと判明、龍之介は光太郎の助力もあって全てを暴き出し、黒幕の与力二名は処分され、結果として敵討ちとなったが、黒幕へ追従した与力同心達を処分すると組織がなりたたなくなるため不問となり、奉行所の腐敗体質はあいかわらずのまま、龍之介と光太郎は定中役同心のままで、第4巻「冬亀」となる。
この第4巻から読み出せば、普通の窓際同心捕物帖として読めます。正直に書くと、少々うんざりするくらいの暗い影が消えた龍之介がちょいと変わり者の探偵役に変身して、さあ、こっからがエンタテインメント。
事件は、空火事騒ぎを起こして、その間に空き巣を働く連続窃盗事件。腐敗しきっている奉行所組織は、相変わらず根性曲りのヘボ刑事役の菊池同心がまわりを怒鳴り散らしながら動き回っているだけで、全く解決のめどがつかない。年番与力の島崎が二人に定中役「臨時廻り」を仰せ付けて(もともとそういう役なんですね)龍之介・光太郎・桝次トリオが動き出す。連続事件と見えたものが、龍之介の慧眼で別々の三つの事件と次々に判明解決していく流れは痛快です。
風邪で寝込んだせいもあって、5冊を四日で読んでしまった。LOLOLOL.
脇役の狼顔の犬に凶暴鶏、白猫、小ネズミ、亀。。。。これって佐々木倫子の「動物のお医者さんと同じだなあ。とするとマンガ化のときは、佐々木倫子で決まりだな。LOLOLOL.
干し芋とハーブ」で[cuisine]を近々書くつもりです。

「緋色からくり 女錠前師 謎とき帖一」田牧大和 新潮文庫 2011 476円+税

女なんとか。。。というシリーズはあんまり手に取らないことにしてるのだけど、カバーの村田涼平のどこか太った犬にも見えるような大福(ヒロインの猫です)の絵とカラクリ錠の絵に引かれて買ってしまった。風邪で熱が出てなきゃ買わなかったかもしれない。Lololol.
読み出したら止められず、とまらない咳で筋肉痛になりながら読んでしまった。いやあ、この作家おもしろい。
探偵は、男言葉の錠前師、父親の跡をついで「『緋』錠前」を作り、開錠を生業にしているお緋名。この緋錠前は、錠のどこかに「緋」と一字彫りこまれている。それを目にした盗人は、そこで開けるのあきらめるという名人物。
四年前、姉のような志麻が、その子どもの六歳の孝助を連れて髪結いに回った得意先で凶賊に殺された。志麻は、孝助に、己の鬢盥(びんだらい)と金を託し、その一番下の引き出しを緋名おばさんに開けてもらうように指示してから、息子を水甕に隠して殺される。孝助は割れ目から犯人の顔を見て覚えて、犯人が立ち去ったあと、鬢盥を引きずって逃げた。緋名のもとへ母親を助けてもらおうと篭を使ってたどりつく。緋名は、孝助から状況を聞き、引き出しの中身を調べたあと、孝助を奉行所にも報告もせず、隠してしまう。(何故通報しなかったかといえば、奉行所の腐敗度が「お医者同心」シリーズと似た様な深刻さで、引き出しの中身を見たお緋名は奉行所内に共犯者がいると思ったからなんですね。)志麻の夫は岡ッ引でやはり殺されていた。志麻はその敵をとろうとして、深入りしてしまったわけです。ところが、奉行所は、得意先の商家の女の痴情のもつれの殺人事件として、正体不明の犯人を手配して事件は未解決のままになる。下女と志麻は巻き込まれたという見解だった。女主人は何度も刺されていたのに、下女と志麻は一太刀だったから。
孝助は緋名の幼馴染で志麻の愛人の髪結いの甚八が、息子として引き取って育て始める。この甚八が人形首のいい男なんですね。ま、それ以上に女錠前師の登場場面が粋なんです。
Kokokara-----------------------------------------------------------------
日差しに暖かみが残る晩秋の午、江戸の町を背の高い女が颯爽と歩いていた。
年の頃は二十四、五といったところか。目許涼やかで色白の、きりりとした美人だ。すれ違う人々が、思わず、といった態で女へちらちらと視線を遣っている。人目を引いているのは、姿が美しいからというだけではなかった。艶やかな黒髪をきゅっと櫛に巻いて留めた櫛巻きの結い髪を彩るのは、鴇色の小さな玉簪がひとつ。花色の青も鮮やかな縦縞の小袖をいなせに腰ではしょり、すらりとした足には藍の股引、廻り髪結いが持つ鬢盥のような道具箱を手にしている。
男か。
いや女だ。
to------------------------------------------------------------------made.
お緋名が訪問した仏具屋は、道楽者の主人が突然なくなって、鍵があけられないものがあると依頼してきたもので、緋名が見ると父親の作。緋の字は入ってない。(あとでわかるのだが、からくりを緋名が担当したものにのみ、父親は緋と入れていたのだった)懐かしい父親の作を緋名は簡単に開けて、番頭と父親の思い出話にふけったのだが、ここから、緋名のまわりにきな臭さが漂いはじめ、甚八は、緋名に用心棒をつける。現れたのは堤康三郎という得体のしれない牢人だが、大福が気に入ったので、離れにおいておくことにした。
そのうち、二人が留守の間に空き巣狙いが入り、甚八の髪結床にも入られる。知り合いの辰巳芸者に頼まれて、商家の道楽息子に引導を含める役目を男装してひきうけたりするうちに、事件は一気にクライマックスへなだれこんでいく。ところどころ、うん?とひっかかることもないわけではないけど、この緋名のキャラが立っていて、いっしょに事件の中を突っ走って解決へ踊りこむようなスピード感は、That's entertainment!
あ、また新刊で買う作家ができてしまった。LOLOLOL.