Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

Great Black Kanba by Conyth Little,1945

あっというまに、年末になってしまった。書くことはいっぱいあるけど、書いてる余裕がないヘタバリクタバリ労働の日々だった。。。ま、単に年老いてパワーがなくなったというだけなのかもしれない。
今読んでるのは、John Hart のDown River、386頁の228頁。逆井辰一郎の「雪花菜の女 見懲らし同心事件帖」。昨日読み上げたばかりのホヤホヤが日明恩の「ギフト」。で書こうとしているのは、コニス・リトル「記憶をなくして汽車の旅」。それでは行こうか。

コニス・リトル「記憶をなくして汽車の旅」三橋智子訳、2008、創元推理文庫東京創元社 50円、定価720円+税

Great Black Kanba by Conyth Little,1945
腰巻に曰く、わたしは誰?終点は?オーストラリア横断列車はおかしな乗客と怪事件でいっぱい。発掘!鉄道ミステリの傑作。
うん、実に内容とはそぐわない派手な腰巻です。鉄道ミステリマニアってのがいるとしても、この内容では、うむむ、もうちょっと鉄オタクをまんぞくさせるような、鉄道知識がちらばめられてくれたらなあと思うだろう、かもしれない。Lolol.
ストリーは単純で、20歳台と思われるブロンドの美女がオーストラリア大陸横断鉄道の列車の中で自分が記憶喪失になっているのに気づくところから始まる。スーツケースの中身の書類から、彼女の名前はクレオバリスター、ハリウッドで売れなかった女優の卵という派手な女として、周囲は扱ってくれているが、本人は自分が別のにんげんではないかという疑問を持つ。なぜか旅の同行者として、奇矯な老人とその遺産目当ての一家にくわえて、「旅の婚約者」役クライブ・バトラーという精神科医(らしい)に、ジミーというクレオが遺産の元の持ち主の親類の階段転落の死亡事故の際、パースへ、赤毛に染めてやって来ていたのを目撃して、クレオが殺人犯人と確信して結婚しろと迫る男もいる。シドニーでどうやら、網棚のスーツケースで頭を打って記憶喪失になったらしいが、その時同行者がいたらしく、そちらは腕を怪我して病院に運ばれたという。その女、バージニア・ピーターズが途中から乗り込んできて、一行の男たちを悩殺にかかるが、旅の途中でクレオのコンパートメントで喉を剃刀でかき切られて死亡する。犯人としてクレオが疑われるが、州境をこえてしまったため、警察も逮捕できないというのが1940年代のオーストラリア。
ま、謎は、最初の遺産保持者の老人の死の謎をクレオが解くことから、犯人の自白につながって解決するのだけど、その謎解きより、「私は誰?ひょっとして殺人者?」というヒロインの恐怖サスペンスの方でミステリの雰囲気が染まるのだけれど、大工仕事が大好きなちびっ子の姪、アイリーンと奇矯な金持ちアンクル・ジョーの行動言動でコージーミステリ風味もたっぷりと味わえるのです。
検索してたら、イギリスのミステリマニアが3ドルで、同じ作者のBlack Irisの初版本を手にいれた記事を見つけました。かの国の半世紀を隔てた読者は曰く、ミステリとしてはアクロイド殺しなんかと同時代だけど、それと比較するのはやめよう、なんせ古本屋で3ドルだったんだから、その値段からしたら、極上に楽しめますよ、と書いてました。
うん、舞踏派も同感。こっちは、もっと安く50円だもん。できれば、英語版で出会いたかったなあ。
森英俊が解説を書いていて、なかなか読ませますが、作者については、「翻訳ミステリ総目録 1916-2005」というサイトが便利です。
http://www.ne.jp/asahi/mystery/data/WD/EW/EW_RI03.html
によりますと、この作家は1930、40年代に活躍したビッグネイムですが、現在は忘れられてしまったようです。海外でもマニアが、古本屋を探しまくって読む作家のようです。
Gwyneth Littleと Constance Littleの姉妹の合作で、名前もCon+neath でconyth Littleと合体していたみたいです。オーストラリアに生まれ、若くして作家になり、50代で稼ぐだけで稼いで隠退して、二人で自作を地でいくような旅の余生を送って(世界一周も3回もやってるとか)イギリス、アメリカ、メキシコで暮らして80過ぎて亡くなったとか。作品名は、かならずblack が入っているところがミステリらしい。この作品の原題は、イギリスで出た時はBlack Express. アメリカで出たときは、いかにもエキゾチックな Great Black Kanba(アポリジニ伝説に出てくる、黒い大蛇で、アポリジニは鉄道列車をそう呼んだそうな。すると新幹線をみたらGreat white Kanba と叫ぶのかなあlolol)。1940年代ですから、電車ではなく列車、蒸気機関車で引っ張られてます。その煙の話は、全く出てこないのもちょっと、今の時点で見るとつまんないかも。
イギリス版のBlack Express の表紙は、色刷りの絵の機関車。これがいいんですねえ。ネットで注文しようかなあ。20ドルくらいだから。
鉄道ミステリらしい、趣向は目次の上の作品中に出てくる停車駅一覧で、翻訳はカタカナなんですが英語で書くとこんな感じ。

                • Stations in the Great Black Kanba(Black Express)------

(Brisbane---Sydeny)Albury---Melbourne---Adelaido---Portpirie---Port Augusta---Wilamina(Wilhelmina?)---Tarcoola---Burton---Rawlinna---Kitchener---Zanthus---Parkeston---Kalgoorlie---Perth
http://www.railpage.org.au/railmaps/

これをグーグルの地図で追いかけると、オーストラリアの広さが実感できますが、(せっかくの正月休みの6時間をこれでつぶしてしまったlololol) ウィラミンナというPort Augusta とtarcoolaの間の停車場が見つけられなかった。いくら拡大しても、停車場しかない駅もあったから、今は廃駅なのかもしれません。(作品に出てこない駅もいっぱいあります。そんな駅名の一つからさらに検索したら、一度廃駅廃タウン状態になったのが、中国資本が買って鉱山再開発なんて生臭い話まで読めたりもしますlololol)ま、たいていの停車場の横には滑走路だけの空港があるので、そっちの方が便利なんでしょうね。
Tarcoolaなんかは、最近できた南北縦断鉄道(これが世界中の鉄ちゃんに人気でいつもキャンセル待ちの満員なんだとか)は、ここから、分岐するんですが、かなり拡大しないと、なんにもない砂漠の中です。じっさい、夏場は平均40度の気温で48度なんてのも記録されてるとか。でも、夜は20度くらいに下がるようで東京の方がずっと暑いようです。ま、そこらへんも、クレオが帽子を被らずに(他人の名前と帽子と気がついて、その下品な色に被らないのですが)、現地人たちからは、小娘のアイリーンからまで、頭が焼けちゃうよと避難される始末。でも、クレオは、カリフォルニアでは被らないのが流行だなんて、戻りつつある記憶から反論するんです。うん、灼熱の旅情ですねえ。
あとの地名は、確認できますので、是非バーチャルなオーストラリア列車旅を。。。時間がたっぷりございましたら。。。LOLOLOLOLOL.
最初は、5ft3in の1600mm軌間の線路で、途中乗り換えて、4ft8 ½ in の新幹線と同じ標準軌になり、最後は、3f6in のまた狭く感じられますが、これは、我々もなじみのJR在来線の1067mmなんですね。この植民地州ごとに意地の張り合い騙しあいの結果のばらばらさは、この作品の中でもコミカルな議論の種になってますが、技術的な話はそれだけなんですねえ。
ま、今日は31日、けっこうやることがあるので、この辺で。
みなさま、よいお年を。