Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

日明恩 「ギフト」、西岸良平 「虹の橋」

あけましておめでとうございます。

晦日に書いて、一日一記事で休みの間は書こうと思っていたのに、食べすぎから来る高血圧で寝込んでしまい、一年の計は、一日で崩壊してしまった。。。LOLOLOL
ま、それでも寝そべりながらたまっていた本を数冊片付けたのです。そのうちの一冊が「ギフト」

日明恩「ギフト」双葉文庫 2011年、714円+税、初出 (株)双葉社 2008年

元刑事の須賀原はビデオレンタル店のアルバイト店員をしながら、世間の目から隠れるように生きている30代。その須賀原の店にDVDを借りはしないのに、毎日のように来ては「シックスセンス」のDVDを手にとって涙を流している少年が現れる。その須賀原がスーパーマッケトの帰りに、少年が交差点を赤信号で飛び出そうとするのを、反射的に捕まえた。その腕をつかんでいたつかの間に、『目が覚めるような明るい緑とオレンジ色が複雑に混ざった柄のワンピース。その服装から若い女性かと思いきや、いたのは白髪頭の老女』を見た。その老女は見る見るうちに『交差点から振り向いてこちらを見ていたはずの老女が、俺達のすぐ側にいた。それも頭と身体の左側がぐちゃぐちゃに砕けた血まみれの姿』に変わる。『老女の唇が動いている。何かを呟いている。俺ではなく、少年に向かって何度も繰り返している。だが声は聞こえない。老女がわずかに頭を左に傾げると、砕けた頭蓋骨の中から何かがずるりとこぼれた。原形を留めていない左肩の上に落ちた血まみれの柔らかそうな物体が、そのままワンピースの上を伝わり落ちていく。同じような状態になった人体を、俺は知っていた。』須賀原は目の前に事故が起きてないと思う一方で、彼女が見えているのに戸惑うが、少年から手を離した『瞬間に、老女が消えた。』

うん、ここで、いつもの日明風青年成長小説ミステリの元刑事ハードボイルドのつもりで読んでいたのはマチガイだったと知ることになる。なんだ、ホラーファンタジィなんかを日明が書いたのか。見えないものが見える少年、gift のあるDanny坊のThe Shiningみたいなもんか。。。と、頁を閉じて二週間ほどうっちゃっていたのを、ストックを全部読みつくしたのと、布団から出られなかったことも重なって、再びチャレンジしたってわけです。(ホラーは苦手なんですねえ.ドキドキしすぎると血圧が上がるもん。Lolol)
で、読み通してみると、この幽霊というか成仏しない霊が見える少年明生と須賀原が共同で、さまよう霊を成仏させていくのですね。最初は、老女、次は犬、7歳くらいの少女、自殺したにもかかわらず周囲に殺されたという勘違い嘘吐き身勝手女(これは成仏しないんですが、ま、納得のいく地上居残り霊に落ち着く)、最後に須賀原が退職した原因になった自転車泥棒職務質問を受けて逃げ出し、追われるままに車道に飛び出して死んだ中学生。
明生の見えるgiftのせいで、崩壊した家族と明生の人生の立ち直りと、須賀原の追いかけた中学生とその両親の精神的救済、須賀原自身の再生が、同時進行して語られるところは、やはり青年成長小説家日明恩の世界です。
感動的なちょっと苦い味もないではないハッピーエンドに引っ張っていく日明の力量はすごいなあ。
ただ、7歳の少女美沙のエピソードは苦いです。7歳で自宅の池に浮かんだ少女が、その弟を心配して地上にとどまっているという物語の背景の絶望的暗さは、ちょっと苦すぎる。それでも、彼女は彼女の年をはるかに越えた弟を立ち直らせ成仏していくんですが。
同じような、話が「三丁目の夕日」シリーズにもありましたね。

西岸良平 「虹の橋」(月イチ三丁目の夕日「お手伝い」2011 小学館 330円)

母親に勉強しろと尻をはたかれまくっている高校三年生の洋一郎の一日体験。両親と口げんかの果てマンションを飛び出した洋一郎が歩道橋の上から虹を見つめていると、宙に浮かぶ小学生の少女が横に現れ、『虹の橋はタイムマシンなのよ。私と一緒に過去に戻ってみましょう』とタイムとラベル。そこで父親の小学校時代(もろ昭和30年代初期)中学校時代、定時制高校時代、最後に万年係長に終わりそうだが会社の中で人に慕われている現代とめぐるうちに、洋一郎は父親を理解して、家へ戻っていく。戻った家で古いアルバムの中に洋一郎は少女を見つける。横に写っていた父はまだ小学校に上がる前だった。父に聞くと十歳で亡くなった姉なのだと洋一郎は知る。
日明の話に比べると、御伽噺ですが、両者とも「狐疑孤独を抱え込んで、自暴自棄の果てにダークサイドにおちないでね」というメッセージが伝わってくるようです。
ギフトのエピソードの中で美沙の物語はちょうど真ん中に位置します。苦さも残りの200頁で浄化されてしまうのは、そのエピソードを並べる構成の巧みさにあるようです。やっぱり、すごい書き手です、この語り部は。