Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

013 高橋由太「つばめや仙次 ふしぎ瓦版」、永尾まる「猫絵十兵衛 御伽草子 3」、岩合光昭「ネコを撮る」

5日の午後に駒込の仕官先に師走の書類を届けたあと、駒込停車場内の本屋をのぞいたら、永尾まるの絵が眼に留まった。文庫の表紙で江戸の優男の肩で足袋足の黒猫が緑の目を光らせている。長着の柄は百鬼夜行で、轆轤首に火炎傘の瓦版が猫と着物の間に張り付いて、そこから伸びたろくろ首女が、縦縞を尻はしょりした狐と話をしている図。ちゃあんと、永尾まるの初期キャラクタのサンショウウオも墨染めの衣に木魚の撥をもって描かれてある。あ、これは、買い。
買ってから作者名を見た。

高橋由太「つばめや仙次 ふしぎ瓦版」光文社時代小説文庫 2011年、税込み500円

文庫書き下ろしである。それにしても薄い。207頁である。これでは、長距離列車に乗るには不足にちがいない。ワンコインで買えるというのは、いかにも停車場本屋の品らしくていいけれど。
薬種問屋つばめやの次男坊の仙次は、道楽に『ふしぎ妖しや怪しの瓦版』を出して自分で売り歩いている。いつのまにか本所深川名物のひとつに数えられるようになって「つばめや仙次」と呼ばれて町人たちのお気に入り、アイドルになってしまった。用心棒友人がついていて辻風梶之進という『本所深川で』『敵なしの剣術使い』と呼ばれている辻風一刀流道場の若先生である。この二人の寺子屋仲間どころかおむつをつけているころからのつきあいの「深川小町」のお由有が主人公グループ。後見人はお由有の父親の町医者宗庵。
事件は、宗庵が助からぬと見立てて治療はしたが死んだ武家の跡取りが、拝み屋の八兵衛によってよみがえったために、宗庵は藪という噂が広まって、患者が去ってしまい休業状態というもの。宗庵は、長い人生でこういう休日の日々もまたよしと達観してるが、家計を預かっているお由有からするとそうもいってられない。その拝み屋が橋のたもとで武家に襲われていると駆け込んできて、仙次と梶之進が飛び出して助ける。。。梶之進は想い人の親父殿のライバルをぶった切るつもりでいたのに、複雑な物語の進行具合。
よみがえった死童と拝み屋の情報をもとめて、仙次は『鬼一じいさん』を「本所深川の外れも外れ」の百姓の元納屋に訪ねる。その飼い猫の元孤高の野良猫『猫ノ介』も爺さんも仙次同様の深川名物の一つなんですね。この爺さん、酒と女にしか興味をなくしたわけあり人生の達人にして、鬼一法眼流の超人的達人。その爺様は、おみよという夜鷹女郎とくらしていたが、聞くつもりの話はろくに聞けずに、実家の台所からくすねてきた兄の高い酒を一升のまれただけ。(ここらへんは、シリーズ一巻目なんで登場人物紹介のエピソードが延々続くわけですねえ。もっとも、こういう豪傑紹介編が物語では一番楽しいところなんですが)
そのうち、八兵衛とお由有が、件の旗本屋敷に拉致されたというので、この三人組がほとんど殴りこみ同然におしかけるが、この旗本も馬庭念流皆伝者というので、ほとんど膠着状態になったところに、この裕福な旗本家乗っ取りを企む悪人旗本一家が登場、敵も味方もあわや悪人の銃の餌食になりかけたときに、まず猫ノ介がその反攻一番槍ならぬ、一番爪を立て、梶之進と鬼一爺さんのダブルアタックで悪人は退治されるのです。その間、タイトルロールの仙次は何をしてたかというと、この二人に殺陣はまかせて、周囲観察しながら、謎解きの脳細胞作業。
よみがえった跡取りの「おいら」という言葉から、仙次は謎を解いてしまう。八兵衛の本当の姿は「人買い」で、その背後には、農村部の飢饉と子殺しがあったという歴史の暗黒面はさらりと絵解きして、悪人旗本や、武家の極道息子族はぽきんぽきんと骨を折られて退治され、めでたしめでたしのお正月。(文庫書き下ろしがでたのは七月だったけど)
あ、武家の子どもは、「おいら」じゃなくって「われ」って呼ぶらしいです。畠中恵の「こいしり」で知ったのですが。

永尾まる「猫絵十兵衛 御伽草子 三」少年画報社 600円+税 2010年

「ねこパンチコミックス」の一冊で、連載されてたのはコンビニで売られている「ねこパンチ」というねこマンガ専門月刊誌。岩合光昭猫写真の見開き折りが見たくて買ってるうちに、中毒したのが、猫絵師十兵衛と猫又仙人ニタ公のコンビの時代マンガで、もうすでに4巻が出て、近く5巻目もでるとか。
猫絵師というのは、江戸の路上芸人で、ネズミよけの猫絵を売って歩く坊主姿の乞食にちかい芸人だったようですが、十兵衛は、現代風の頭で背中の笈にニタ公をしょって、江戸の町を歩いてるのですね。十兵衛の長屋の炬燵にはいったニタ公は、「朝っぱらから酒かっくらって黄表紙読んでる猫がいるか!!」と掃除の邪魔だから炬燵から出ろという十兵衛に、重さ30キロはありそうな麻呂眉のニタ公は「ここにいますねー。冬の猫の定番っちゃあ炬燵でゴロ寝だろーが 俺をよけて掃除しやがれ にょほほほ」というような暮らしぶり。住んでる長屋も、全ての家族が猫を飼っていて、自由に猫は長屋中をあるきまわり、半分野良猫みたいな猫たちという、猫天国長屋なんですが、そこへ間違って入居してしまった、父について修行時代にニタ猫又仙人に脅かされて猫恐怖症に陥ってた剣道場の師範代西浦すら仔猫のトラ助を飼い、魚採り名人猫の耳助におしかけ居候されて、ともかくも二匹の猫のオーナーになってしまうような長屋なんです。
そこで展開される猫をめぐる御伽噺(ファンタジィ)で、永尾まるの独特な絵が不思議に江戸情緒とぴったり合って、何度でも繰り返し眺められるマンガになってるのですね。
ええい、ついでに岩合さんも書いちまえ。お正月だ。

岩合光昭「ネコを撮る」朝日新書33、720円+税、2007年 朝日新聞

腰巻が全てを語っている珍しい傑作。曰く、ネコのことならイワゴーさんに聞け!!ネコを撮ると健康になれる!!

日本のネコと犬の数はほぼ拮抗していて1300万匹だそうだけど、ブログや投稿の写真の数は7割がネコなんだとその序文で紹介されている。
まず1.早起きしよう。(ネコは朝早く動き出す)
その2.撮影準備体操としてネコにあいさつしよう。(うむ、撮る前に挨拶するのだという。それも人間語でである。ネズミ鳴きで挨拶してる猫撮り久光なんかは、人生態度から改める必要があるなあlolol)当然、出会う人たちにはネコより先に挨拶が必要。飼い主なら、事前挨拶は必須とのこと。外国だと、その国のことばで、「私は怪しいものではありません」と現地人にあらかじめ書いてもらった紙を常時携帯するのだとか。
その3.岩合さんは書いてないけど、この人のネコ写真はあきらかに地面に寝そべり腹ばいになって撮っている。ということは、地面に寝転べる服装が撮影服であるということになる。
その4.撮る側としては、緊張しないこと。そう。。。おっ、と身構えると殺気が出るから、敏感な生き物や人はソレと察して警戒から逃走もしくは、人の場合だと仮面防衛、ひょっとすると、なんやこら!勝手に撮んな、じじい!となるもんな。
その5以下もあるけど、きりがないのでやめておこう。この本は紹介ですまさずに読むべき一冊なんです。
でも、腰巻のネコを肩に乗せてわらっている岩合さんの写真、いいですねえ。うらやましいなあ。