Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

016 高橋由太「忘れ簪 つばめや仙次ふしぎ瓦版」江宮隆之「写楽の首 大江戸瓦版始末」浅黄斑「目黒の筍縁起 胡蝶屋銀治図譜(二)」

その時の時勢に合わせて時代物のヒールとヒーローが変わると書いたのは誰だったかわすれてしまった。
明治のクーデター政権は、江戸を貶めるためにたった10人ほどしか獄死していないものを安政の大獄と名づけて、井伊直弼を極悪人扱いしたし、アジアへ軍事侵略を開始するとヒーローは豊臣秀吉西郷隆盛になった。これが、戦後になると、一転、高度成長政策には「改革者」人気で織田信長坂本龍馬に変わるというような話だった。
ま、二人とも挫折した「改革者」だったjところが、経済成長時代の運命を予告していたみたいである。lololol
バブルが吹っ飛んで先行きが見えなくなったら、今度は挫折したけどその後もある程度の存在感と経済力を保持し続けた伊達政宗戦国大名の中での一番人気になってるというのは、意外とこの説は正しいのかもしれない。
ま、薩摩藩の人気というのは、戦前は大仏次郎鞍馬天狗を見ればわかるように、ヒーローだったのだけれど、最近の時代物ではあんまり芳しからない。とにかく浅黄裏のくせして、大声で恫喝して示現流でダンビラを振りかざし、密輸で藩財政を犯罪性をものともせずに立て直す、結果オーライ主義の上、幕末にはテロリストの後ろ盾。最初は幕府側で長州を叩き、ついでは幕府の寝首を掻いた・・・・・・なんかどッかの覇権国家みたいなイメージがあるが、このイメージって、倒幕後の東京を描いた大仏次郎鞍馬天狗と共通したものがある。大仏次郎明治新政府進駐軍アメリカ)の図式で失望した天狗の話を書いているのだけど。
無限経済成長の夢バブルがはじけて、この成長幻想が消えてみると、これは、結局明治以来の日本の政治経済体制がそもそもおかしかったかと、無意識にチェックが入りつつあるのかもしれない。つまり、この原因は薩長土肥に根本がある。というので、江戸時代見直しと倒幕連合筆頭の薩摩藩の旧悪が表に浮かびはじめてるのかもしれないと思うのです。すくなくとも、今なら薩摩叩きやっても作家はネタにはなれ、業界から村八分にはされないという大衆小説家、エンタテインメント商売人の心理なのかもしれない。
まあ、東北出身者の舞踏派なんかは、東北六県(福島は違うかもしれないが)源頼朝豊臣秀吉徳川家康薩長土肥も全く人気がなかったどころか、反感しかもってない、よくてフン勝手なことばかりやって書き残してやがると思ってる大人たちを見て育っているので、いまさらなんだけどね。やっぱりアイツラは悪だった。lolololol
(鹿児島県民の皆様ごめんなさい。おかげで山口広島高知県民さんは安穏としていられる

高橋由太「忘れ簪 つばめや仙次ふしぎ瓦版」光文社文庫2012年 光文社476円+税

前作同様、カバーは永尾まる。しっかり深川最強生物猫ノ介のりりしい姿が描かれています。それにしても相変わらず薄い。前作よりちょっぴり増えたけど240頁だもんな。
いきなり「江戸のマスコミ『かわら版』」(吉田豊光文社新書)からの「黒童子行道期」が二頁に渡って現れる。絵は永尾まるで、文章は「意訳」されている。瞳が三つあるという不思議な少年千代松の話なのである。高橋はこの少年に新たなキャラクターを与えた。つまり、未来に起こる不幸を予見する『黒瓦版』の売り子として登場させた。
で、話は大川端へ人魚釣が群れを成しているというのを取材に現れた不思議専門瓦版発行主で極楽蜻蛉のつばめ屋仙次がおなじみのレギュラーの医師の宋庵先生と出会うところからはじまる。往診途中の宋庵と立ち話しているときに、仙次は「三つ瞳の黒瓦版売り」の少年を見つけた。
Kokokara-------------------------------------------------------
真っ黒な着流しに、黒い手ぬぐいで鼻から上を隠すようにしている八つか九つくらいの子供が仙次のことを見ている。その子供にだけは、お天道様の光が届いていないように見える。
黒い手ぬぐいで目が隠れているため、子供が何を考えているのか、さっぱり分らない。何のつもりで大川の騒ぎを見ているのか想像もできない。いy、子供は大川の騒ぎなど見ていない。子供が見ているのは仙次だ。黒手ぬぐいで目を隠しているのに、仙次はその子供の視線をひしひしと感じていた。
子供はほんの少し黒い手ぬぐいを押し上げた。子供の目が白昼の下に露になり、仙次とその視線が絡み合った。
koko------------------------------------------------------made
昔の瓦版の時から既に100年年がたち、最初に仙次が千代松に声をかけられて四枚の黒瓦版を見させられたときから、十年がたっていた。一枚目の瓦版で仙次は両親が流行り病で亡くなることを知り、二枚目の瓦版で幼馴染の宋庵の娘のお由有と所帯を持ち、三枚目でお由有が泣いていて、四枚目にはお有の葬式の絵と岡ッ引に下手人として縛られている仙次の絵があった。
とまあ、シリーズ一作目のお気楽ムードは一転して、なんとも陰鬱な影のある話が展開する。人魚釣の謎を推理で解き、連続武士の水死事件はオカルトな死者の仙次への憑依で早口に解明されて、千代松は消えてしまうが、消える前に四国霊場巡礼に立つ脇役の老夫婦に呟く。
「途中で小雪って女の子に合ったら、伝えてほしいんだ。仇を討ったら、おいらもそっちに行くからって」

うん、なんとも後をひきまくる終わり方です。完全に仙次は食われてしまってます。この後、どう話が展開するのか、想像するだけでも不安ですねえ。

江宮隆之「写楽の首 大江戸瓦版始末」ベスト時代文庫2008年KKベストセラーズ 350円定価781円+税

282頁でほとんど800円というのは、ちょっとボリすぎかなあ。
時は寛政の『改革』の松平定信が失脚したばかりだが、表から消えただけで、相変わらず江戸中に諜者網をはりめぐらして幕府を影から操り続けているころ、三十年以上努めた南町奉行所与力(けっこうお金を貯めこんだらしい)を辞めて悠々自適の余生のつもりだったが、退屈をもてあまして奉行所が沈黙する事件をあばく瓦版を出している神谷治兵衛とその仲間達の物語。仲間は黄表紙の版元の耕花堂。絵師は春朗、甲州生れの良太、深川芸者のおしん、若いものが清二と佐武。奉行所からの情報源は元部下の杉浦、堀田の同心。もっとも、同心の二人は腕利きだったけれど、上司の治兵衛が去ったあとで煙たがられて左遷されて閑職の同心。この仲間が出す「大江戸瓦版」を取り締まろうと、奉行所は探りを入れるのだが、さっぱり分らない。根岸鎮衛が奉行のはずだけど、最初の数年はひょっとすると、まだ内部を把握できずに、無能地位保全袖の下集めだけの役人だらけだったのかもしれないですね。この物語には一度も奉行の名前は出てこない。
事件は、宗教詐欺の「神世間」事件。黒幕に幕府の「老中を狙う公儀の誰か」がいたのだが、そちらまでは突き止められず、奉行所内の腐敗役人三人を辞職に追い込んだのが二巻目最初の話。二件目が、ライバル瓦版「府内瓦版」の出現で、これまた版元も不明で、奉行所内部にやはり情報源があるらしく、とにかく事件情報が詳しく早い。治兵衛は、これは「大江戸瓦版」つぶしと睨んだ。大店乗っ取りを企んで内儀と手代の心中事件を仕掛けた「府内」を、実は偽装心中で殺人であり、奉行所の同心も絡んでいると「大江戸」があばいてみせる「瓦版合戦」が第二話。第三話が、この「府内」が牙をむいてくる。「写楽の首もとむ」という題で『写楽なる者の首を求む。写楽は、約定に違反したゆえにその首を求むもの也。写楽についての消息を知るものがあれば、申し出るべし。謝礼は多大なり。旗本 結城慎三郎直武』まるで、高札みたいだと「大江戸」のスタッフは思った。ところが、治兵衛も仲間も誰も写楽をしらない。写楽って誰だ?
おお、また写楽ミステリですねえ。lololol
まあ、結論は読んでいただくとして、写楽複数説です。ただ仕掛けたのが金を出さずに大奥に胡麻摺りを企んだ失脚老中松平定信ってのが新味かなあ。写楽の首求む事件のほうは、この瓦版で大江戸側をあぶり出し、その中心の治兵衛をで暗殺してしまおうという定信の陰謀が核心。まあ、治兵衛は松平邸での定信との直接対決で駆け引き取引して定信の干渉をシャットアウトしてしまうのです。
うん、なんとかつじつま合わせてハッピーエンドにしてる力量はお見事。

浅黄斑「目黒の筍縁起 胡蝶屋銀治図譜(二)」ベスト時代文庫 2012年 KKベストセラーズ 657円+税

図譜はクロニクルとルビが振ってあります。
蔦谷重三郎の孫の銀治は蝶もの企画店「胡蝶屋」を開店したものの経営は貧乏暇なしに近い自転車操業。それでも一人じゃあ出歩くのも不便と、手代やら従業員を増やしかけてるところへ、新キャラクターの中田藍一が登場します。父は、南町奉行与力で実在の篆刻家中田平右衛門サン堂(燦燦のサンの火を取った字)、母親は女流画家谷舜英(母の兄は谷文晁)という江戸文化人の名門の長男。与力見習いに上がるのを引き伸ばして江戸の青春を楽しんでいるお気楽もの。
その藍一が、母親の蝶の絵を店に持ち込んだのが、藍一と銀治の腐れ縁の始まり。
銀次に、薩摩藩がお留植物食品にしている「孟宗竹」を江戸市場に流したいので孟宗竹は薩摩由来のものだけではないという証明をして欲しいという依頼が入る。昔、薩摩屋敷から流出した孟宗竹を植木屋が売り出そうとしたことがあったが、薩摩藩の人斬り殺し屋どもが植木屋を襲撃、竹林を焼き払い、植木屋一家は職人ごと行方不明になったことがあるという、かなりにヤバそうな依頼だった。
まあ、実在の博学愛好家武蔵孫佐衛門、本草学者の医師の栗本丹洲、国学者で未完の「古今要覧稿」の編纂者屋代弘賢、寝惚先生こと太田南畝、浮世絵師で戯作者の山東京伝とか、谷文晁の妹画家の紅藍とかが次々と探索の間に登場して情報を提供してくれ(その半数くらいに渡りをつけるのが蘭一なんですね)、ついに孟宗竹が薩摩に入る以前、すでに室町時代隠元禅師とともに本州宇治に伝わっていたということを突き止める。あとは証拠の文書だけだが、もちろんないのを、うまいことbogus paper をでっちあげ、これで一件落着、めでたしめでたし。
実に上品で、後味のいい読み物となっております。

さてと、お正月休みも今日まで、当分更新は無理かなあ。最近書くスピードが遅くなってるから。