Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

大倉崇裕「小鳥を愛した容疑者」門井慶喜「おさがしの本は」蓮見恭子「女騎手」野田昌宏「銀河乞食軍団禿蔓草107号、只今出動!」

読むだけは一日一冊以上、ひょっとして二冊に近いかもというペイスで読んでいて、それにコミックが二冊以上のペイス。読むだけだったら、体調が眠れないくらいに悪くさえなければ、読んで眠って読むで、ペイスは落ちないのだけれど、書く暇はよほど健康じゃないと書けないな。というのに、3月から4月にかけての天候不順で体調不良、それでも休めてれば、少しは書けたかもしれないが、仕事が残業30時間という『恵まれた』状況だったから、全ブログ(英語が二つ、日本語が二つ)みんなお休み状態だった。

野田昌宏「銀河乞食軍団<外伝2>禿蔓草107号、只今出動!」ハヤカワ文庫1987年460円(杉並区立中央図書館所蔵)

野田昌宏の「銀河乞食軍団」シリーズは舞踏派にとってのThe Book なのです。なのに、本編全巻、外伝4巻の全てを揃えたいと思っているのに、この外伝の二巻目がどこにもないのですね。もともと、長編大好きな舞踏派は外伝は本編が全て終わってから揃えようなんて後の楽しみを企んでる性質なもんで、気がついたら外伝は1と4しか新本では手に入らない状態になっていたのが、1995年ごろの話。そのころ、LAの旭屋で3を見つけたときはうれしかったけど、2はどうしてもなかった。そのころアマゾンなんてなかったしね。戻ってきて、荻窪の区立図書館に1冊だけあるのは知っていた。中野の図書館で検索したら、東京中でただ一冊だけあったのだった。
というので、ついに図書館デビューとなった。高円寺のサービスセンターで登録してカードを作り、やっと、ほぼ15年越しのデートです。
あれ、こんなに活字が小さかったかなあというのが、最初の感想。一行43字。大倉ので数えてみたら38字。一頁の行数も18行、大倉は16行。これって、日本人の目が悪くなってるってことかなあ?
(5/23 追記:活字について;あれ、「外伝3」1990年は、41字16行。活字が大きくなってる。頁数は350頁から290頁に減って、価格は460円から408円税込み420円、ふうん、そうだ、消費税なんて余計なもんを取られるようになったんだ。イラストとも表紙絵も加藤直之で変わらないけど、3の方は、ネンネのリアルな美貌が画かれてある。lolololol)
内容は中篇4篇。外伝は〈星海企業株式会社〉の金平糖錨地整備基地の整備工班長お七ネンネの物語なんだけど、この二人が面倒見ている〈花組〉のおネジっ子の三人組くう子ひな子はな子もレギュラーメンバー。この三人組のヤンチャがお姉さん二人を巻き込んで、いつも危機一髪の事件が巻き起こるというわけ。
1.金平糖錨地、清純乙女強盗団
   おネジっ子の三人組の様子が変だと気づいたお七とネンネが寝た振りをしてると、三人組が夜更けに抜け出していく。二人は三人を尾行していくと、三人は削岩機やら鎖鎌をもって、見知らぬ女の子と合流、鉱山会社の小惑星に艀で渡っていった。その女の子は鉱山主の一人娘で、その恋人が父親に小惑星の上の小屋に監禁されているのを救出しようという話。まあ、三人たちじゃあ、タフな親父殿とは渡り合いきれなくなり、お姉さんたちの出番というわけ。圧電素子材料鉱石のネタで、ちゃんとSFどたばたコメデイになって正義は勝つ!ってわけですね。
2.禿蔓草107号、只今出動! 
星海企業株式会社内の救難訓練が舞台です。惑星白沙(しろきすな)の本社白沙基地から仮想遭難船が出て、それを金平糖錨地基地から救難部隊が出動するというのが毎年の想定。両基地の対抗意識もものすごく、白沙基地のスタッフは知恵を絞り、ほとんど罠ばかりみたいな遭難状況を作り出すのが恒例。 前年お七とネンネがおネジっ子を率いて、見事に罠にはめられたので、今年こそはと、お七ネンネとも後詰めに回っておネジっ子の7チームを前衛に繰り出したら、なんと花組の三人組が他の六組とは正反対の方向へ突進して遭難船を発見した。当然、他の六チームも花組に続いて方向転換。ところが、その船は不安定化してる〈時空転移場〉で立ち往生中、うっかり艀を七隻も通常スピードで近づけたら時空転移場で加速度オーバーによる時空転移が起きて、全て宇宙の迷子になってしまうというトンでもない状況。お七はおネジっ子の総指揮を採るために、なんと、不安定な時空転移場へ宇宙服と簡易移動ユニットで泳ぎこむ。なんとか船にたどり着いて、花組とともに船内に突入したら、そこには凶暴な宇宙怪物が暴れまわっていた。またまた、ピンチ。実は、この船仮想遭難船ではなく、宇宙怪物から船員が逃げ出して、コントロールできなくなっていたホンマモンの遭難船。しかも積荷は銀行組合が東銀河連邦銀行本店に向けて送り出した金塊だったというわけで、勝手に内部へはいると自動的に海賊よけの爆弾タイマーが動き出す。。。という大ピンチ。これをお七とネンネはどう解決するのか、そこが見どころ。
3.琴姫ポイント、異常あり!
軍の払い下げの新型中古船を会社が買ったので、お七とネンネは花組の三人組の操縦訓練を兼ねた中古船の慣熟飛行に惑星星涯(ほしのはて)へやってきて、さて帰ろうとしたら、三人組は星涯市に出没する少女誘拐事件を解決せんと、独断専行をとって、案の定、逆に犯人たちに捕まってしまった。というので、お姉さん二人は三人組救出に出るはめになり、そこにいたのは、かつてお七とネンネによって刑務所送りにされていたはずの女実業者。以前の仕返しに衛星軌道に浮かぶ太陽熱発電所のパネルでおネジっ子を焼き殺そうとする女怪相手にお七さん大活劇を演じるはめになる。
4.金平糖<花組>秘密部品庫
おネジっ子の三人組がホームレスみたいな男を助けてゴロツキ男たちと喧嘩騒ぎになったのを、お七とネンネがいつものように乗り出して、男どもを片付けるというのが第一幕。で、おネジっ子は男から籠をひとつもらって、スーパーの買い物袋みたいな部品買出し袋として使ってたら、これが〈形状模倣金属生物〉が仕込まれている籠で、金属部品を4個入れるといつのまにか8個に増えているという、アンパンを半分かじって袋に入れて取り出すと完全な一個に戻っているという、杉浦マンガのアイテムみたいな代物だった。で、その形状ばかりか材質も部品性能もオリジナルとまったく同じものになって見分けもつかないから、おネジっ子はそれを宇宙船の整備修理に使ってしまう。ところがこれが生物なもので、すぐに寿命がくるものだから、整備した宇宙船がトラブルトラブル。お七とネンネはその後始末で大苦労するというドタバタ物語。
まあ、おもしろいんだわ。これが。
野田さんが体調崩して書かなくなって、あまりにこの花組の三人組とお七、ネンネ(こちらは美人なんですが)の話が舞踏派は恋しくて、そっくりぱくって、キャラクターの名前を変え、個人消費用に自前のオペラを7本も書いてしまったくらいに、おもしろいんですねえ。
図書館に返すのが惜しいなあ。LOLOLOL。そういうわけにもいかないから、アマゾンで中古本を目下注文中。

大倉崇裕「小鳥を愛した容疑者」講談社文庫2012年。300円(定価743円)初出2010年。

警視庁捜査一課警部補だった須藤友三50歳がワトソン役の主人公。だったというのは、9ヶ月前に頭部に銃弾を食らって危うく命を落とすところだったのだが、なんとか退院まで回復、現在は警視庁総務部総務課動植物管理係課長代理心得。そんな総務部総務課なんて実在しないって?確かに、この課は須藤のリハビリのために警視庁上部がこっそり作ったものなんだそうだ。で、課長代理心得以外には課員一人、女性事務員が一人。課員というのが、薄圭子(うすきけいこ)巡査。北海道の獣医学部を首席卒業して動物園等に勤めていたのだが、新設された警視庁動植物管理係に千百五十三名の応募者の中から選ばれた、小柄な26歳。婦人警官の制服を着ていても、誰も本物とは思ってくれない、文系知識に絶望的に暗く、理系一辺倒の実は名探偵ホームズなんですね。
動植物管理係の対象の『動植物』とは、事件の容疑者が持ち主、飼い主で容疑者の知人親族親類が面倒みてくれない動植物。というので、動植物を偏愛している人間が逮捕拘留されない、もしくは面倒見切れない状態にならないかぎり出番がない。圭子巡査は拝命して二年間近くまったく出番がなかったそうな。
ところが、須藤警部補が来たとたん事件は二人の後をおいかけるように圭子さんの前に現れるのですね。
最初が、十姉妹を100羽も飼っている現在警察病院で意識不明の容疑者の事件。容疑者の部屋は完全防音で、そこで須藤はほとんど勝手にさえずりまくってる100羽の十姉妹の中で一羽だけが須藤を見つめているものがいるのに気づく。もちろん、圭子名探偵も気づく。防音とその一羽の行動から、圭子は事件を推理しきってしまう。
第二の事件は、海で見つかった死体を、警察は、睡眠薬を飲んで自殺を試みてるうちに、足を風呂場で滑らせ転倒して当たり所が悪くて死亡してしまった、つまり事故死したのだが、だれかが死体を発見、海へ捨てたと結論する。
うん、これもちょっと捻りすぎて、現実の警察がこんな推理をするかいなと思うんだけど、まあ、それもありかとパスしても、何故発見者は死体を移動したのだろうという謎だけは確かに残る。死んだ男は、部屋で、1.5メートルの白蛇、アルビノコーンスネークと2.5メートルの大蛇コロンビアボアを飼っていた。
第三の事件は行方不明の弁護士。息子と二人暮らしなのだが、小学生の子どもは入院中で、庭石と須藤が最初見誤った大柄な陸ガメのケヅメリクガメが飼われていた。
第四の事件は、隣人を殺害した容疑の翻訳者はモリフクロウを飼っていた。隣人の妻はそのフクロウの鳴き声でトラブルになっていたのだと証言する。この事件が解決されてもしなくても、須藤は捜査一課に復帰することになっていて、動植物係も廃止圭子巡査も解雇予定だったので、最後の事件になるはずだったのだが、圭子名探偵の推理で事件が解決した後、須藤は復帰を断ってしまった。エリート監理管から「次はないぞ」とすごまれるのです。
その後、ネットのエッセーで大倉は「ペンギンを愛した容疑者」というのを書いてもいいかな?と書いている。
解説の香山二三郎じゃないけど、うわあ、是非書いてください。
書いていいとも!

門井慶喜「おさがしの本は」光文社文庫2011年初出2009年200円(定価619円プラス税)

東京近郊の財政赤字の都市の市立図書館のレファレンスカウンターの和久山隆彦は入職7年、調査相談課で3年目。市民の本の相談を受けては解決している、やや役人生活に倦み始めた三十男。
市民からの相談というのが、
「シンリン太郎について調べたいんですけど」(女子短大生)
「(子どものころ児童図書コーナーで読んだ)表紙いっぱいに赤い富士山があった本」(うっかり姉からプレゼントされた本を小学生のときに図書館に持ってきて読んでいてそのまま置き忘れたという60歳男)
「或るひとつの語をタイトルに含む本。その語は、A 意味的には、日本語における外来語の輸入の歴史をまるごと含む。 B 音声的には、人間の子どもが最初に発する音によってのみ構成される」(貧乏市には図書館は無用という元市長秘書、新任の図書館副館長が出した、確かに彼もまた市民ではある、挑戦的謎。)
「八十八歳でなくなった夫が、死の二三日前に心残りだと打ち明けたという。昔、借り出したままに返してない本が20冊家にあるはずなのだが、それを返したい。でも本の名前がわからない。早川図書がどうのこうのとは言ってたような」(未亡人)
「登場人物の男が派手に自分の例の身体的器官で白い障子を、それこそ、そう、十回も二十回もぶち抜いていたな。むごいものだ。しかもその行為は、何というかな、単なる性欲の発露じゃなかった。人間の生死、人間存在の是非、そういう根源的な問題にがっちりと食い込む深いものを蔵していた。当然、場面そのものが長かった。しかし、しかし。。。」(書名を忘れてしまった図書館廃止反対派の市議)
謎としては簡単に見えるけれど、これが難度Fクラスの捻り技で捻られているんですよ。
まあ、これらの本を全て和久山は見つけ出し、最後に市議会の委員会で和久山は廃止を訴える元副館長で現館長と渡り合い、結果は図書館存続となる。図書館存続となったものの、辞任することになった現館長は市長秘書室長となり、和久山を図書館から引き抜いて、総務課の企画グループに配属させた。国レベルなら経済企画庁みたいな将来を企画する部門だから、和久山は将来の市役所の幹部を約束されたようなもの。和久山の後任には、和久山に協力して本の謎を追いかけてきた藤崎沙理がついた。パフェ二杯で本の相談に行ってもいいかと和久山がからかうと、沙理は答える。
koko-----------------------------------------------------------kara
沙理はゆっくりと隆彦へ顔を向ける。珍しいものでも目にしたみたいに何度もまばたきをしつつ、隆彦の目をみつめ、「お断りします」
ふいに横をむいた。と思うと、きゅうに大人びた顔になり、「お酒にして下さい」
隆彦はにっこりとし、歩きだした。
koko-----------------------------------------------------------made
わはは、最後はラブコメディかい。

蓮見恭子「女騎手」角川文庫 2012年 初出2011年 200円(定価667円プラス税)

紺野夏海は競馬の騎手で、その日は阪神競馬の2000mの芝レースにブラックダリダに乗って出ていた。予想紙では彼女にはミストラルに乗る新人騎手の姫野と並んで穴マークがつけられていた。本命はリーディングジョッキーのベテラン飯田の乗るマキシマムシルヴァ。対抗は、夏海の幼友達で競馬学校の同級生で元リーディングジョッキーで現調教師を父に持つ岸本陽介の乗るホナミローゼス。飯田とリーディングジョッキー争いをしている笠原の乗るライトニングウルフ。
(ふう、舞踏派は競馬ものを書けないなあ。これだけでへばってしまうのだからlololol)
で、結果は、夏海とブラックダリダ(この名前、いかにもミステリですねえ)が、姫野のミストラルを振り切って勝った。
勝てた理由は、いきなりスタート直後にホナミローゼスが斜めに走り、ライトニングウルフとぶつかり、有力対抗馬が消えたのが大きい。落馬した陽介は意識不明で入院してしまった。
その晩、陽介の父親の調教師岸本は、厩舎で何ものかに顔面を殴られて、やはり意識不明になった。容疑者は夏海の親友で元騎手のミチルの夫の里中だった。記録ヴィデオを見返した夏海は、父親の紺野が、倒れている陽介を誰もが見守っているなか、一人だけ、別の方向を見ているのに気がついた。
夏海は、親子が二人とも重態で入院するという事態にきな臭さをかぎつけて、親友の夫の無実をはらさんと探偵の真似事を始めた。
うん、これはディック・フランシスの元騎手探偵ものの日本版、女性バージョンではないか。なかなかいい趣向だと思った。日本競馬をとりまく外からではわからない、厳しい現実の描写に、事件の動機のオリジナリティといい、よく出来ていると思う。たぶんシリーズになるだろうから、これも第二作が楽しみですねえ。
(ふう、久しぶりに長文を書いたら、バテタ。今夜はこの辺にしておこう。)