Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

【私のミステリな日々】 2004年9月前半東直己「待っていた女・渇き」ハロルド・アダムズ「灯蛾の落ちる時」ロブ・カントナー 「囁きの代償」ロビン・ハサウェイ「フェニモア先生、人形を診る」

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まあ、またもや、積み山が棚につかえてしまった。けっこう面白いのを読んでたので冊数が増えるのが予想外に速かった。
というので、まとめて書いた内の4冊をアップ。
やっぱり、暑いと、キーボードたたくより、ビールのみながら寝転んでミステリ読んでる方が愉しいもんね。
東直己「待っていた女・渇き」、ハロルド・アダムズ 「灯蛾の落ちる時」、ロブ・カントナー 「囁きの代償」、ロビン・ハサウェイ 「フェニモア先生、人形を診る」
爆弾事件ものは今日は止めておこう。
kokokara.........................................................

東直己「待っていた女・渇き」

ハルキ文庫 1999年 300円 定価914円+税

東の北海道ハードボイルドものとしては、うん、力作ではあります。
新聞記者を少女売春の罠で首になった畝原は、それでも札幌にとどまり、娘の冴香を育てている。その冴香の保育園で、やはり児童の母親の地方放送の人気パーソナリティでデザイナーの姉川につきまとうストーカーを扱った短編の「待っていた女」は、なかなかのサスペンスです。
「渇き」の方は、始まりからしてMの大学教授がSの若い女性にホテルの一室で鞭打たれるのを目撃するはめになる「依頼」ですから、いままでの東の札幌私立探偵ものとは、あれ、ちょっと違うなと思わせます。
次ぎの依頼は、タウン雑誌の新卒応募でセクハラ体験をした元女子大生たちからの依頼で、その中の一人がセクハラ社長とホテルにしけこんだところへ、畝原が踏みこんで、写真を撮り、ネットで公開するという、ほとんど美人局の肩棒をかつぐみたいな依頼だった。懐具合と女の子達に同情して、その瞬間に踏み込んだ部屋で女の子は殺されていて、社長は飛び降り死体になっていた。
またまた罠にかかった状況の畝原は冷静に警察へ連絡するが、ここでお決まりの私立探偵嫌いのネチネチ刑事が登場してさいごまでネチネチとからんでくるといううっとうしさ。真犯人をつきとめないと、警察の人身御供にされかねないというプレッシャーで私立探偵は銭にならない捜査を警察の妨害に合いながらすすめ、最後は娘を人質に取られるというというのは、時節柄あんまり愉しく読めません。
なんか、もっとキザなハードボイルドだったんじゃないかなあという期待は最後
まで裏切られます。ヘビーなハードボイルドです。
(東は「ライダー定食」を読んでからその奇妙な味を通り越したグロさで、この本を含めすべて燃えるゴミに出しました。2010/10/10)

ハロルド・アダムズ 「灯蛾の落ちる時」

創元推理文庫 1987年 100円 定価450円

Murder by Hraold Adams, 1978.

アメリカのド田舎のサウスダコダのさらに極限の田舎町にあるただ一件のホテルのゴクツブシ息子のカール・ウイルコックスが刑務所暮らしを追えて戻ってきた。大人たちからは、顰蹙を買ってるが、若い連中には奇妙に人気があるろくでなしヒーロー物語の第一作です。
刑務所暮らしになったのは、酔っ払って、女から金を稼いで来てよと言われたために、弾の入ってない銃を持って、銀行に金を出せと押しこんだためというから、およそしまらないアル中小悪党ぶり。
町一番の財産家は映画館経営者のフィン・ラースン。なんでも自分の思いどおりになると思ってる典型的田舎物のボスキャラです。甥ッ子で一族の希望の星の高校生の頼みで、主人公は、若い子ども達を水場へ連れて行ったら、その中にフィンの娘もいた。みんな裸で泳いでるところに、頭に血が上ったフィンが酔っ払って、腰巾着の肉屋をつれて殴りこんでくるのが、ドタバタ騒動の始まり。
そのボスが行方不明になる。
町の判事は、カールに若い連中を使って、時給三十セントで家畜品評会兼集会所の小屋の大掃除を依頼する。カールの甥とその友達三人を使って大掃除をはじめると、その小屋の藁の下にボスが錆びたフォークで喉を掻っ切られて死んでいるのが見つかった。
ここで、町の人間の中にしか犯人はいないはずで、犯人があがらなければ、警察は前科者で因縁のあるカールを逮捕するしかなくなると警察署長のパクストン脅かし、逮捕の交換条件に助手を命じて、カールは探偵ごっこを始める。
まあ、西部劇ですね。これは。時代が大恐慌時代の設定というのも、今みたいにエゴ膨張症候群で重態になる前の、古き良きアメリカ人の時代というわけで、読んでいて、癒し系ののどかさがあります。

ロブ・カントナー「囁きの代償」

扶桑社ミステリー 1994年 100円 定価600円

Dirty Work by Rob Kantner, 1988

デトロイトの深夜ラジオの三大人気ディスクジョッキーの一人で、正体不明のアレックス・ファーの中年女性ファンが続けて三人殺された。三人とも、ファーとつきあっていた証拠が女たちの側にはあったが、人気の裏にある放送業界のシンジケートとその利権につながる政治家たちに遠慮して警察は慎重に捜査を進めていたのだが、ここにきて、対立政治勢力の後押しを受けた警察の一部が
ファーの身柄を拘束して調べに乗り出そうという動きがうまれた。そこで、フォードの元工員あがりの私立探偵にして、高級老人用コンドミニアムの管理マネージャーのベン・パーキンズにスキャンダルを防ぎつつ真犯人をつき止める依頼が舞いこんだ。
ベンが動き始めると、野心まんまんの女性ニュースキャスターが身辺に近づいてきて、ベンも周囲の人間のアドバイスも聞かずに深い仲になってしまう。
一方、問題のファーは広場恐怖症に対人恐怖症も合わせる心の病気で元黒人の犯罪者で今は秘書兼ボディガードのフランク・ワイアットと二人だけで暮らしながら、仕事をしてるようなものだから、女性とデートするわけなんかない、と分かる。
とすると、犯人はどうやってファーのスケジュールや住所を知っているのかと、ベンは女ボケした頭で、捜査の本線を一本に絞って、追及していく。
なかなか良く出来たハードボイルドです。
犯人を割り出し、警察と手順を打ち合わせる、まさにその瞬間に色仕掛けの女キャスターが政治野心まるだしの警部と組んで、隠れ家からファーを連行していった。
ベンは準備不足のまま、反警部派の警察勢力に真犯人を逮捕させるが、警察は留置所から犯人に逃げられてしまって、ベンをあきれさせる。
オマケみたいなサスペンスクライマックス(真犯人がファーを襲撃にあらわれてベンは雪の中で不利な肉弾戦を展開する)が始まる。
誤報道で首になった女キャスターはベンの元へもどってくるが、ベンは彼女をたたき出す。いやあ、西部の男ですねえ。
でも数年立って見ると、彼女はロサンゼルスの人気番組へ敗者復活戦を勝ち残り、人気がジリ貧になったファーは番組打ちきりの見こみというコラムが出たのだった。
正義の帳尻はいつも合うとは限らないっていうハードボイルドですねえ。

ロビン・ハサウェイ「フェニモア先生、人形を診る」

ハヤカワ文庫 2002年 定価740円 230円
The Doctor Makes A Dollhouse Call by Robin Hathaway, 2000.

心臓専門医のアンドルー・フェニモアは独立の開業医で、素人探偵としても名前が広まり始めていた。(これがシリーズ第三作)
元鯨漁師の家系の財産家一族の長老は82歳のエミリーと79歳のジュディス。この家の名物というか、パンスコート一族が開いて捕鯨村、造船工業、建築業と徐々に丘の街として発展してきた町の自慢は、パンスコート家の巨大なドールハウスだった。
一階のホールに置かれているドールハウスに異変が見られた。人形の家のキッチンが荒されて、一族の一人の人形がスープに顔を突っ込んでいた。その通りに感謝祭の夜、一族の一人のクロスワード狂が殺された。
一族の中の星占いマニアの嫁の意見で人形を全て処分することになり、人形は木の下に埋められた。ところがこれは意味も効果もなかった。
洗濯ハサミを人に見たてて事件は続いた。一家の主治医のフェニモアは患者を診なきゃならないので町に留まらなければならず、後手、後手に回った。というので、自分の看護婦のミセス・ドイルを屋敷に泊まりこませる。

まあ、こういう連続殺人というのは、探偵が無能を証明するかのように連続して起きるパターン通りに進行して、しかも間違った犯人を指摘してしまうというオマケつき。
事件を解決するのは海軍でマスターした空手を使うドイル看護婦なんですね。ユーモアたっぷりのミステリです。
昔は、こいういう探偵が後手後手にまわるミステリを面白く読んだものだけど、最近は年取ったせいか、おい、ちゃんと「働けよ」といらいらしますが、オカズの部分の面白さで読んでしまいました。まあ、作者が女流なんで、仕事をかかえた中年男の不自由さをミステリの要素に加えて味にしてるといえないこともないかな。
to..........................................................kokomade.
ミステリ舞踏派久光