Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

【days】2019年7月下旬: 書き方を忘れた 川瀬七緒「メビウスの守護者」

はてなだいありぃからはてなブログに変わってから、入力画面も変わった。ま、こういう単純なのはスマフォから書き込むにはいいんだろうが、PCから長文を書くには使いにくい。まあ、慣れるしかないだな。

ともあれ、何を読んでるかから書こう。

ずいぶん長いこと持ち歩いてるのが

Daniel Pennac ≪La fée carabine≫:今102ページ当たり。

今年読みだしてさっぱり進まないんだが、Charles Foster ”Being a Beast

これは48ページあたり。

このBeing a Beastというのは、素っ裸で息子とイングランドの山のアナグマの穴でアナグマみたいに暮らしてみたという(そこが beingの意味)おっさんの体験的ノンフィクション。アナグマっての英語でbadger と言うんだけど、日本には親類がいて、それがこの方。

(あれ、アナグマの巣穴のある現地まで車で送ってくれたBurt が、嵐接近のニュースを伝えてLand Roberで帰るときの捨て台詞。“ you've got to be naked: butt naked." に続いて、To strip off would take me a long way from the badger's sensory world.  I was much closer to it in my old moleskins and tweed coat. とある。p.53 うーむ、服着てるじゃん。Badger だって Badgers have a thick outer coat of coarse hair lying over a softer inner layer.  Both trap air very efficiently. と裸じゃないんだよなあ。

うん、リンク先はミステリ舞踏派の別の仮面Cakeaterのメインブログなんだけどね。

で、これで、川瀬七緒を語ろうというわけ。

blog.goo.ne.jp

川瀬七緒メビウスの守護者 法医昆虫学捜査官」講談社2015年 1500円+税

法医昆虫学捜査官というのは、犯罪現場に集まっている昆虫を分析して犯罪捜査資料を提供するという役目なんだけど、日本じゃあんまりメジャーな認知をされていない(もしくはいなかったらしい)。犯罪と昆虫のからみのミステリならいままでにもあったけど、法医昆虫学という学問分野に照明を当てたミステリは川瀬作品がこの列島では最初です。

主人公はアラサーの准教授赤堀涼子で、中学生にしか見えない容姿の世間的には変人探偵。地下足袋にモンペをはいて、手ぬぐいを頬被りにしてタオルを首回りに巻き、多分麦わら帽子をかぶり、大ぶりのリュックサックを背負い、昆虫網背中にさして、自転車を漕いで現場へ現れる。(普通は研究室に科研の職員が採集した資料を持ち込まれてそれを分析するんで現場へは出ないし、立入許可もでないらしい)蛇だろうが船虫だろうが砂虫だろうがゴキブリだろうが平気で素手で手づかみする。最近は警察組織をアンリアルに無能に書くといろいろ問題があるらしく、実際の捜査を彼女のアドバイスで進めるのがアラフォーの警視庁の岩楯祐也主任と事件ごとに変わる所轄の刑事。

具体的には(あんまり映像化してもらいたくないけど)死体が生まれると虫が寄ってきて卵をうみつけ、ウジがかえり、死体を食べた後蛹から羽化して飛び去る、あるいは別の昆虫や爬虫類に食べられてしまうというプロセスを分析すれば、死体になってからの時間つまり犯罪発生時間を時間単位のレベルで確定できるというミステリです。

2018年に「紅のアンデッド」が出て6冊になってますから、本当は、最初の「法医昆虫学捜査官」(放火事件の犠牲者の消化系内蔵がほとんど消滅していて、残っていた腸の中からウジのボール状塊が出てきて、その中心部のウジはまだ生きていたという解剖室の中から話が始まる・・・実にショッキングな「つかみ」です)から順に読んでいく方が楽しめます。メビウスの舞台は奥多摩のハイキングコース。コースの側で腕だけが見つかったバラバラ事件が始まりで、他の部分がなかなか見つからない。監察医の見立ての死後経過時間に赤堀は真っ向から別の計算結果を表明する・・・というのがこのシリーズの現在の立ち上がりパターン。警察上部の人間も捜査班のメンバーもただ一人岩楯(最初はたまたま連絡役として赤堀につき合わされたのだが、あまりの赤堀のキャラクターの変わり者ぶりに、赤堀暴走監視専従員みたいになっている)を除いては誰も同意しないから、当然ながら捜査本部の捜査は的外れの方へ進みだす。でも最後は、岩楯=赤堀が的を当てているとわかる。

では、ミステリパラダイス再開の一冊目になぜ「メビウス」かというと、この謎の主役のお馴染みの死体に寄るオビキンバエの脇役というか攪乱トリックスターがタヌキなんですねえ。狸はなんでも食べます・・・でBeing a Beast でウジをフォスターさんも味見してるくだりを読んでますと、なぜかこのミステリの情景が浮かんでくるし、逆もまたしかりなんです。というのと、「メビウス」には調香師 (フランス語で le nez (鼻)の第4義)が森のちょっと齢食った妖精みたいに出てきて、赤堀とウマが合いまくるんですね。虫の匂いと花の香を聞ける二人の変人プロフェッショナル。

で、個人的にオリンパスのTG-5という顕微鏡モードが売りの一つの工事現場カメラを買って以来、めたらやったらと小さいものをとりまくってるせいもありまして、(ウジ類はつまんないですね、拡大してもあんまり微小表情が写らない)虫類にざわざわしなくなりまして、時にはつまみ上げたりしてたり。haha それで、虫の出てくる話に抵抗値が下がる一方なんですねえ。

筋の展開を詳しく書かないのは、ディーテイルが楽しめるから読んでみてくれいという理由です。

6冊とも文庫化されてます。あんまり古本屋には出ないから買った人は「嵌まって」いるのかも。

(2020.08.28 追記:このシリーズ単行本「スワロウテイルの消失点」が去年の7月に出ました。そろそろ8冊目がでないかなあと楽しみです)