Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

019 吉田雄亮「居残り同心 神田祭」沖田正午「手遅れでござる やぶ医師天元世直し帖」小杉健治「からくり箱 質屋藤十郎隠御用 二」野口卓「闇の黒猫 北町奉行朽木組」

ミステリの時代物といえば捕物帖。古典なら、半七捕物帳に始って、銭形平次捕物控、右門捕物帖が古典のビッグスリー。半七と平次は目明し(岡ッ引)で右門はお役人探偵役の始めで、役人から逸脱し一般町民(貧民か)が探偵役を務めるものの始めは久生十蘭の「顎十郎捕物帖」なんだけど、さすが、半七登場いらい百年ちかくたつと(1917年だもんね)目明し、岡ッ引、下引き、同心、与力だけじゃあ新味を加えられないと、探偵キャラクタに作家は工夫を凝らしだす。最近じゃあ、ありとあらゆる職業から探偵役が登場してきて、上は将軍、殿様、若様、姫様、子どもから下はスラム住人の乞食砂絵師、人外の猫から幽霊、物の怪、妖、まで、一億総探偵状態。(江戸時代は4千万人だったかな)ひどいのは、探偵の設定だけに凝って謎もなにもない、単なる江戸人情コージーミステリ風読み物まで、次々と文庫になってでてきてます。ご盛況ですねえ。なんか、普通の銭形の親分と八五郎みたいなのんびりしたものが逆に新鮮に読めたりしますが、この4作、今風の工夫ですねえ。

吉田雄亮「居残り同心 神田祭祥伝社文庫 2013年 280円 定価638円プラス税

北町定町廻り同心30歳前の水木弦太郎が探偵役。町廻り同心なんですが、二人の手下と事件を追ってる最中に神田明神の境内の群集の中で二人の手下と容疑者が殺される。手下がいなくなった弦太郎は、明神の辰蔵という香具師の元締めに強引に十手を持たせて、岡ッ引にして、その上、神田、本郷、小日向、湯島、上野、下谷、谷中、浅草をまわるために、辰蔵の家に住みこみ出す。もちろん同心は、毎日奉行所に顔を出して小者をつれ、岡ッ引、下引きをつれて巡回しなければならないのだが、奉行所へ立ち寄る時間が無駄と上役の与力を説得してしまう。それでついたあだ名が居残りの旦那。「ちょっぴり悪そうで、それでいて、どことなく小粋な感じがする。もっとも、おれだけが、そうおもっているのかもしれぬが」と弦太郎もまんざらでもない様子。部下は小者の老人の孫助。下引きについたのが、辰蔵の子分の伊佐吉。
事件は捕物帖ではありきたりの抜け荷事件。敵役は、手裏剣使い。設定の居残り同心というのだけが目新しいので、この後シリーズはどう展開していくのか、興味深深。

沖田正午「手遅れでござる やぶ医師天元世直し帖」ハルキ文庫2013年定価660円プラス税

浅草で医療所を開いてる元某藩御殿医天元、願人坊主の朴念、早桶職人の竜次という、医者、坊主、葬儀屋というトリオが、勝手に「世直し組」と称して、陰始末するシリーズの第三作目。前の二作と異なって、天元は「世直し」に意味が見出せなくなり、組を解散しようかとスランプ状態。朴念と竜次は小遣い稼ぎにもなるので、まだまだやる気まんまんなので、チームワークが崩壊寸前。そういうところに、天元御殿医をやめたきっかけになった、大名家の取り潰し事件にかかわっていたと見られる別の元御殿医土左衛門でみつかることから、天元は陰謀事件へと巻き込まれる。その登場人物に朴念が願人坊主に落ちた事情に絡んでいた坊主がやはりからんできて、三人そろって戦うはめになる。再び「世直し組」再結成。天元を狙う闇の仕事師とか、毎回毎回、事件の度に竜次が手を怪我して、桶職人の仕事を休むはめになるとか、ドタバタ進行のおもしろさで読ませます。

小杉健治「からくり箱 質屋藤十郎隠御用 二」集英社文庫 2013年280円 定価620円プラス税

質屋「万屋」の主人の藤十郎は、質入された箱根細工のからくり箱の重さに首を捻る。調べてみると、二重底から五十両出てきた。藤十郎は元通りに入れなおして、あずかって置くように手代に指示した。そのうち、岡ッ引が近所の店に押し込んで主人を殺して五十両を奪った犯人捜査で現れる。押し込んだ二人組みの一人は既に捕まって大番屋にいたが、殺しはしてないと主張しているという。どうせ五十両も盗んでいるのだから、死罪は確定してるのに、何故認めないのだろうと、藤十郎は首を捻り、ひそかに調査を始めた。
この藤十郎の店は、実は旗本御家人相手の金貸しをして、武士階級の経済的困窮から幕府の屋台骨が傾くのをふせごうという家康からの極秘任務を代々遂行している店だった。それが、最近、殺された男の店から借りて、万屋からの借金を完済する旗本が出てきていた。実は殺され男は西の金貸し鴻池の江戸支店として、幕府の勘定奉行へ工作をしていたということも明らかになる。
押し込み犯の主犯の男は死病にかかっていて、幼馴染の経済困窮を救い、やはり古い知り合いの女を助けて、幼馴染と結び合わせて、二人が幸せになるようにと強盗を企んだのだったが、それを利用して、金貸しを殺したものがいたことを藤十郎は明らかにする。ついでに、死につつある男の願いもかなえてやるのである。まあ、しみじみとした、小杉節とでもいう世界です。それにしても、裏鴻池という関西集団はなにを企んでいるのか、この二巻目でもあきらかにされてはいないのですね。

野口卓「闇の黒猫 北町奉行朽木組」 新潮文庫 2013年 定価550円プラス税

正義の定町廻り同心というのは、町奉行所に五ツ(午前八時)に出仕して、同心筆頭から通達次項を聞いて、五ツ半(九時)に、手先の岡ッ引らを従えて、市中見廻りに出、決められた区域を巡回するのだと、野口は書く。
定廻り朽木勘三郎に従うのは、岡ッ引の伸六とその手下が二人、御用箱持ちの中間が一人の四人で巡回する。この伸六の手下は、減らず口の安こと安吉、巨漢の地蔵の弥太、独弦和尚の和助、ぼやきの喜一という、21歳から15歳までの若いものばかりであり、勘三郎以下7人を『朽木組』と奉行所の者も町衆も呼んでいた。南北奉行所きっての捜査チームだったわけです。
そのチームがぶつかる最初の事件は、商家の百両盗難事件の「冷や汗」、商家の結婚したばかりの若旦那が三日目に姿を消した謎を追う「消えた花婿」、文庫の題にもなっている二十年間正体不明の怪盗を追う「闇の黒猫」の中篇三つがはいってます。まあ、刑事ドラマみたいな若い手下たちの会話が雰囲気をだしているんですね。
登場人物が熟れてくる、三作目あたりからが楽しみですね。