Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

026 野村胡堂「銭型平次捕物控 傑作選1」「銭型平次捕物控 傑作選2」あだち充「虹色とうがらし 4巻」土橋章宏「超高速参勤交代」

盆休み中である。やりたいことは一杯あるのだけれど、crack attack! という落ちものゲームにはまってボーイスカウト時代の一週間キャンプの後半に子ども達がはまった垢こすりみたいなもので時間がつぶれている。こまったものです。

野村胡堂「銭型平次捕物控 傑作選1・2」文春文庫2014年 (株)文芸春秋 各310円定価各490円+税

最近はbookoff も値上がりして、以前は定価の半値から並べだしたのが、60%強の値付けである。これもアホノミクスの成果だろう。アルバイトにその分高く払ってやってくれてるならいいんだが。
中学校の1年生から小遣いで新潮文庫、角川文庫を買い集めて文庫になったのは全部持ってたので、題を読むと犯人だけは覚えているので、謎解き(といったって、フェアプレイのクイズタイプのものではなく、シャーロック・ホームズが説明するのを読む楽しみ同様)すなわち平次の絵解きを楽しみながら、江戸情緒を楽しむのだけれど。
傑作選1には[金色の処女」「お珊文身調べ」「南蛮秘法箋」「名馬罪あり」「平次女難」「兵粮丸秘聞」「お藤は解く」「迷子札」とバックステージエッセーの「平次身の上話」が収めてあり、2には「身投げする女」「花見の仇討」「九百九十両」「火遁の術」「遺書の罪」「第廿七吉」「五つの命」エセーで「銭型平次打明け話」に安藤満の解説「平次、八五郎は生きている」が入ってる。
記憶にないのは「兵粮丸秘聞」だけだった。
まあ、こどもごころに面白かったという記憶があるのは「花見の仇討ち」くらいだけれど、江戸時代入門としてはなかなか悪くなかったと思う。「金色の処女」は家光暗殺未遂事件で、あるから、少なくとも1651年以前から、平次は名探偵をやってたはずなんだが、大岡越前守も出てくるので、え?1717年町奉行就任なんで、うわあ、なんだ?これは?でも、ちゃんと胡堂先生上記「身の上話」で「挿絵の勝手」都合により、作者の我がままで幕末化政度の風景として・・・・はなはだ済まないことではあるが、ほお冠りのままで押し通している・・・・らしい。つまり言わない約束でしょうってわけですね。で、平次は永遠に31歳でお静さんは23歳のままというのは、「大衆文芸の面白さはそのコツ」だと、やはり「身の上話」で言い切っております。
子どものころには読み飛ばしてしまった刀の使い方も、後ろから人を斬るときは、やくざは刀を引くように斬るが武士は押しこむように斬るから、刀傷は大きくなる。これはやくざの刀使いではなく、武士が犯人だというようなことを見つけると、うん、あ、そうか。とエアちゃんばらをやったり。
文春版の、あ、やっぱりそういう時代かと思うのは、用語解説がついてることです。「藍微塵」「弥造」「奉行」「老中」[南町奉行」「与力」「鷹狩」「三代将軍家光」「征矢」「定紋」「箆深」「お側の衆」「岡っ引」「御用聞」「本草家」「府内」「霄壤」「永楽銭」「鍋銭」「へちまの水」「水茶屋」「黄八丈」「大束」「鳥目」「御家人」「同心」etc.
新潮角川はルビふってあったんだったかなあ?子どもにはほとんど読めなかったような気もする。ま、わかんないのは感じの雰囲気でわかった気になってたのかもしれない。でも「箆深」「霄壤」なんて、今でも読めないし意味もわかんないぞ。
この「同心」だけみておくと、「与力の配下で庶務・警察の業務にあたった。『一味同心』から出たことばで、もとは武家に付属した兵卒のうち、とくに徒歩の者をいった」
うん、確かに同心というのは戦場では「足軽」身分だったわけで、明治に入って羅卒、今巡査なんだよね。だから袴を着けずにぞろりと長着で、上に羽織を羽織ってるけど、いつでも長着を尻まくれる。その格好は足軽八王子千人同心というのも、八王子に屯田した千人槍足軽だったわけだし。最下位の武士身分。一応武士身分だから、小者をつれて、捕物装束道具類を持たせて街を巡回してたり、事務仕事をやってたんですね。
お金の換算は、至極あっさりで、一両10万円と野村先生は計算してたようです。
野村胡堂は、2つのエセーでも「武士嫌い」を公言してます。平次の反骨は、ほぼ7割の犯人を「しくじりました」と見逃す態度に表れますが、その背景には胡堂の武家社会構造への嫌悪と批判が現れているわけです。まして、刀は武士の魂はともかく、日本人の魂なんてうっかり口にする失言議員なんかが訪れたら、玄関からたたき出したにちがいないようです。(あ、やらないか。野村の紳士的行動生活態度は有名だものね。そんなチンピラめいた無粋な断り方はしないだろうなあ)
安藤満は慶応の学生仲間に広まっていた『小話』を紹介している。「平次の恋女房お静はフランス人だ
kokokara----------
平次が捕物に出かけるとき、お静は切り火をきりながら、≪Je t'aime, et toi?≫と囁くというのである。平次、答えて曰く、≪Madame, moi tant.≫
kokomade------------------------p.308
絵解きは本屋で2巻目の該当ページをさがしてみてくださいな。(今の慶応生にそんなにフランス語ができるのがいるかどうか、都市伝説かもね)

あだち充「虹色とうがらし」4巻 2005年各巻500円 小学館

初出がいつだったのか、もう忘れたが、コンビニで過去作品を合巻リバイバルするという企画本で、中高年がターゲットらしい。それに引っかかって買うほうもいいカモかも。
あだちは大昔・・・・ほとんど太古の昔、「陽当たり良好」というコージー下宿ラブコメマンガを読んでファンになった。今も単行本は持っている。今の少年サンデーはBirdmen(田辺イエロウ・・・・彼女が主婦作家だったとは知らなかった。「彼女」であることすらも。だから、子育てや家事がいそがしくて、月一連載ペースになってるのはちょっとさびしい)以外は老人の目にはみな同じストーリーと絵にみえる。閑話休題
ずっと少年サンデーで「スポーツさわやか根性ラブコメディ物語」みたいなものを書き続けて、汗は描いても血は流れない作家で、政治的なものも社会的なもにデガジェな作家だった。
ところが、いきなり江戸時代風環境SFマンガを連載し始めたことがあった。けっこう人気が出たらしいが、それ一作でまた、ラブコメスポーツ物語に戻っている。
「未来の話であり、時代考証無用」という断り書きの立て札がくりかえし出てくる。「つまり、なにがいいたいかというと、この風景が昔の地球のある国のある時代に似ていたとしても、それはただの偶然だということなのである」
時代考証に口出し無用 奉行所
わはは、銭型平次の設定「大衆小説のコツ」がもっと徹底されています。
「念のため、もう一度。 これは未来の話である。」
かなりに江戸時代ふうの世界で、後に将軍になった男が若いころに、日本全国を女漁りの旅でまわって、七人の子どもがオトシダネとして散らばった。次男絵師にして、埴輪念流免許皆伝未来予言者麻次郎、長男落語家胡麻、三男怪力無双の破壊坊主芥子の坊、長女菜種、五男天才発明家陳皮、六男忍者幼児山椒の六人が暮らす「江戸」のからくり長屋へ、最後の七人目の火消し「七味」15歳がやってくるところから話は始まる。同時に、別宇宙の既に環境汚染と戦争で破滅した地球らしき惑星から、怪しい天才科学者バン艦長が宇宙船でたどりつき、将軍から賓客と迎えられる。その将軍の弟はひそかにこのバン艦長の科学力でクーデターをもくろみ、バン艦長はこの穢れなき星で旧地球の復活と旧世界で相手にされなかった実験をもくんでいる。悪役はこの二人で、その弟の息子が最終的に主人公七味と対決するのだが、どちらにつくのかわからない剣の天才浮論がからんで、2000ページ近い疾風怒濤コメディアクション時代劇が展開する。
兄弟愛と遊び人の父とのコメディ葛藤がテーマであるけれど、兄弟側が守りぬく科学文明汚染以前の自然環境。血が大量に流れる戦いという、へえ、あだちもこういう問題意識を持ってたんだと感嘆してしまった。
でも、結末はいつものラブコメなんだよね。
(え、次男長男三男の順が変?それは言わない約束!武士の情け!)

土橋章宏「超高速参勤交代」2013年講談社2015年講談社文庫750円税別

ストーリーは、いきなり幕府から5日以内に江戸へ参勤せよと命じられた、今の福島県の太平洋側にある湯河原藩は参勤交代のたびに藩庫が赤字になるような貧乏藩のドタバタコメディ。将軍への参府みやげは特産大根。当然、幕府閣僚への献金なんて出したくても無理無理。おそるおそる大根献上。そりゃあ、閣僚からの憶えはめでたくないだろう。
そんな貧乏内藤家が参勤交代から地元へ戻ってきたばかりのところに、いきなり江戸へ出てきて説明せい!と来たわけである。期日まで間に合わなければお取り潰し必至。藩主だけ馬の一人駆けで上府しても、非礼失礼でやっぱり取り潰し、というので、藩主以下知恵と体力を絞って、ない袖を絞りきっての高速参勤交代ゲームをするはめになる。もちろん、利権ねらいの幕府閣僚の仕掛け大名はお庭番を動員して妨害に出る。
時は将軍吉宗のころ。
まあ、話としてはそれだけで、活字でマリオをゲームするような・・・・大衆小説だから、思いつく限りのバラエティ風エピソードをつらねてもよいという路線のお話。長距離電車の中で読むのに最適かもしれない。読み出すとやめられない疾風怒濤感あふれるお話。
2時間ドラマとか映画の原作ですね。まちがいなく。