Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

アリサ・クレイグ 「潮の騒ぐ家」シャーロット・マクラウド 「リサイクルされた市民」ジル・マゴーン 「パーフェクトマッチ」ティモシー・ウィリアムス 「黒い人形遣い」

Newsgroups: mystery/salon #2619

イチローの年間安打記録なるかならないかということ以外はうんざりするようなニュースばかりなんだけど、ミステリにもならないような弱者虐待犯罪ばかり耳に入ってきますね。ミステリも犯罪ものだけど、まだ読み終わったあとに、文学的カタルシスっていうか、大衆小説の必要条件の「希望」みたいなものがあるんですが、現実の犯罪は、救いがねえ・・・と飲むしかないものばかり。
政治もあいかわらず。まあ、ひたすら古本でも読んで現実を忘れて過ごすのがいいか。というんで、また四冊。
アリサ・クレイグ 「潮の騒ぐ家」、シャーロット・マクラウド 「リサイクルされた市民」、ジル・マゴーン 「パーフェクトマッチ」、ティモシー・ウィリアムス 「黒い人形遣い
kokokara------------------------------------------------------------

アリサ・クレイグ 「潮の騒ぐ家」創元推理文庫 1992年 30円 定価450円

The Terrible Tide by Alisa Craig, 1983.

シャーロット・マクラウドの別名のアリサ・クレイグ名義もの。クレイグ名義のものは、舞台がカナダと決まってるのだが、これはシリーズものではなく、単発長篇ミステリNYでモデルをやっていたホリーが、ライト爆発の怪我で引退同然のリハビリで遺産の権利の半分を持っている兄夫婦の町ジャグタウンへ戻ってくる。兄は冷血な家族的感情というものをもたない脱サラ家具職人で、お喋りで世話焼きの妻と暮らしていたのだった。形成手術ができるようになるまでのリハビリ生活のつもりだったのに、ほとんど下女同然のシンデレラ生活なので、いっそのことと町の一番の財産家だったのに、お化け屋敷同然にくらしているパーレット家に寝たきり老人とその老いたハウスメイドの面倒をみるハウスキーパーとして住み込むことを決意する。
古い屋敷は、骨董的価値がいっぱいの古家具だらけなのだったが、埃まみれて、しかもメイドの老女アニーは夜な夜な幽霊がうろつくと本気で信じている。二人いる管財人の一人の姪の主張で、屋敷に出入りできるのは、管財人とメイドだけだったのだが、アニーの友達のバート老人は勝手に出入りして、管財人が来ると隠れて、アニーを助けていた。
という古い館に二十一歳の女がハウスキーパーとしてやってきて、館の謎を解くというミステリなのです。殺人事件は起こりませんが、サスペンスはたっぷりです。猫をつれて乗りこんで行けば明日香シリーズにしてもいいくらい。
でも、訳が「ん?」というところがでてくる。たとえば「オランダ天火」。
あれあれ、これはダッチオーブンでいいじゃんかと思ったりする楽しみもあります。
シリーズ化すると面白いのにね。元モデルのハウスキーパー、ホリーシリーズ。でも、ゴシックロマン以来の定型どおりに、ホリーにも恋人ができちゃうんだよねえ。これがけっこう魅力的だから、シリーズ化するために殺すわけにもいかないだろうなあ。

シャーロット・マクラウド 「リサイクルされた市民」創元推理文庫 1994年 105円 税込み定価530円

The Recycled Citizen by Charlotte Macleod, 1987.

箱入り娘から箱入り花嫁、箱入り未亡人から箱入り新妻と変身を重ねつつも、箱入りお嬢さんのセーラ・ケリングシリーズ。
このシリーズ、主な親類の脇役を紹介しないと筋書きも書けないという趣があるのだけど、ケリング一族が絡んでいるホームレス救済事業を廻る謎が今回のテーマ。セーラは下宿をいとこに譲って美術探偵のマックスと新婚生活をおくっていたのだが、ある日、ホームレス救済のビン缶回収事業に従事しているメンバーが若い男に、集めてきた資源ゴミをかっぱらわれるのを目撃する。セーラの山勘がぴんぴんと働き出して、探偵ごっこが始まる。慌てたのは周りの親族達。セーラのお腹には赤ん坊がいるのだ。それが探偵ごっこというのは!と身動き不自由なセーラに変って変人奇人ぞろいのケリング一族が動き出す。
一番のスターは、バックルカメラを駆使する隠し撮り名人のオジサンかな。
それにしても、登場人物リストに「セーラの従兄のようなもの」ってのもすごい話です。
しかしまあ、だんだん、セーラシリーズもシャンディ教授シリーズ並みの荒唐無稽なおもしろさに変質してきてますね。

ジル・マゴーン 「パーフェクトマッチ」創元推理文庫 1997年 100円 定価600円+税

A Perfect Match by Jill McGown, 1983.

登場人物六人。なりたてほやほやの未亡人。義弟の弁護士。義弟の妻。義弟の若い友人。若い友人の姉。その夫の不動産業者。
未亡人が湖畔の小屋で全裸死体で見つかる。残りは五人。確率20%。
というので、謎解きというよりは、女刑事ジュディ・ヒルとその上司のディヴィッド・ロイド警部の冒険物語、第一作という感じですね。作者がてさぐりで、探偵たちのイメージを固めるための。

ティモシー・ウィリアムス 「黒い人形遣い」文春文庫1988年 250円 定価500円

The Puppeteer by Timothy Williums, 1985.

新橋の地下鉄からゆりかもめに歩く途中に古本屋が店開きしている。なかなか一日の途中で本が切れたときには便利です。ちょっと高いけど。
何故か、イギリス人が書いたイタリア警察小説、「自転車に乗った警視」シリーズ第二作。
アメリカに出張している妻の故郷の観光地ガルダ湖畔で朝飯を食べようとしていたピエーロ・トロッティ警視は、ベンツから赤いスカーフで顔を隠した男がおりて、銃を構えるのをみて、地に伏せた。撃たれたのは若い男。
男はアルゼンチンから故国イタリアに戻って新聞記者をしていたのだった。父親は、トロッティが祖父殺しで逮捕したという因縁があった。その事件は、状況証拠しかそろわず、担当判事の奮闘にもかかわらず無罪になったのだが、イタリアでは生活できずにアルゼンチンに渉ったのだった。おりしも、アルゼンチンとイギリスのフォークランド紛争勃発直前だった。
イタリアの警察の別組織カラビニエリは、狙われたのはトロッティか、トロッティがらみで新聞記者が狙われたのではないかと、執拗にトロッティを呼出そうとするが、トロッティも、警察組織間の縄張り意識で協力しようとしない。そのうち、新聞記者が大銀行のアルゼンチンがらみの債権で大焼けどして政治不正をともなうスキャンダルになるネタを掴んでいたことがわかってくる。
でも、何故拒食症の娘とアメリカ出張中の妻しかしらないトロッティのスケジュールを掴んでいたのかというところから、娘の指導教官の大学教授へトロッティは捜査を進め、その背後に「フリーメーソン」内部対立があるというところまで、炙り出していく。
まあフリーメーソン側もマフィアを使って、トロッティを片づけにかかったりといつのまにかスパイサスペンスみたいな話になって、最後に一転、思いがけない犯人をつき止めるというミステリで締めくくるのです。
ただ、トロッティの行動というのが、まるで江戸時代のおかっ引、戦前戦後の暴力刑事みたいな権力を傘の傍若無人ぶりなんで、これが気に入るか入らないかで、このシリーズの好き嫌いがきまるでしょう。
to---------------------------------------------------------kokomade.
ミステリ舞踏派久光