Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

【私のミステリな日々】2004年3月 Beanball by Tom Seaver, The Main by Trevanian, 姉小路祐

mana さんのブログでトレヴェニアンを見つけた。あ、これは、アサヒネットのミステリパラダイスで書いたことがあると、ログを検索。ありました。というので、その日のアップロードをそっくり、転載しませふ。

kokokara-----------------------------------------------2004/3/13

◎トム・シーヴァー/ハーブ・レズニコワ「殺戮投法」新潮文庫 1999年50円 定価705円

Beanball by Tom Seaver with Herb Resnicow, 1989.

光画倶楽部のイージーショットの松屋豚めしの写真は、豚めしとこの文庫本が並んで写っている。そのキャプションにこう書いた。
kokokara------------------------------------photo/easyshot #1634
牛丼屋が豚丼を売る・・・ビーンボールみたいな商売ですねえ。
文庫のミステリは、あのトム・シーバーがミステリ作家と共作してます。
投球術、ゲーム観、野球哲学、トムがしゃべってるようなところは実に魅力的なミステリです。(野村元監督が共作したら、面白いミステリになるでしょうが、たぶん暗くまとまってしまうかな。捕手の目じゃなくて投手の目から野球を見るとこんなにも楽しい。楽しすぎる。)
殺されるのは、NYのナベツネのあいつです。
回りをすべて暗く陰気にして自分だけが目立ちたがるあのモンスターオーナー。なんか、トムとハーブの会話が聞こえてきそうです。
「やっぱり、野球界で殺されるやつはあいつだよね」「そうあん畜生しかいないよ」
ナベツネを殺しても、ヨミウリ体質はかわんないけど、(長島も原も同じ穴の狢だし、巨人ファンてのは、ナベツネの雛型だしね)たしかにNYの名物オーナーがのぞかれたら、かなり野球は楽しいものになる。チャンチャン!(冷や汗)
to--------------------------------------------------------kokomade.
トム・シーヴァーといったら、今五十代の野球ファンにとっては、ボブ・フェラーノーラン・ライアンと並ぶピッチャーの代名詞。最後は権力と金に媚びた金田某とはことなり、メッツを背負って孤軍奮闘した男気たっぷりのピッチャーです。
話は、スタイン・ブレ−ナーじゃなかったブルックリン・バンディッツのオーナーがワールドシリーズの初日に球場の地下通路で死体になって発見される。死因はボールを頭にぶつけられての脳挫傷。発見したのは、スポーツ記者のマイク・バー。このバーが道化まわしの探偵役。まあ、ミステリ部分もちゃんと練られてよくできてるんですけど、それよりもトムがしゃべってると思われる、ゲームの展開と選手・監督の心理描写が実に面白いんです。まあ、野村さんから根暗な部
分をのぞけたら(できっこないけど)日本語でも面白いのが書けるんじゃないでしょうかね。(ライターは清水義範ねじめ正一だな。)
野球好きにはたまんないですよ。この架空のワールドシリーズ4ゲームは。

トレヴェニアン 「夢果つる街」角川文庫 1988年 100円 定価680円

The Main by Trevanian, 1976.

モントリオールのフランス語圏と英語圏の境目の町がメイン。そこを担当する一匹狼の警部補クロード・ラポワントが主人公。彼は、暴力でこの街を仕切っているので、警察組織は機会あらば首にしようと思っているが、なんと言っても、金にはきれいで、独特の正義感で市民の信頼は絶大なんで、うっかり火中の栗を拾って、将来の選挙での票を減らしたくない警察幹部から政治家への出世を狙う俗物官僚人間には手がだせない。
そんな彼に、イギリス系の新人が研修でつけられる。彼の公私混同の暴力を目にして普通の正義感の新人は困惑と反発しか感じない。
そのパトロール地区で若い男が刺殺される。その捜査の過程で街のダニみたいなヤクザを、街からたたき出すのだが、このやくざは市の議員を通じて警察幹部を動かし、ついに、6ヶ月先の辞表を書かされる羽目になるが、ラポワントは、最後まで自分のスタイルを貫いて、犯人をつきとめる。持病の動脈瘤が破裂するのは時間の問題で、せいぜい持って数ヶ月と医者から言われていることもあって怖いものなしなのだ。
まことに暗いミステリですが、一度読み始めると、その暗さにがっちりとつかまれて、さいごまで一気に読んでしまう。おお、これはまるでギリシア悲劇の主人公の物語みたいと感じちゃいますね。そう、非常に「文学」に近づいている、シムノンのミステリをもっと文学よりに、崖っぷちでとまらずに、落ちる寸前で谷底を見ている感じです。
まあ、最後のページでもちゃんとラポワントは生きていて、自分の家へ帰ってくると、はるか年下の一度だけ寝たびっこの若い娼婦が「もどってきちゃった」と待っているのは、同じ年齢の舞踏派としてはうらやましいかな。
北村太郎の翻訳もいいですねえ。七十年代のあの沸騰したお湯が冷め切った水みたいな行き止まりの予感時代の香りが伝わってきます。マルティン・ベックシリーズにも共通するものですね。うむ、このむなしさをどうしよう。

姉小路祐 「刑事長」講談社文庫 1995年 100円 定価 540円

これは、一転、日本の一匹狼の刑事(デカ)物語。大阪府警御堂筋署の刑事長ダンさんこと岩切鍛冶は、やはり上からは煙たがられるのでもラポワント
なみだが、周囲の平警官たちからまで煙たがられるのは、やはり日本社会の特性ですねえ。
警察組織に限らぬ日本社会の構造ってのは、「雲の上」「えらいさん」「ジャコ」(大阪じゃ警察の公務員試験合格キャリア・警察内試験出世幹部、平警官をこう呼ぶんだそうです)なんだそうです。支配構造が確立してる世界=業界ではこれは日本共通のものであるいうのが姉小路の物語の文化背景になっています。その構造の歪みが組織の犯罪として、構造化されて、揉み消し体質になるんだなあなんて読んでて感じてしまうのですね。

事件は、そのキャリアが新署長として赴任して、町の世話役や政治屋と宴会している夜に起きた婦女暴行殺人事件です。捜査の途中で、被害者の写真が全国的に裏世界で売られているのも判明する。
単独捜査の結果、ダンさんは事件の犯人を逮捕して捜査本部は解散したのだが、ダンさんは、犯人が殺人は認めても、写真の件は認めないので、この写真のルートを勝手継続捜査し始めた。ところが、これに対して署も府警も組織をあげて妨害に出てきた。ダンさんは卸元をつき止めて追いつめたが、きわどく逃げられた上、その卸元の男が急性心不全で公園で死んでいるのが見つかる。殺しだと直感したダンさんは死体発見場所の公園が別の署の管轄なのも気にせず捜査するのだが、そのため、場末の小さな警察署へ飛ばされる。飛ばされても大阪は狭いから、ダンさんは休暇を取って捜査を続け、新聞記者に漏洩した形で大阪府警を相手に公開質問状まで送るが、卸元の男が心不全で苦しんでいる現場を見たという女教頭まで府警は出してきて、記者会見まで開いて事件性がなかったことにしてしまう。
このままでは、これは「夢果つる街、ザ・オオサカ」になってしまうと残りページにやきもきしながら読み急ぐと、ここで大逆転。この警察側の取り繕いの女教師が何故嘘の証言をしたか、させられたかというところから、真犯人が浮かびあがった。
で、最後は、ダンさん、御堂筋警察に刑事長として復帰のめでたしめでたし。
(そうしないとシリーズ続かないもんね)ミステリは御伽噺なんだから、これでいいのだ。正義は勝つ。天網に穴はない・・・はず、と苦笑い。はー。
さて、続きを探そうっと。
ma------------------------------------------------------------kokomade.
そうだ、トレヴェニアンの原ペイパーバックをさがさなきゃいけないなあ。

ミステリ舞踏派久光@今日、The Dark Place 読了。次は、1972年に買って、静かに乾きつつ酸性化しつつあった、Queen "Shoot The Scene"だ。読み終えるまでにばらばらにならなければよいが。