Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

【私のミステリな日々】2003年3月 Favor by Parnell Hall, The Luck Runs Out by Charlotte MacLeod, 島田荘司 ,関裕二 

kokokara------------------------------------------------------2003/3/16

パーネル・ホール 「お人よしでもいい」ハヤカワ文庫 1992年 200円 定価640円+税

Favor by Parnell Hall, 1988

スタンリー・ヘイスティングシリーズ三作目。渋い脇役の名刑事、スタンリーの「心ならずもの警察側協力者」のマコーリック部長刑事がスタンリーに調査を依頼してくる。最近、娘のバーバラとその夫のハロルドの様子がおかしいから、調べて報告してくれというもの。
まあ、尾行しているうちに、前二作同様に殺人事件にまきこまれ、バーバラ/ハロルドの件で被害者とコンタクトを取ったと言えないがために、警察からは容疑者扱いされて、自分で犯人探しをはじめるはめになる。
で、犯人は、ちゃんと警察が、伝統的警察の捜査で見つけるのだが、スタンリーもまた、その捜査の網をかいくぐりながら、バーバラが強迫されていたネタの物証をとりかえし、ハロルドの人生の迷いの種も始末して、無事めでたしめでたし。で、これが、またタダ働きなんだ。
最後に、バーバラがスタンリーに聞く。スタンリーは答える。
「正義の味方は正体をあかさないもの」
冒頭に近いところでスタンリー=パーネルの自己紹介風つぶやきが書かれてる。
曰く、六十年代にはヒッピーをやっていた、四十代のオジン、(十五年たってるから、今なら五十代となる)幻滅した進歩派である・・・教養学科の学士号なんてトイレットペーパーほどの価値しかない。しかも学士号の資格よりは、トイレットペーパーの方がよっぽど使い道がある。
うん、身につまされる、ぼやきですねえ。
田中一江さんの訳もぴったりと決まっております。名訳ってやつです。

◎シャーロット・マクラウド「蹄鉄ころんだ」創元推理文庫 1988年 100円 定価 530円税込み

The Luck Runs Out by Charlotte MacLeod, 1979.

ピーター・シャンディ教授シリーズ第2弾。ピーターは、既に、この作品ではヘレンと結婚していて、そのヘレンの大学内での交友関係の輪に、バラクラバ農業大学の家畜の蹄鉄女鍛冶屋のマーサ・フラックレーが加わる。そのマーサが地方の農業競技大会寸前に殺された。同時に、大学が長い年月をかけてかけ合わせ作り出してきた芸術的巨大豚のベリンダが誘拐された。
おりもおり、大学では学長の娘までが加わった菜食主義者の反家畜運動が最高潮に達していて、さて、容疑者は?警察じゃあ、らちがあかないから、バラクラバ農大のシャーロック・ホームズと学長に思われているピーターは、学長から捜査を命じられる。
で、まあ、いつものように、のんびりどたばたと、ピーターは、おいしいものを食べかつ飲みながら、事件を解決するのです。
カバーイラストの天野喜孝のピンクのリボンをつけたベリンダの絵も楽しいですよ。

島田荘司 「聖林輪舞 セルロイドアメリカ近代史」徳間文庫 2000年 350円 定価933円プラス税

ロスコ―・アーバックル、早川雪洲チャールズ・チャップリンバスター・キートン上山草人、ウイリアムランドルフ・ハースト、フレッド・アステア、ハワード$ヒューズ、ジェイムス・ディーン、エルヴィス・プレスリィ、マリリン・モンローケネディ兄弟、ピーター・ローフォード、チャールズ・マンソン事件、ブルース・リー、O・J・シンプソンとハリウッドスキャンダル&伝説を推理作家がうまくまとめております。
クリスティの「The Secret Adversary 」の中で、ヒーローチームのアメリカ人富豪が、ヒールチームのロシア人共産主義者を脅かすセリフが、アメリカじゃ人を金持ちが殺したって、ちょっと一年くらい精神病院で治療と称して、寝転んでいれば、別に有罪にもならないんだ・・・と脅かすセリフを聞いた、ロシア人は、そういう実例を知っていたから、真に受けてヒールチームのボス、Mr.ブラウンを裏切ってしまうという場面がありました。
「そういう実例」ってのがこの本で紹介されているウイリアムランドルフ・ハーストの事件なんですね。
まあ、島田の反骨心は、ケネディ兄弟の欺瞞的人生を遠慮なくあばいてるところも(そのおかげで、いっそうますますMMの哀れさが浮きあがる・・・ヴァネッサ・パラディのマリリン&ジョンの聞き方も少しは、変わるかな、だって、書いてるのがゲーンズブルなんだから、彼もまた、島田以上の反骨歌手だから、当然ケネディ兄弟の狡さ卑怯さを念頭において曲を作ったはずだから)読み物です。
なんといっても、現代『本格推理』運動の旗振り男の面目は、O・J・シンプソン事件の分析が白眉です。三浦事件の分析とともに、マスコミ主導のTV愚民あおりに警察検察が乗った時の危うさ(この場合は、どうも南アフリカ出身のアングロサクソン警察官の人種偏見と成功者嫉妬感情のフレームアップ捜査に警察検察上部組織まるごとが乗ってしまったという面が大きいけど、裁判自体は、明らかにホワイトジャーナリズムの・・・現在のブッシュ応援団マスコミの担い手があおった人種裁判でした)をきっちり島田は見ぬいて、冷静に推理して文章を書いております。

◎関裕二 「聖徳太子蘇我入鹿である」KKベストセラーズ 1999年 定価552円プラス税

最初に浮かぶ関の好奇心ヴィジョンは、何故現在太子の子孫を名乗る一族がいないのか。蘇我一族の末裔はいるのにという点のようだ。
それに加えて、これだけ、悪いことを書かれていない歴史上の人物は、天皇を含めてだれもいない。聖人である。聖者伝説にしても、人間くささがあまりにも薄い。
そこから関の研究・捜査はスタートする。
これと、1988年の東京新聞の記事、創建法隆寺「若草伽藍の瓦五百点の発掘品に焼けた後があるのは、わずかに数点のみ」つまり若草伽藍は焼けていない、という新事実(1939年の発掘調査では、出土した瓦はみな焼けていたと報告された・・・ってのと矛盾する)から、日本書紀の二度消失再建というのは嘘で、焼けなかったのに解体再建されたという説を関は取る。
では、なぜ、こういう、微妙な嘘を書記はちりばめるのであろうか。
関は奇妙な事実を指摘する。聖徳太子鎮魂の寺というのに、なぜ、法隆寺には上宮王家を祭ったものがないのか。
次に、入鹿が暗殺した太子の子山背大兄王一族について、日本書紀は、どこにも太子の子とは書いてないこと、記述通りの聖者政治家にしては、彼の施策、政治業績、宗教活動もかかれてないこと・・・これは、妙であると関は思う。
結論に飛ぶと、山背大兄王は、日本書紀の創作人物である。その父の聖徳太子もまた創作人物である。では、何故に創作されたのか。
山背大兄王は、入鹿に殺されるために作られ、当然その政治背景として、父太子をも作るはめになった。
では、その太子の政策は書紀に記録されているし、隋の歴史書とも符合する以上、該当する日本側大政治家が居たはずである。
では、それは誰だ?
という風に論理を展開して行くと蘇我入鹿(実は善徳)こそ聖徳太子であり、実は太子どころか大王=天皇であった・・・という結論になるのです。
まあ、なかなかに面白い歴史ミステリの解であります。
別の言い方をすれば、聖王の子を殺した悪人を正義漢が殺して後継者となったという御伽噺的事件の記録を現代に読み解いてみたら、実は「正義漢」が聖王を殺したのであり。その犯罪事件をごまかすために、聖王を悪人に仕立て上げた歴史創造をしてのけたのである。そのために、「架空の聖王の子」殺しをでっちあげ、実在の正統的大王を犯人=悪人とした歴史を捏造したわけである。
この悪党=真犯人どもは、クーデター(殺人)をしたことをカバーする見事なフィクションを作り出して後世に伝えたのである。
まあ、出雲王権に対する九州王権の簒奪行為だったわけですが、これも、記紀を代表とする歴史からは、抹殺された歴史事実なことも関は指摘する。
何故ある程度親戚関係も持っていた出雲中央王権を九州王権がのっとらねばならなかったかというと、運命共同体百済救援戦争を遂行したいのに、後方に、新羅と協調外交を志向する出雲王権があっちゃあ、安心して戦えないというところでしょう。
こっからは、舞踏派の妄想ですが、唐・新羅連合軍に負けちゃったもんだからしょうがなくて、一衣帯水の北九州の首都を放棄して、海沿いに距離がある元出雲中央王権の地に居座ることになったんでしょう。それでもまだ新羅が恐ろしくて、出雲よりさらに内陸の奈良盆地王権を簒奪した、それが大和朝廷ってわけです。新羅に勝ってれば、博多が多分現在の京都か少なくとも奈良だったんでしょうね。
to----------------------------------------------------------kokomade.

やっと日付が変わった。これで、また一つ日記割をできる。少しは見やすくなるのかな。なんか表示がおかしいなあ。

ミステリ舞踏派久光
(たしかに表示が乱れてるので、てにをは直すついでに、再編集してみました。15 octobre 2010)