Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

【私のミステリな日々】バーネル・ホール「陪審員はつらい」ダシール・ハメット 「影なき男」ジョー・R・ランズデール「罪深き誘惑のマンボ」Partners In Crime by Agatha Christie

◎バーネル・ホール「陪審員はつらい」ハヤカワ文庫 1994年 100円 定価720円+税

Juror by Parnell Hall, 1990.

陪審員制度で一番有名なやつといったら、例の映画の「十二人の怒れる男」かな。映画では、ものすごくまじめな人達が陪審員やってるけど、「実は、陪審員なんてこんなもんさ。やりたいようなもんじゃねえよ」・・・あ、こうではない。パーネル=スタンリーは、こんなヤクザな口はきかない。気弱そうに笑って「ええ、あんまり・・・そう、できれば、お役御免にしてもらいたいですね」って言うでしょう。そういうお話なんです。
シリーズ六作目で、スタンリーはついに独立します。独立しても、仕事は相も変らぬ、リチャードの弁護士事務所からの依頼が主ですが、どこが、違うかというと、自分の仕事が入ったら、勤務時間内にそれを調査できるという点なんですね。
陪審員の報酬はわずか日給になおすと十二ドル。サラリーマンなら、この陪審員義務期間の二週間は、ちゃんと雇用者が規定のサラリーを払わざるを得ないから、一日、十二ドルのボーナスつきオフみたいなものなのだが、独立自営業者にとっては死活問題となる。で、個人で事業を切りまわしてる人は、陪審義務がまわってきても、免除されるのだ。現役バリバリのビジネスリーダーなんかは陪審員にはいないってわけです。
スタンリーは当然ながら独立したんだから免除まちがいなしと自信たっぷりだった。が、しかし、ところがぎっちょんである。
彼の、ちょっと照れくさい自慢の、大昔、売れる前のシュワルツネーガー作品に科白が一行ついた役で出たということが、とんでもない結果になった。つまり、その作品が、現在のシュワルツネーガーの人気ゆえに、全米のどこかの深夜放送で上映されるたびに、彼には、再放送出演料として四十ドルおくられてくる。税金その他をひかれて、三十二ドルになる。これが、やばかった。こ
れが、なんと映画会社に雇用されていると解釈されるのだそうだ。つまり、自営業者としては認められない・・・
え?ミステリーの筋はどうしたって?そんなもん、この陪審員制度の喜劇側面の作者実体験話にくらべたら、どうでもよいのです。一読の価値は、この付加価値にあります。今年一番のお勧めのミステリーです。えへん。

ダシール・ハメット 「影なき男」ハヤカワ文庫 1991年 100円 定価税込み560円

The Thin Man by Dashiell Hammett, 1934.

訳は小鷹信光。小鷹は言う、これは、ハードボイルドではない、都会小説風殺人喜劇である。うんたら、かんたら。その結果、アメリカではハメット作品中のナンバーワン人気をはくしてるのに、日本では、Thin (影が薄い)。
(この小鷹の訳者解説以上のものなんか、誰にも書けっこないだろう)
そう、コージーミステリなんですね。クレイグ・ライス並の。

ネド・ヴォーモン(ガラスの鍵の俺は紳士じゃねえというのが決め台詞のギャンブラー)サム・スペード(マルタの鷹のハードボイルドな探偵)の成れの果てみたいな、社会的に成功してしまった、元探偵のニック・チャールズが、資産家の恋女房ノラとNYにやってきたのが、1932年12月22日。
で、エンディングマークが出るのが12月29日。
NYのお金持ち美男美女カップルを掠める犯罪の影のみというクリスマス物語です。

会話の気の利きようといったら、まあ、ハメットの独擅場だけど、これは、また凄い。英語が中二レベルまであるなら、この小鷹訳をあんちょこに是非一読する価値があります。

◎ジョー・R・ランズデール「罪深き誘惑のマンボ」角川文庫 1996年 200円 定価 税込み760円

The Two-Bear Mambo by Joe R. Lansdale, 1995.

あれ、本が手元から姿を消してしまった。(笑い)
ま、記憶で書こう。
腰巻には、「怪作」とあった。
題名のマンボは、二人の主人公と一緒に刑事がテレビを見ていたのだが、その画面ではクマの性交が映し出されていたので、最近のテレビは、何たる堕落であることかと刑事がなげいた。その刑事がクマのお祭りを「マンボ」と表現したとことからついている。原題は、もろに二匹のクマのマンボってわけです。

昔流に言えばヒッピー崩れみたいな白人と、しょっちゅうトラブルを起こしているゲイの黒人が探偵役で、失踪した白人の元恋人の黒人美人弁護士を、南部の1960年代以前にタイムスリップしたような町へ探しにいくという冒険ミステリ。
ゲイで黒人で貧乏人の無職という被差別資格の看板みたいな相棒に助けられ、絵に描いたような人種差別地方政治家、警察をあいてに、主人公は元恋人が何が目的で、どこにいるかを探しつづける。
まあ、ぼろぼろになって二人は、ホームタウンに事件を解決してもどるのだけど、バックミュージックはブルースギターが鳴りっぱなし。
ほんとに「怪作」としかいえないなあ。

◎Partners In Crime by Agatha Christie

1929. A Signet Books,2000.

Tommy & Tuppence Beresford となってる探偵カップル、タペンス/トミーシリーズ第二弾。新婚一年が過ぎて退屈しきってる二人に、トミーの上司が、ある、逮捕したスパイがロンドンで経営していた『ブラント探偵社』を経営してみないかと提案する。ソヴィエトから郵便が届いたら、それ
を、上司の事務所へ届けるのが役目だった。
ただの店番ではおもしろくないと、二人は、暇に任せて呼んでいたミステリをかき集めて、名探偵ごっこをしようと、若い執事のアルバートと三人で、事務所へ通勤しはじめた。
それから十一ヶ月の間に、15の事件を解決して、無事、最後に、ナンバー16というコードネームのスーパースパイが、ブラント探偵事務所を調査にくるという最後の事件も解決して、タペンスが妊娠したので、事務所を閉じる。めでたしめでたしという、コージーミステリのハシリみたいなミステリです。
四十年近く前に読んだときに一番印象的だった、ゴルフ場で、男が殺され、ハットピンがそばに落ちていた事件で犯人は女性かという疑問をタペンスが一蹴する科白。
Only one woman in twenty uses hat pins nowdays, anyway---long hairor short. Hats fit tight and pull on --- there's no need for such thing.
と。その一ページあとで、まだ女性犯人説に拘泥するトミーを一喝する。
Men are notoriously old fashioned. It takes them ages to rid themselves of preconceived ideas. They associate hat pins and hairpins with the female sex, and call thme "women's weapons." They may have been the past, but they're both rather out of date now. Why, I haven't had a hat pin or hairpin for the last four years?
実にタペンス=アガサの声が聞こえてくるような文章だとおもいませんか。
to-------------------------------------------------------------kokomade.
昨日は、上中里駅の樹木伐採工事が2時半で終わって、駒込駅まで歩いてみた。途中女子栄養大のプランタンに久しぶりによって、学生実習ケーキを買おうとしたら地味なものしか残ってなかったのでクッキータイプを買って、駅前のアルプスへ寄った。ここも禁煙席満席で食べるのをあきらめ、阿佐ヶ谷へもどり本屋をのぞいたら、宇江佐真理の「卵のふわふわ」が文庫で新刊。即購入。
でも、CADの練習問題集も買ってこっちが先だから、いつ読めることやら。

ミステリ舞踏派久光