Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

【私のミステリな日々】8月下旬 打海文三「苦い娘」You Bet Your Life 「我輩はカモじゃない」by Stuart Kaminsky Never Cross A Vampire 『吸血鬼に手をだすな』by Stuart Kaminsky

打海文三「苦い娘」中公文庫 中央公論社 2005年 724円+税 220円

東京大田区の小さな印刷所は倒産寸前で組合と会社側が団交をくりかえしていた。19歳の万理子はそこの社員で明日付けで依頼退職するつもりだったが、その日に、会社に「整理屋」が乗り込んできて社長夫妻をつれさり、社長夫妻はそのまま失踪する。実印と印鑑証明他の重要書類が消えていることが組合側の弁護士の調査で判明する。その整理屋の一人が万理子のおじの荻元勉だった。
万理子は退職したのにもかかわらず、実印と書類を組合のために取りかえそうと荻元と会う。荻元は姪を子ども扱いして立ち去るが荻元のコロナを万理子はバイクで追いかける。そのコロナが多摩川の橋の上で大爆発した。
万理子は荻元の探偵仲間の真船亨を訪ねる。真船は老父の世話のために山の中に引っ込んで半ば隠遁生活のように暮らしている42歳だった。犯人を捜してくれという依頼を真船は断る。真船は万理子をつけてきた二人組を見つけて尋ねると刑事だった。
万理子が帰った夜に、真船の家を四人の中国人が襲う。林という男から依頼されて真船を拉致しに現れたのだったが、真舟にショットガンを見舞われて追い払われる。真船は旧知の万理子の母親に電話を入れて、万理子に用心するよう伝言する。
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「誰を警戒すればいいのよ」
「警察」
「なぜ警察を」
「娘に聞いてくれ」
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ハードボイルな会話ですね。ほんとに。
孫を殺された祖母が万理子に金はだしてやるから犯人を捜せと頼む。おりよく、そこへ真船から電話がかかってくる。三日前に父が死亡して、真船が再び町へ降りてきたのだった。彼は古巣のアーバン・リサーチを通じて情報を集めだす。このアーバン・リサーチという探偵会社が、打海のハードボイルドシリーズの探偵たちの繋ぎになっている会社なので、打海ファンとしては、思わずにやりとしてしまう。
探偵が動き出せば、事件は勝手に転がりだすのがハードボイルド。こっから先は、お読み下されたい。
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「いつまで待たせる気なの」女の声だった。
真船は応接セットへ目をやった。小柄な女がミニスカートの脚を組んでいた。灰色のソファに黒のマキシのコートがかけてある。女はちいさな唇にルージュを引き、淡いブルーのアイシャドーで目をくまどっていた。だが、ほんの子供だった。からだのつくりから言えば小学生かもしれない。
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お、これはひょっとして、姫子か。
やっぱり「されど修羅ゆく君は」のヒロインの中三女子戸川姫子でした。
姫子の相棒の中年探偵の野崎もちらりと影だけよぎって出てきます。
こまっしゃくれの姫子フアンのかたは、読み逃せませんよ。

◎ステュアート・カミンスキー 「我輩はカモじゃない」文春文庫 1994年 600円、100円

You Bet Your Life by Stuart Kaminsky 1978

登場人物がすごい。まずは、ビスケイン湾の桟橋にたたずむロッキード事件後の田中角栄みたいなアル・カポネ。ハリウッド探偵のトピー・ピータースがマルクス兄弟の一人チコの依頼でカポネに会いに行く場面から始まるのです。
で、絵がすごい。和田誠なんだ。桟橋で釣をするしょぼくれたカポネの後姿。もともと、和田誠が「ロビン・フッドに鉛の玉を」「虹の彼方の殺人」と訳してイラストを描いて、注をつけるといったこりにこった仕事をしてから、12年。文芸春秋が待ちくたびれて新人翻訳家で訳をごり押ししたわけです。
でも絵と膨大な映画の注(27頁)を和田誠がつけて出てるんですね。
筋にもどると、こいつにあいにシカゴに行けとカポネはトピーに命じる。トピーは冬のフロリダから、真冬のシカゴへ夏スーツで出かけるはめになる。護衛役だか監視役だかわからないのがついてくるのだが、これがシカゴのホテルで殺される。バーとホテルでトピーが襲われるのだが、これを救ってくれたイギリス紳士が、イアン・フレミング。おおお、と感動するのだが、このあたり
の真実度は和田注を読んでください。
ま、チコの借りてもいない借金の真相を暴きだし犯人をつきとめ、4件の殺人事件に巻き込まれて、スモッグのロスアンゼルスへとトピーは戻ってこれて、めでたしめでたし。

◎ステュアート・カミンスキー 『吸血鬼に手をだすな』文春文庫 1999年 714円+税、150円

Never Cross A Vampire by Stuart Kaminsky, 1980

「カモじゃない」がシリーズ3作目、これが5作目。間にハワードヒューズものが入ってるそうなんだけど、まだ古本屋で出会ってません。和田注も力が入っていてなんと39頁。
今度は、フランケンシュタイン役者のベラ・ルゴシが大看板。トピーが、フランケンマニアのストーカーからベラ・ルゴシを守るという押しかけ用心棒契約を取った(紹介してくれたのは、ボリス・カーロフ)ところに、なんと作家エージェント殺しで逮捕されたウイリアム・フォークナー弁護の調査依頼まで飛び込んで、この二つの事件がからみあって物語りは進むのです。
一方、日本軍の真珠湾攻撃直後という状況。日本軍の西海岸攻撃の可能性に大童。マニラのマッカーサーは、パターンで必死の抵抗中。40越したトピーなんか間違っても召集されることはないから、ひたすら探偵家業であくせくと生活費を稼いでいるというところが、なんともおかしい。
ハリウッド映画ファンには、たまんないシリーズですね。
一作目はエロール・フリン、2作目はジュディ・ガーランド、三作目はチコ・マルクス、4作目はハワード・ヒューズで、この次はゲイリー・クーパー。そのうちオーレイ・ヘボンもでてきそうだなあ。楽しみですね。
(え、こんなの面白いというのは60過ぎのジジイだって?当たってるかも(笑い))
訳者が長野きよみに変わって、だいぶ文章がよくなった。でも、313頁のジーン・サブロンは、日本語シャンソン文化じゃジャン・サブロンです。ま、英語読みすれば、ジーンでもいいんだけどね。

ミステリ舞踏派久光@8月下旬からちょっと残業が続いて、書く時間がなかったのです。すこし、本もたまってしまった。