Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

017 佐々木味津三「旗本退屈男」佐野洋「片翼飛行」島田一男「0番線」

佐野洋が、先月亡くなった。ちょうど、「片翼飛行」を読んだばかりだったから、印象深かったんだけど、佐野洋はほとんど読んでないんだ。lolol. 「推理日記」のうち何冊かは本屋で立ち読みした記憶があるし、他にも読んでるはずなんだけど、全然覚えてない。子どものころせっせと、買えない本を(例えばエロティック・ミステリーとか、実話と雑誌の題についているのとかlololol)立ち読みしてたときに、佐野洋の名前があったんで、翻訳物を読むようになってからは、抵抗値が高かったのかもしれない。
ま、佐野洋にかぎらず、3月4月と体調が崩れて、本の整理をしとかないとやばいとか、読んでない本が残るのは癪だなあと思って、積読の掘り出しをしてなるべく読むようにしていた。読んでみて、やっぱりあかん、合わないと思ったら即捨てるという・・・まあ、そういう歳なんですね。ま、なんとか佐々木味津三は読んだけど、やっぱりこれはしんどかった。佐野と島田はそれなりに読める。というか、小説の構造が今と同じなんですね。佐々木の場合は、うん、やっぱり違う。大きく違う。
三冊の表紙の写真が舞踏派=Cakeaterのブログにアップロードされてるから、リンクを張っておきましょう

佐野洋「片翼飛行」集英社文庫1977年 100円(定価360円)

NWA航空東京支社長付秘書の中内光江が支社長への電話に出ると、「503便の目的地変更を要求する」と日本語で脅迫電話が入るのが事件の発端。当該便のパイロットの愛人を誘拐して、目的地変更をしないなら、その愛人のホステス宮森陽子を殺すというもの。一応、支社長はパイロットとカンパニーラジオ無線で連絡を取り、そんな女は知らないという答えを根拠に犯人の要求を断った。翌朝、光江はホステスの青酸カリ毒死死体が発見されて、名前が宮森陽子と知って、支社長(というよりボスという方が雰囲気がありそうなんだが、佐野はそんな品のなさそうな言い回しはしないんだ。lolol)に報告すると、ボスは沈黙するように要求した。ところが、自殺他殺と決めかねている刑事たちのもとに週刊中央の記者とだけ名乗る男から、NWAに聞き込みに行けという電話が入る。支社長は一切無関係の筋書きで、機長の記者会見までして、知らぬ振りを通して、ついでに光江も解雇されてしまう。
ここから光江の冒険物語が始まる。セスナを5人で共同所有しているアマチュアパイロットの『2Bグループ』という会があって、女子メンバーはオリジナル5の誰かの紹介で加わることになっていた。その女性会員の一人が被害者で、光江は新しい二人目の女性会員になったばかりだった、当然、光江はもう一人の女性会員の名前は知らなかった。ところが、警察の調べがすすむと、NWA航空の関係者とこの2Bグループの人間関係がクモの巣が出来上がっていくようにつながり始め、そのネットに引っかかってこないが、フリーランスの外人記者まで光江の周りにあらわれてくる。光江はその不良外人記者に暴行までされてしまう。さらに2Bクラブ会員の医者が殺され、元NWAのスチューワデス(死語ですね、今では)のアメリカ人が現れたかと思うとアメリカから持ち込んだ最新の軽飛行機を操縦したまま墜落死するわで、佐野洋は読者の推理の焦点を拡散しまくるのです。最後は犯人に誘拐された光江がセスナの操縦を強制される大空のサスペンス活劇(犯人は操縦できないんですlololol)。
本格物ミステリを読むときの定石通りに登場人物メモを作りながら490頁を読んでいくとリストは延々と長くなるだけで、せっかく誰かが死亡してくれて消去法推理の助けになるか思うと、なにせ裏の謎(なぜハイジャックが企てられたのか、被害者殺害動機はなんなのか)がさっぱり読めない。で、読むのを止められない。LOLOLOL
佐野の東大文学部同級生の増田れい子が見事な解説を書いてくれています。
ああ、そういえば、増田さんも去年の暮に亡くなったんですねえ。
彼女はこう解説を結んでいる。
koko---------------------------------------------------kara
一人一人の登場人物に、作者がつまらぬいえこひいきをしていない、一人一人が将棋のコマのようにその一定の役割を負いながらきちんと行為していく、その整然としたコマはこびがまたこころよい。
都会的でスマートな作品である。この作者の特徴として、自然の描写、風景の点描などは一行も出てこない。「人工的なもの以外には興味がない」そうで、それは徹底している。事件が起きてから解決まで、ちょうど八日、季節はいったいいつなのか、登場人物がよくアイスコーヒーをのむから夏──であろう。
koko---------------------------------------------------made
大岡信はまだこの世にあるけど、日野啓三も二人より十年も早く逝ってしまった。そう言えば稲葉三千男さんも日野と同じ年になくなってた。あ、佐野洋の洋は「よう」と読みます。
合掌。

佐々木味津三旗本退屈男春陽文庫 1993年 春陽堂書店250円(定価600円税込み)

1929年4月に「文芸倶楽部」に「旗本退屈男」で現れたと思ったら、1930年10月には映画になってる。サイレント映画時代です。『痛快時代小説』ってジャンルの代表作家です。でも、37歳で過労死してる。。。
時代的には、菊池寛芥川龍之介の時代です。ミステリとしては、「右門捕物帖」の方がまだ、現代感覚で読める読み物だと思うんですが、この旗本退屈男11話(『旗本退屈男』『続旗本退屈男』『後の旗本退屈男』『京へ上がった退屈男』『三河に現れた退屈男』『身延に現れた退屈男」「仙台に現れた退屈男」「日光に現れた退屈男」「江戸に帰った退屈男」「幽霊を買った退屈男」「千代田城へ乗り込んだ退屈男」)、ほとんど地の文で話が進まず、会話文でポンポンと進むとこなんか、ひょっとして超前衛的エンターテインメントなのかも。とにかく、声に出して読むと抜群に楽しい。
「待て、待て、待たぬかッ。うぬも二本指しなら、売られた喧嘩を買わずに、逃げて帰る卑怯者があるかッ。さ!抜けッ、抜けッ。抜かぬかッ」が、最初の脇役で斬られ役の台詞。で、ヒーロー(立役と書くべきかなあ)早乙女主水之介の最初の台詞は、「うろたえて何ごとじゃ」
主水之介は、「そうか、わしが分らぬか。手数をかけさせる下郎共じゃな。では、仕方があるまい。この顔を拝まして使わそうよ」と眉間の三日月形の刀傷を見せると、悪役も江戸っ子ならば、見ただけで相手が悪いと捨て台詞を吐いて逃げ出す。。。というのがお約束。
主水之介をなんと読むかに始る、1920年代日本語の漢字読みってのは面白いものです。筋よりそっちの方がおもしろいです。
読めますか。
1.主水之介 2. 手嗜み 3.大変れ物 4.短檠に 5.身の冥加 6.端役者 7.銀蛇 8.生血 9.右手に擬す 10.逃してつかわす砌 11.不埒な奴よ喃 12.目貫々々の湯屋床屋 13.別嬪 14.藁店 15.隈明り 16.幔幕 17.生欠伸 18.鹿革印伝の煙草入 19. 足手纏 20.大人履き

読めたけど意味がわかんない?かもね。こんなのは簡単という方には、書き取りにしませふか。

21.身の程もわきまえぬ「そはいども」 22.九本の刃を「やらいめじん」に備える 23.がにまた 24.かくさず「ありてい」に申しあげろ 25.一番のご「きりょう」よしじゃとか 26.ふらちもの 27.「だん」が違うわ。急いでそちも地獄へ参れ!28.京見物と「しゃれこみ」ました 29.「あいかた」は、何と言う太夫じゃ 30.「きげんきづま」を取り結ぶ 31.お「だいじ」の品 32.うすひきおんど 33.遠つ「みおや」の昔 34.空はいち面の「いわしなみ」 35.天地自然「げんみょうまかふしぎ」 36.人前も「わきま」えず 37.「かんしゃくすじ」に血脈を打たせ 38.「ぶった」切る 39. 「いんもつ」献上品 40.「きょうくお」く能わない

いや、なんといっても、「喃!」ですね。子どもごころにも覚えているので、聞けばなつかしいんですが、こんな漢字だったかと還暦過ぎて知った。lololol
「ねぇ」は「のぅ」だったんです喃。
解答
1.もんどのすけ 2.てだしなみ 3.おおのたれもの 4.たんけいに みのみょうが 6.はやくもの 7.ぎんだ 8.なまち 9.めてにぎす 10.のがしてつかわすみぎり  11.ふらちなやつよのう 12.めぬきめぬきのゆやとこや 13. べっぴん 14.わらだな 15.くまあかり 16.まんまく 17.なまあくび 18.しかがわいんでんのたばこいれ 19.あしでまとい 20.おとなばき 21.鼠輩共 22. 矢来目陣 23.蟹股 24.有体 25.縹緻 26.不埒者 27. 段 28. 洒落込み 29.敵娼 30.機嫌気褄 31.お大切 32.舂引音頭 33.御祖 34. 鰯波 35.玄妙摩訶不思議 36.弁 37.癇癪筋 38.打った 39.音物 40.恐懼措

島田一男「0番線」徳間文庫 1984年 徳間書店 初出 東都書房 1962年 50円(定価300円)

佐野洋が4代目の日本推理作家協会理事長ですが、島田は3代目です。(2代目は松本清張、初代は江戸川乱歩。ええと、今は確か13代目の・・・・まあ、誰でもいいやlololol)
昔、国鉄だったころ、鉄道公安官という鉄道警察があったんですね。そこら辺はウイキペディアに詳しくかかれてますので、略しましょう。
主人公探偵はその鉄道公安官。東京公安室操作班長海堂次郎、35歳。
(うん、字が細かいなあ。乞食軍団よりさらに字数は多いです。44字の18行。lololol)
旅の始まりは、海堂が東京駅十番線に立って、急行『那智・伊勢』が午後八時ぴったりに出て行くのを見送っているところからはじまる。(ちなみに、多分十番線は「とおばんせん」と鉄道関係者内では読んでるはずです。車庫なんかでアナウンスを聞くときに、「じゅう」と「とお」は聞きやすさが全然違う。でも、お客さんへの案内ではじゅうばん線とアナウンスしてたようなきもする。とおひと番線、とおふた番線とおさん番線・・・・とおなな番線。これがじゅういち番線とじゅうしち番線となるとほとんど割れたスピーカーでは区別がつかない。)  
で、次は十二番線大坂行き急行『第二せっつ』十四番線金沢行き急行『能登』。そこで、海堂班長は『能登』の一等寝台券を拾った。まだ11分あると、海堂は『能登のオロネ』(一等寝台車の型がオロネ二十と呼ばれるB型車だったから、オロネに行くと言えば同僚はそれで分るのですね)に向かう。寝台車について、『寝台ポーイ』を呼んで、寝台券紛失の申し出がなかったかどうかをたずねたが、該当者はいないという。発車ギリギリまで寝台券の持ち主をアナウンスで呼んでみたが誰も現れなかった後、海堂は改めて寝台券を調べたら、薄い鉛筆の走り書きで「助けて・・・・・・殺される・・・・・」とあった。
翌日、海堂は交通公社の切符販売の記録から、券の買主を見つけて(ここらへんが死亡大事故多発時代が過ぎ去ったばかりの鉄道ですね、乗船記録ならぬ、券買記録がちゃんとある。)『中野八幡通りの小杉京子・・・・・・。年齢は二十四歳ですな』を突き止める。乗車券、急行券、寝台券を各二枚ずつ買っていた。申し込みには番地まで書かされていた時代だから、海堂は住所を訪ねていけたのですね。訪問してみれば、豪邸だった。その女性との会話が面白い。
「鉄道公安官て、つまり、鉄道守備兵でしょう?」
「鉄道のおまわりさんといわれたことはたびたびだが、守備兵といわれたことははじめてですよ」
「あたし、満州生まれなの、父が、鉄道守備隊の司令官をしていた時に生れたのよ」
「すると、お父さんは・・・・・」
「もと陸軍中将よ。意味はないわねエ・・・・・。」
ところが、彼女、小杉京子は切符なんか、買ってなかった。
海堂が東京公安室に帰ると、「能登」のオロネのボーイからの連絡メモが待っていた。『席には中国服の女性、東京駅から乗車、大聖寺駅にて下車。』
人名録から京子の父、小杉隆太郎が、新橋アーケード・センター連合会を興して、会長をしていると分った海堂は新橋に聞き込みに出る。そこで、小杉の女がバーのママをしてると聞き込み、その店に出向くと、(流れているのがシャンソンの『枯葉』ってのも時代色ですねえ)留守番の女がママは盛岡へ旅行中と教えてくれているところへ、名前を騙ったのは『ママ』ではないかと小杉京子がバーを訪ねてきた。行き先が盛岡と聞いた京子は二人目の候補者の店、小杉の二人目の女の美容院へ海堂を案内する。美容院のママも伊豆大島へ帰省中だという。
東京へ戻ってきたボーイが公安室をたずねてきて、途中で降りたはずの白い中国服の女性を金沢で見たという証言をする。首を二人でかしげているところに、「ハイカラな中国服の女が新橋近くで、列車から転落死した」という連絡。海堂はボーイをつれて現場へ赴いたら、玉虫色の中国服の女のヒスイの髪飾りがボーイの見た女性と同じだった。女の切符は名古屋から東京だった。
その上、北陸本線と富山山地鉄黒部線のクロス地点でも、中国服の女の死体が見つかる。
典型的な鉄道ミステリのクラッシックです。
アマゾンの中古品では1円でズラズラと出てきます。他の本といっしょにお買いになれば、お買い得のミステリですよ。なんといっても、上質なタイムスリップを味わえます。こういう時、今の地図をGoogle map で見ながら、時刻表も今のを見ながら、のんびりと読むのが、一番。まちがっても、電車の中で読んだりしちゃあいけません。
舞踏派は、他の鉄道公安官シリーズを注文しようかなと思っております。今のミステリにかけているものをじっくりと味わえます。新幹線じゃあね、ましてリニアじゃなあ、電車はゆっくりしてればしてるほど、旅と時間を味わえるというもの。lolololol