Mystery Paradise

元は今はなきアサヒネットのmystery paradise 会議室の分室のつもりだった。haha

船越百恵 「眼球募集家(アイボールコレクター)」光文社 KAPPA NOVELS 2004年 鮎川哲也 「クイーンの色紙」創元推理文庫 2003年 

外は雨、しかも台風まで近づいてるとか会社から電話がかかってきた。現場中止かと思ったら、明日の日曜日よろしくだと。ま、雨の日はブログでも書くからどっちでもよろしい。

◎船越百恵 「眼球募集家(アイボールコレクター)」光文社 KAPPA NOVELS 2004年 105円(857円プラス税)

1978年生まれの船越のデビュー作品。2chのミステリ板あたりでは全く評価されてないようであると、検索してみたらわかった。
ヒロインワトスン役が香月七海巡査。初出動でいきなり、両目玉をくりぬかれた死体に出くわして、ゲロを吐いて現場保存と対極の結果になって、飛ばされたのが猟奇事件特別研究室。そこの室長がヒーローホームズ役の美咲嶺。警官ではなくプロファイラー。
このプロファイラーによるプロファイリングの定義とはこういことらしい。
koko----------------------------------------------------------------kara
何が起こったかということに関するデータを集め、何故それが起こったかということに関して考察し、それらの要素から犯人像を導き出す------言ってみれば何がと何故から誰を導き出す学問(サイエンス)だ。もとも、まだ完全には体系だった形にまとめられているわけではないから、技術(アート)と言った方が正確かもしれないが。
koko----------------------------------------------------------made(p.88).
七海さんが頭をかいてる様子が目に見えそうなくらい、わかりやすくてそのくせ実態不明の説明です。これに続けて美咲はプロファイリングというのは(捜査技術)としては重大な矛盾をもっているとのたまう。
koko----------------------------------------------------------------kara
質量ともに十分な情報を得るためには、犯行が一回限りではなく、何度かなされていることが必要だ。
koko----------------------------------------------------------------maade(p.89)
この定義はかなりにあやしい。プロファイリングというのは、クリミナル・プロファイリングの定義は、「犯罪捜査において、犯罪の性質や特徴から、行動科学的に分析し、犯人の特徴を推論すること。(Wikipedia)」「誰を導き出す」わけではないはずなのだ。また、その犯罪事件がたった一つでも、過去の犯罪事件分類から性質や特徴を比較検討することで、犯人の特徴を確率論として推論できるはずなのだから、本物のプロファイラーならこんなことは言うはずがないと思うのだが、美咲プロファイラーはのたまっているのである。うん、ここらへんがサンドバッグが大好きな2chネラーからほとんど無視に近い叩かれかたをされている理由かなあ。
でも、まあ、ミステリはフィクションですから、何故かオールマイティーに捜査現場へ介入して共同捜査をするわけでもなく、犯罪研究をして犯人を突き止めるような警官外「名探偵」がいる世界ですから、ここらへの御託は笑って見逃すのが粋というもの。
まあ、事件としては、うつ病の有名作曲家の容疑者死亡で一応解決するのだが、この特別研究室の二人だけが真犯人は別にいるとして捜査(どっちかというと調査研究活動ですね)を継続する。真犯人のほうが、七海君を次の犠牲者に選んで近づいてきたおかげで、最後は二人がかりで正当防衛現行犯逮捕してハッピィエンド。(お馬鹿な犯人だなあと思ったけど、今読んでるIan Rankin のBlack and Blue でも同じ趣向が見られる・・・ヒーロー探偵の方にサイコパスコピーキャットが興味もっちゃうんだよね・・・から、うん、そんなに荒唐無稽でもないのだろう)
何故犯人は目玉をくりぬくのか?その動機が新機軸なミステリです。
そこが納得できないと、なんだこの作者は、細部のパクリばかりを寄せ集めてるだけじゃないかと否定することになる。舞踏派は、ん?こういうのマンガで大昔にあった動機みたいな気がするけど文字テクストの物語では新機軸かも、と思うので毎月捨てる本の候補に手にとるものの、なんか引っかかるものがあって手元に残している一冊なのですね。不思議な魅力のミステリです。

鮎川哲也 「クイーンの色紙」創元推理文庫 2003年 600円プラス税

初出の順番で並べなおすと、
「X・X」が1976年、「タウン・ドレスは赤い色」が1980年。「秋色軽井沢」1983年、「クイーンの色紙」1986年、「鎌倉ミステリーガイド」が1987年と、5つの中篇が入っています。探偵役は、現場へは行くことのない、バーテンダー
至れり尽くせりの解説を飯城勇三が書いてまして、鮎川の特徴をこううまくまとめています。
koko-------------------------------------------------------------------kara
戦後の日本の本格ミステリは、トリック至上主義の江戸川乱歩の影響で、新案トリックの品評会になってしまった。その中で、先例のないトリックではなく巧妙な手がかりの案出に力を注ぎ、その手がかりに基づく推理を描くことに冴えを見せた鮎川哲也には、それゆえに孤高のイメージがつきまとった。しかし、これこそがクイーンの目指した本格ミステリなのであり、だからこそ、「鮎川哲也は日本のクイーンだ」と思うファンが数多くいるのである。
koko-------------------------------------------------------------made(P.258)
巧妙なてがかりの部分を紹介して、その解釈と推理からの謎解きは書かないで、あとは読んで下されというのが、ぼくの紹介方法なんですが、手がかりの部分こそが味の中篇作品ばかりだから、まったく紹介しようがない。困った作家です。ほんとにlol
まあ、でも「クイーンの色紙」だけなら、拙文から謎解きをしてしまっても読めないような単純な味の作品じゃないから、これだけは語りましょうか。
実名で鮎川哲也が登場する。エラリークイーンの片割れのフレデリック・ダネイが御夫人と来日したときにサインをもらったという益子田という男のマンションでミステリィリーグ(この固有名詞でニヤリとする人はまさかこんな場末の泡沫ブログなんか読んじゃおるまいな)のパーティがあるからと誘われて行ってみたら、さまざまな作家のサイン色紙が並んでいる壁からエラリー・クイーンの色紙だけが消えていた。ちゃんと鮎川のサインもあったのに。
koko------------------------------------------------------------------kara
わたしの色紙は下段に並んでいるから、小柄な益子田でも容易に手が届く。色紙には「誠」と書いてあるだけであった。なんだか新撰組の旗印みたいだが、誠実に生きるというのはわたしの身上なのである。それに、打ち明けたところを告白すると、字画の多い漢字はわたしの悪筆を誤魔化す上に効果があるのだ。
koko---------------------------------------------------------------made(p.133)
この鮎川プラス誠となると、これはもはやロックンロール。
おっとっとと。。。。脱線したけど、鮎川哲也も鮎川誠も舞踏派にとっては個人的クラッシックなんです。
昔、手直りの角番に追い詰められた舞踏派はルー・リードメタルマシンミュージックをかけて、長考中の碁敵の頭を混乱させてしのいだことがありますが、別にこのリンクにそんな意図はありません
koko--------------------------------------------------------------kara
わたしの色紙だけが金粉入りである。けばけばしく見えるだけに逆に字のへたさ加減が増幅されるような気がした。
koko--------------------------------------------------------------made(p.133)
バーテンダーはここで、真実を見抜いてしまうんですね。
ひょっとして、消えたクイーンは、誰かのサインの裏に入ってるかもしれないと持ち主は目撃者一同の前でチェックにかかる。
koko------------------------------------------------------------kara
彼(益子田)はしゃべりながら壁際の小テーブルから花瓶を床におろすと、外した額をその上にのせて色紙を取り出した。
「ほら、一枚しか入ってない」
益子田がわたしの色紙を大切に扱うのを見てわるい気持ちはしなかった。それはわたしの色紙に限ったものではなく、蟇はすべての色紙を自分自身がチェックして他人には触れさせなかった。汚れた手でいじられて、指紋がついたりすることを彼が嫌っているのは、誰の眼にも明らかだった。しかしうすっぺらな千円札や万円札を数えるのとはわけが違う。厚みのある色紙が相手なのだから、瞳をこらして注視していればそれで充分だった。二枚重なっていたらすぐにわかる。
koko------------------------------------------------------------made(P.134)
謎がわかって再読すると、ここらへんまるで手品芸をみているかのような、言葉の芸を堪能することになります。
とまあ、こんな感じで全然古さを感じさせないのが鮎川作品なんですね。新本では見つけがたいかもしれませんが、古本屋で見つけたら即行でお買いなさってくださいな。